財務諸表論 基礎編
(1)財務諸表と企業活動
1 伝達手段としての財務諸表
会計の定義
会計とは、情報を提供されたものが適切な判断と意思決定ができるように、経済主体の経済活動を記録・測定して伝達する手段を言う。
経済活動は営利を目的とするものとしないものとに分けられ、前者の営利活動を行う典型的な経済単位は企業と呼ばれ、その会計が企業会計と呼ばれる。
企業会計の領域
企業会計には財務会計と管理会計という2つの領域がある。
財務会計とは、株主・債権者等の企業外部の利害関係者に対する会計情報の提供を目的とした会計である。財務会計は、それらの利害関係者の意思決定に役立つ会計情報として、企業の経営成績及び財務状態を明らかにすることを目的とする。利害関係者への報告は損益計算書と貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書を中心とする財務諸表により行われる。
管理会計とは、経営者や経営内部の管理者に対する会計情報の提供を目的とした会計である。それらの利害関係者の経営管理に役立つ会計情報を提供することを目的とする。
2 企業と利害関係者
株主と経営者の利害調整
株式会社において、株主は自己資本の提供者として、その運用を含め、経営の遂行の一切を経営者に委託する。したがって、株主は委託者であり、経営者は受託者である。受託者たる経営者は、委託者たる株主から拠出された資本(受託資本)に対する管理・運用責任(受託責任)を有し、さらに、経営者はその受託資本を管理・運用した結果を株主に報告する責任(会計責任)を有することになるが、これらの責任は損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書等に取りまとめ、報告されることで解除されることとなる。したがって、財務会計は株主と経営者の利害調整機能を有することになる。
株主と債権者の利害調整
株式会社において、株主と債権者はともに企業に対する資金提供者であるが、株主は議決権行使を通じて経営上の意思決定に参加でき、また配当金を取得する一方で、企業倒産時でも出資額を限度とした有限責任で足りる。他方、債権者は利子としての報酬額の上限が固定されている一方で、企業倒産時に元金が回収できない危険をも背負っている。そこで、もし株主が多額の配当を決議すれば、債権者の権利は著しく害される。そのためわが国では、商法において配当可能限度額が貸借対照表に基づいて制限されている。したがって、財務会計は株主と債権者の利害調整機能を有するようになる。
情報提供機能
株式会社は多量の資金調達を必要とするが、その主要な部分は、投資者が証券市場を通じて提供している。したがってその資金調達を円滑にして、経済社会全体を適切に運営するためにも、投資者の証券投資の意思決定に役立つ情報を提供して、彼らを保護する必要が生ずる。そのような情報提供の重要な手段が損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書等である。したがって、財務会計は投資者に対する情報提供機能を有することになる。
3 企業活動と資本循環
資本循環
企業は、株主からの出資と債権者からの借入等によって貨幣を調達し(資本の調達)、これを各種の生産手段や労働力等の購入に充て(資本の投下)、これによって生産された生産物等を外部に販売して再び貨幣を回収する(資本の回収)。このように企業の活動は、財務的には一連の資本循環の過程にほかならず、複式簿記は、この資本循環の過程をとらえる会計的な技術である。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、収益から費用を差し引いた金額として表示する報告書であり、企業の一定期間における経営成績を明らかにするものである。
ここに収益とは、企業の経済活動の成果としての資本の増加原因となる事実をいい、費用とは、成果を得るための努力としての資本の減少の原因となる事実をいう。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、資産と負債・資本を表示する報告書であり、企業の一定時点における財政状態を明らかにするものである。
ここに資産とは、企業資本の運用形態を示すものであり、負債とは株主以外のものから調達した資金をいい、資本とは株主から調達した資金及び企業が稼得した利益の保留額からなり、負債と資本はともに企業資本の調達源泉を示す。
損益計算書と貸借対照表の関係
損益計算書と貸借対照表の関係について、損益計算書を中心にすれば、期末の貸借対照表は、次期に繰り越されるストック項目を収容した連結帯ととらえることができ、また貸借対照表を中心にすれば、損益計算書は期末の貸借対照表に記載された自己資本の変化の原因を表しているととらえることができる。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書とは、企業の一会計期間におけるキャッシュ・フローの状況を報告するために作成する書面である。
(2) 会計主体論
1 会計主体論の発展と背景
会計主体
会計主体とは、会計をどの立場からみるか、あるいは誰の立場から会計が行われているかということである。
今日会計主体論として広く認められているものは、資本主理論、代理人理論、企業主体理論及び企業体理論である。
会計主体論は、資本主理論及び代理人理論から企業主体理論及び企業体理論へと発展してきている。これは、企業がその大規模化とともに社会的な性格を帯びてきた結果である。
2 各論
資本主理論
資本主理論とは、会計の主体を資本主とみるものである。
個人企業においては、この立場がそのまま妥当することが多いが、今日の一般企業形態である株式会社においては、直接的には適合しない。
代理人理論
代理人理論とは、企業とりわけ株式会社について、その特質を株主から拠出された資金を運用するための代理人として機能する組織体と考えるものである。
代理人理論では、株主と経営者との関係をそれぞれ委託者・受託者の関係としてみるものであり、受託責任会計の側面を重視するものである。
企業主体理論
企業主体理論とは、企業を株主や債権者等の利害関係者とは別個の独立した存在といてとらえ、会計の立場も企業それ自体に求めるものである。
企業主体理論は、資本と経営の分離した今日の企業会計において、よく適合するものと考えられるが、企業の持つ社会的制度としての性格が理論の上に反映されていない。
企業体理論
企業体理論とは、企業の独自性を重視しながらも、企業をその社会的責任との関連においてとらえようとするものである。
企業体理論では、企業を各種の利害関係者によって構成される社会的制度としてとらえ、株主や債権者から提供された資本に対し、配当ないし利子のかたちで価値配分を行い、また同様に従業員・経営者・国家等に対しても、それぞれが企業の社会的責任の遂行に貢献しえた度合いに応じて価値配分が行われるものとみなされる。
(3)会計上の利益概念
1 静態論と動態論
貸借対照表の機能に視点をおくと、それは静態論(静的貸借対照表論)と動態論(動的貸借対照表論)とに分類される。
また、この分類は会計目的観の相違でもある。
静態論
静態論会計では、会計の目的を一定時点における企業の財産状態表示におき、貸借対照表の基本機能をそこに求める。
企業の経済的基盤が弱く、企業の継続性が一般的適合性を持たない状況のもとでは、企業に対する出資者や債権者の中心的な関心は出資額及び債権額の回収力におかれる。したがって、企業の財産状態を表示する貸借対照表の作成に会計の重点がおかれる。
静態論会計のもとでは、資産の能力は財産価値の存在に、評価は売却時価にそれぞれ求められ、また負債は法的確定債務に求められる。
動態論
動態論会計では、会計の目的を一定期間における企業の収益力表示(経営成績)におき、貸借対照表の基本機能も損益計算の手段としてのそれに求める。
企業の経済的基盤が堅実化し、企業の継続性が一般的適合性を持つ状況のもとでは、投資者を中心とした利害関係者の中心的な関心は企業の収益力におかれる。そこで、貸借対照表は損益計算の手段として、期間損益計算における収支計算との期間的なズレとしての未解消項目の収容の場とされるのである。
2 財産法と損益法
損益(利益)計算の方法に視点をおくと、それは財産法と損益法とに分類される。
財産法
財産法とは、実地調査に基づいて決定された資産・負債の差額としての期末資本実在高(期末純財産額)から期首資本実在高(期首純財産額)を差し引くことで期間損益を計算する方法である。
財産法は、それが実地調査によるものであるため利益の財産的な裏付けを示すが、会計帳簿によるものではないため利益の発生原因を示さない。
損益法
損益法とは収益から費用を差し引くことで期間損益を計算する方法である。
損益法は、それが会計帳簿によるものであるため利益の発生原因を示すが、実地調査によるものではないため利益の財産的な裏図けを示さない。
3 現金主義会計と発生主義会計
費用・収益の認識方法に視点をおくと、それは現金主義会計と発生主義会計とに分類される。
現金主義会計
現金主義会計とは、収益は現金収入時において、費用は現金支出時にそれぞれ認識する損益計算方式をいう。
現金主義会計は、客観性を有するが、信用取引がほとんど行なわれておらず、また棚卸資産の期末在庫や固定設備資産が存在しない場合でなければ、企業の正確な損益計算は行えない。
発生主義会計
発生主義会計とは、収益・費用の認識を現金収支という事実にとらわれず、合理的な期間帰属を通じて期間業績を反映させる損益計算の方式をいう。
発生主義会計は、信用取引きが行われ、また棚卸資産の期末在庫や固定設備資産が存在する現代の一般的企業の正確な損益計算のために採用される。
4 原価主義会計と時価主義会計
損益計算書及び貸借対照表項目の測定基準に視点をおくと、それは原価主義会計と時価主義会計とに分類される。
原価主義会計
原価主義会計とは、費用の測定及び資産の評価を原価で行い、貨幣価値の変動を考慮しない会計の体系をいう。
原価主義会計は支出額により測定がされるため、客観性が高く、制度会計においても採用されている。しかし、物価変動時においては、その影響を財務諸表に的確に反映することができない。
時価主義会計
時価主義会計とは、費用の測定及び資産の評価を時価で行い、貨幣価値の変動を考慮する会計の体系をいう。
時価主義会計は時価の変動を会計計算に採り入れるため、物価変動時においては、その影響を財務諸表に的確に反映することができる。しかし、実務上時価の算定が困難であることなどにより、制度会計においては全面的には採用されていない。
5 棚卸法と誘導法
財務諸表の作成方法に視点をおくと、それは棚卸法(財産目録法)と誘導法とに分類される。
棚卸法
棚卸法(財産目録法)とは、資産及び負債を実地調査し、その結果を列挙した財産目録に基づいて貸借対照表を作成する方法をいう。
棚卸法は、資産及び負債の実地調査を基礎とする点で、損益計算方法としての財産法と関連を有する。
誘導法
誘導法とは、複式簿記の記録を基礎として作成された会計帳簿に基づいて、損益計算書や貸借対照表を作成する方法をいう。
誘導法は、複式簿記の記録を基礎とする点で、損益計算方法としての損益法と関連を有す。
6 当期業績主義と包括主義
損益計算書に表示すべき企業利益の本質観として、当期業績主義と包括主義とがある。
当期業績主義
当期業績主義とは、損益計算書における利益を企業の業績表示利益に求め、企業の正常な経営活動にともない毎期反復的に生ずる収益・費用のみを損益計算書に示そうとするものである。したがって、臨時損益及び前期損益修正項目は損益計算書には収容されない。
包括主義
包括主義とは、損益計算書における利益を企業の処分可能利益に求め、企業の正常な経営活動にともない毎期反復的に生ずる収益・費用のみならず、臨時損益及び前期損益修正項目を含めたすべての収益・費用を損益計算書に示そうとするものである。
(4)損益会計の目的と制度
1 証券取引法会計
証券取引法会計とは、投資者保護を目的として、昭和23年に制定された証券取引法の規制のもとに行なわれる会計をいう。
証券取引法にしたがって作成される財務諸表は、その処理において企業会計原則に基づき、その表示において財務諸表等規則にしたがって作成され、その財務諸表は大蔵大臣に提出さるとともにその写しを証券取引所又は証券業協会に提出する。また、財務諸表をそれらに提出するに当たっては、公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならない。
2 企業会計原則
設定目的
企業会計原則は、証券取引法を根拠法として、我が国の企業会計制度の改善統一を目的として、昭和24年に設定された。
性格
1
企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであること。
2
証券取引法に基づく財務諸表監査の基準となること。
3
企業会計諸法令の制定改廃に当たり尊重されなければならないこと。
1にあるように、企業会計原則は会計慣習をその形成母体としているところから、実践規範としての性格と、その公正妥当性の根拠を有さなければならないことから、理論規範としての性格とを併せ持つ。
計算原理
企業会計原則は、投資者を中心とした利害関係者に対する企業の収益力表示にその基本目的がおかれる。
なお、ここで言う収益力とは、現行会計制度における利益の本質が処分可能利益であることから、投下資本(原価)を期間的に回収(実現)した余剰を計算する枠内における収益力表示を指す。
企業会計原則の体系
企業会計原則は、一般原則・損益計算書及び貸借対照表原則からなる本文と、これらに対する注解とから構成されている。
一般原則は、会計の全般にかかわる包括的基本原則であり、損益計算書及び貸借対照表原則は、損益計算書又は貸借対照表を作成する際の具体的な処理表示の規定である。また注解は、企業会計原則本文の特定事項についての補足的説明事項である。
企業会計原則の財務諸表
1
損益計算書
2
貸借対照表
3
財務諸表附属明細表
4
利益処分計算書
3 商法会計
概要
商法会計とは、債権者保護を目的として、明治32年に制定された商法の規制のもとに行われる会計をいう。
商法にしたがって作成される計算書類は、処理規定は商法に基づき、表示規定は計算書類規則にしたがって作成され、その計算書類は定時株主総会に提出する。また、計算書類を定時株主総会に提出するに当たっては、監査役の監査(大会社にあたっては監査役の監査及び会計監査人の監査)を受けなければならない。
目的
株式会社は、株主から出資を受け、それを管理・運用する組織体であり、株主は出資を限度とする有限責任を有するにすぎない。したがって、会社債権者に対する担保は会社資産だけであり、この担保資産を確保することが商法会計における主たる会計目的とされる。
商法会計の体系
商法会計の体系は、商人一般に適用される会計規定と株式会社に適用される会計規定から構成されている。
商人一般に適用される会計規定は商法中の総則規定として定められており、株式会社に適用される会計規定は商法中の会社の計算規定として定められている。また、株式会社に適用される会計規定として、法務省令としての計算書類規則がある。
商法における計算書類
1
貸借対照表
2
損益計算書
3
営業報告書
4
利益の処分又は損失の処理に関する議案
5
附属明細書
計算原理
1
株主保護のための受託資本の管理・運用状況の開示
2
債権者保護のための債権担保力の保全
1の課題は、計算書類規則を通じて実現され、また2のかだいは最終的には配当利益の限度額計算規定に集約される。
4 税務会計
税務会計とは、課税の公平を基本理念とする税法の規定に従い課税所得を計算するための会計である。
法人税法においては、課税物件を所得に求め、法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額であるとしている。そして各事業年度の所得に対する法人税について納税義務のある法人は税務署長に対し、確定した決算に基づき確定申告書を提出しなければならない。したがって、税務会計は企業会計の上に成り立つ会計領域であるが、税法特有の諸要請により企業利益(当期利益)と異なる額を課税所得とする体系となっている。
(5)会計公準
会計公準とは、会計が行われるための基礎的前提をいい、上部たる会計手続き、中間構造たる会計原則に対して、下部構造を形成するものである。
今日会計公準として広く認められているものは、、企業実態の公準、継続企業の公準、貨幣的測定の公準である。
1 企業実態の公準
企業実態の公準とは、出資を受けた企業が出資者から独立して、企業に関するものだけを記録・計算するという前提である。
この公準により、個人企業における家計と企業会計の分離が可能となり、かつ、複式簿記そのものが成立する。
2 継続企業の公準
継続企業の公準とは、企業が解散や倒産などの事態を予定することなく、事業を継続的に行っていくという前提である。
この公準により、継続企業のもとでは、人為的に区切った一定の会計期間を設定し、定期的に利害関係者に会計情報を報告するという制度が確立される。
3 貨幣的測定の公準
貨幣的測定の公準とは、会計行為たる記録・測定及び伝達のすべてが、貨幣額によって行われるという前提である。
この公準により、企業に属する種々雑多な財貨も、統一的に記録・測定・伝達することが可能となる。
(6)一般原則
1 性格と構成
性格
企業会計原則の一般原則は、会計全般に関わる包括的基本原則である。
構成
1
真実性の原則
2
正規の簿記の原則
3
資本・利益区分の原則
4
明瞭性の原則
5
継続性の原則
6
保守主義の原則
7
単一性の原則
2 真実性の原則
規定(一般原則、一)
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
位置付け
真実性の原則は、企業会計の最高規範として位置付けられる。
真実性の原則を除く他の一般原則と損益計算書原則及び貸借対照表原則は、ここにいう真実の内容を明確にするとともに、その範囲を限定するものである。このことはつまり、他の一般原則と損益計算書原則及び貸借対照表原則が守られているときは、その財務諸表は真実であると解されることになる。
意味
真実性に原則でいうところの真実とは、相対的真実を意味する。
今日の会計では、永続する企業活動を一定期間ごとに区切って損益計算するため、多くの事項について主観的な見積りが含まれている。また、一つの取引につき、複数の会計処理方法が認められている場合があり、採用する方法により損益計算結果は異なってくる。しかしそれらの会計が、一般に公正妥当と認められる会計原則に従って行われるとき、その結果は真実なものとみなされることになる。
3 正規の簿記の原則
規定(一般原則、二)
企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
内容
正規の簿記の原則は、第1に一定の要件に従った正確な会計帳簿を作成すること、そして第2にこの正確な会計帳簿を基礎にして誘導法により財務諸表を作成することの2つを要求する原則である。
ここにいう一定の要件に従った会計帳簿とは、網羅性(企業の経済活動のすべてが記録されていること)、立証性(会計記録が、検証可能な証拠資料に基づいていること)、秩序性(すべての記録が継続的、組織的に行われること)を備えたものをいい、一般に複式簿記による会計帳簿がこれに該当する。
正規の簿記の原則と重要性の原則との関係
貸借対照表には、決算日におけるすべての資産及び負債を記載しなければならないため、簿外資産又は簿外負債は本来認められない。しかし、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な方法にかえて簡便な方法によった結果、簿外資産又は簿外負債が生じても、それは正規の簿記の原則にしたがって処理されたものとみなされる。
商法と正規の簿記の原則(商法32・33条)
商法においては、開業の時及び毎期決算における営業上の財産及びその価額、期中における取引につきこれを会計帳簿に整然かつ明瞭に記載すべきことを要求するとともに、当該会計帳簿に基づき貸借対照表を作成すべきことを定めており、商法上も正規の簿記の原則に相当する規定があるものと考えられる。
4 資本・利益区別の原則(資本取引・損益取引区別の原則)
規定(一般原則、三)
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
注記(注解・注2) 資本取引と損益取引との区別について
(1)資本剰余金は、資本取引から生じた剰余金であり、利益剰余金は損益取引から生じた剰余金、すなわち利益の留保額であるから、両者が混同されると、企業の財政状態及び経営成績が適正に示されないことになる。従って、例えば、新株発行による株式払込剰余金から新株発行費用を控除することは許されない。
資本取引・損益取引の定義
資本取引とは、期首自己資本そのものの増減取引をいい、資本金及び資本剰余金に増減変化をもたらす取引をいう。
損益取引とは、期首自己資本の利用の結果生ずる自己資本増殖分としての利益を生み出すもととなる取引をいい、収益取引と費用取引とからなる。
資本取引・損益取引の区別の必要性
期間利益は自己資本の増加分であるが、出資者の追加出資等の資本取引によって期末に自己資本が増加していても、それは期間利益の獲得を意味してはいない。つまり、期間利益は損益取引から生じた自己資本の増加分だけに限定されるべきことになる。したがって、期間損益の適正化のためには、資本取引と損益取引とを区別する必要がある。
資本剰余金・利益剰余金の定義
資本剰余金とは、資本取引から生じた剰余金であり、払い込み剰余金、贈与剰余金及び評価替剰余金からなる。
利益剰余金とは、損益取引から生じた剰余金であり、利益の留保額をいう。
資本剰余金・利益剰余金の区別の必要性
資本剰余金は、資本金と同様元本として企業内部に維持拘束すべきもの(維持拘束性)であり、外部に流出処分してはならないものである。
利益剰余金は、果実として処分性を有するもの(処分可能性)である。
したがって、性格の異なる両者を混同した場合、財務諸表は適正な財政状態および経営成績を示さなくなり、特に資本を利益と混同すれば、資本の一部が配当や法人税等の形で企業外に流出し、継続企業としての維持が保てなくなるために両者を区別する必要がある。
5 明瞭性の原則
規定(一般原則、四)
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
必要性
今日における資本と経営の分離による不在投資家の発生、企業の大規模化に伴う利害関係者の種類の多様化及び増加を背景とし、企業が公表する財務諸表はそれら利害関係者に対する必要不可欠な情報手段となり、必要な会計事実をその財務諸表を通じて明瞭に開示するために明瞭性の原則は必要とされる。
明瞭性表示のための具体的方法
1 区分表示
損益計算書や貸借対照表を作成する場合、単純に勘定科目を羅列するのではなく、一定の基準に従った区分表示をすべきこととなる。
2 総額表示
損益計算書や貸借対照表を作成する場合、損益計算書であれば収益項目と費用項目との相殺を禁じ、貸借対照表であれば資産項目と負債・資本項目との相殺は禁じられている。
3 項目設定の概観性
財務諸表は、企業の経営成績や財政状態についての概要把握を必要とする利害関係者に対し作成されるものであるため、損益計算書や貸借対照表は詳細に過ぎるよりも、むしろ概観性を与えることが必要になる。
4 注記
注記とは、財務諸表に付せられた財務諸表本文に対する補足説明であり、会計方針に関するもの、後発事象に関するものとそれ以外のものからなる。
5 附属明細表
附属明細表とは、損益計算書や貸借対照表の重要な項目についての明細表であり、財務諸表の一つである。3で示したように、損益計算書や貸借対照表それ自体は概観性を与えられる一方で、それを補足するための細目表示のために作成される。
注記
1 重要な会計方針
注解・注1−2 重要な会計方針の開示について
財務諸表には、重要な会計方針を注記しなければならない。
会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続き並びに表示方法を言う。
会計方針の例としては、次のようなものがある。
イ 有価証券の評価基準及び評価方法
ロ たな卸資産の評価基準及び評価方法
ハ 固定資産の減価償却方法
ニ 繰延資産の処理方法
ホ 外貨建資産・負債の本邦通貨への換算基準
へ 引当金の計上基準
ト 費用・収益の計上基準
代替的な会計基準が認められない場合には、会計方針の注記を省略することができる。
1つの会計事実について2つ以上の方法が認められている場合、どの方法をとるかによって損益の額等が異なるため、財務諸表が作成された前提又は基礎を明らかにすることによってその理解を助けるのである。
2 重要な後発事象
注解・注1−3 重要な後発事象の開示について
財務諸表には、損益計算書及び貸借対照表を作成する日までに発生した重要な後発事象を注記しなければならない。
後発事象とは、貸借対照表日後に発生した事象で、次期以後の財務状態及び経営成績に影響を及ぼすものをいう。
重要な後発事象を注記事項として開示することは、当該企業の将来の財政状態及び経営成績を理解するための補足情報として有用である。
重要な後発事象の例としては、次にようなものがある。
イ 火災、出水等による重大な損害の発生
ロ 多額の増資又は減資及び多額の社債の発行又は繰上償還
ハ 会社の合併、重要な営業の譲渡又は譲受
ニ 重要な係争事件の発生又は解決
ホ 主要な取引先の倒産
3 注記事項の記載方法
注解・注1−4 注記事項の記載方法について
重要な会計方法にかかる注記事項は、損益計算書及び貸借対照表の次にまとめて記載する。なお、その他の注記事項についても、重要な会計方針の注記の次に記載することができる。
明瞭性の原則と重要性の原則との関係
明瞭性の原則は重要性の原則と密接な関係を持つ。
利益操作に用いられる可能性の大きい仮勘定は、その内容を表す適当な科目で表示し、また、親会社・子会社等に対する債権・債務も、相対的危険が大きい科目として、特別な科目を設けて表示するかまたは注記の方法によってその内容を明瞭に示すことが要請される。
これに対し、重要性の乏しいものは、区分、配列、または科目の表示に当たって、厳密な取扱いをしなくても明瞭性の原則に反するものとはみなされない。
継続性の原則
規定(一般原則、五)
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
注解・注3 継続性の原則について
企業会計上継続性が問題とされるのは、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の原則又は手続の選択適用が認められている場合である。
このような場合に、企業が選択した会計処理の原則及び手続を毎期継続して適用しないときは、同一の会計事実について異なる利益額が算出されることになり、財務諸表の期間比較を困難にならしめ、この結果、企業の財務内容に関する利害関係者の判断を誤らしめることになる。
従って、いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない。
なお、正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。
前提
継続性が問題とされるのは、一つの会計事実について二つ以上の会計処理の原則又は手続の選択適用が認められている場合であり、このことが継続性の原則の前提となっている。
一つの会計事実について二つ以上に会計処理に原則又は手続が存在する理由は、企業は業種・業態等において多様であることから、画一的な会計処理の原則又は手続を設けて、その適用を強制することは企業の実情を適切に反映しなくなる点にある。
必要性
企業が選択した会計処理の原則及び手続を毎期継続して適用しないときは、当該企業の財政状態及び経営成績についての期間比較が困難になり、さらには経営者がそれを利益操作の手段として濫用する可能性を生じる。したがって、財務諸表の期間比較性の確保及び経営者の利益操作の排除のため、継続性の原則は必要とされる。
会計処理の原則又は手続の変更
いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない。
正当な利用としては、次のような場合があげられる。
1
取扱品目の変更、経営組織の変更等、企業の大規模な経営方針の変更
2
急激な貨幣価値の変動
3
関連法令等の改廃
正当な理由によって、会計処理の原則又は手続に重要な変更を加えたときは、これを当該財務諸表に注記しなければならない。
商法と継続性の原則(商281条ノ3 2項5号・計算書類規則46条2号)
商法においては継続性の原則について直接的な規定がなされていないが、会計方針を変更した時は、附属明細書にその変更の理由を記載すべきこととし、また、監査報告書において会計方針の変更における相当な理由の有無についての記載が要求されていることから、商法上も継続性の原則が要求されていると考えられる。
保守主義の原則
規定(一般原則、六)
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
注解・注4 保守主義の原則について
企業会計は、予測される将来の危険に備えて慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。
必要性
資本主義経済における企業は、経済競争の場におかれ、絶えず危険にさらされている事から、慎重な判断に基づく会計処理を行わなければ財務的健全性を保つことができないという実務上の要請により、保守主義の原則は必要とされる。
保守的な会計処理
保守的な会計処理とは、収益はできるだけ確実なものだけを計上し、費用・損失は細大もらさず計上することによって、利益をできるだけひかえめに計算し、資金の社外流出を防ごうとするものである。
1
棚卸資産及び有価証券における低価基準の採用
2
貨幣価値下落時の棚卸資産評価における後入先出法の採用
3
減価償却における定率法の採用
4
割賦販売収益の認識における回収基準・回収期限到来基準の採用
過度に保守的な会計処理
保守主義の原則における保守的な会計処理は、認められた会計処理の中で、最も健全な方法を適用するものであり、過度に保守的な会計処理を行うことは、利益を隠蔽し、秘密積立金を生じることになり、認められるものではない。
単一性の原則
規定(一般原則、七)
株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の表示をゆがめてはならない。
単一の意味
単一性の原則における単一とは、財務諸表を、その提出先より異なる形式で作成しなければならない場合であっても、その記載内容は単一の信頼しうる会計記録に基づいていなければならないという、実質一元形式多元を要請するものである。
この原則に従うことにより、いわゆる二重帳簿の作成は排除されることになる。
重要性の原則
規定(注解・注1 重要性の原則の適用について
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業に財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害調整の判断を誤らせないようにすることであるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の2側面
重要性の原則は、重要性の乏しいものについての簡便な処理表示を容認する原則という側面と、重要性の高いものについての厳密な表示を要請する原則という側面を有する。
省略容認原則としての重要性の原則の意味
重要性の原則は、重要性の乏しいものについての簡便な処理表示を容認するものであるが、これは実務上の便宜性に基づくものである。
重要性が乏しいものとは、利害関係者に対する会計報告の有用性に支障をきたさないものをいう。
省略容認原則としての重要性の原則の適用
1 処理面における適用
(注解・注1 重要性の原則の適用について)
1
消耗品、消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。
2 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
3 引当金のうち、重要性の乏しいものについては、計上しないことができる。
4 たな卸資産の取得原価に含められる引取費用、関税、買入事務費、移管費、保管費等の付随費用のうち、重要性の乏しいものについては、取得原価に算入しないことができる。
重要性が乏しいものについては、簡便な処理が認められるが、その処理によった場合には、簿外資産又は簿外負債が生ずることになる。この場合の簿外資産又や簿外負債は、貸借対照表完全性の原則の例外として認められる。
2 表示における適用
(注解・注1 重要性の原則の適用について)
5 分割返済の定めのある長期の債権又は債務のうち、期限が1年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては、固定資産又は固定負債として表示することができる。
(7)損益計算書論
損益計算書の本質
規定(損益計算書原則、一)
損益計算書は、企業の経営成績を明らかにするため、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用とを記録して経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければならない。
損益計算書
損益計算書は、収益から費用を差し引いた金額を利益として表示する報告書であり、企業の一定期間における経営成績を明らかにするものである。
ここに収益とは、企業の経済活動の成果としての資本増加の原因となる事実をいい、費用とは、成果を得るための努力としての資本減少の原因となる事実をいう。
費用収益対応の原則
費用の認識には、発生主義の原則が採用されるが、期間損益計算のために期間収益から差し引かれる期間費用は、費用収益対応の原則により決定される。
定義
費用収益対応の原則とは、期間収益と期間費用とを対比して把握し、その結果としての利益を計算することを要求する原則である。
役割
まず、実現主義の原則により期間収益を決定し、次に発生主義の原則により認識された費用の中から費用収益対応の原則により期間費用となるものを決定する。したがって、費用収益対応の原則は、期間費用を決定する役割を有する。
費用と収益の対応関係
費用と収益の対応とは、商品・製品などの売上収益を基本として行われるが、この場合の対応には、個別的対応によるものと期間的対応によるものとがある。
個別的対応
個別的対応とは、売上高と売上原価のように、その収益と費用とが商品又は製品を媒介とする直接的な対応である。
期間的対応
期間的対応とは、売上高と販売費及び一般管理費のように、会計期間だけを媒介とする間接的な対応である。
損益計算の基本原則
規定(損益計算書原則、一のA)
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。
(注解・注5 経過勘定項目について)
1
前払費用
前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。
2 前受収益
前受収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合、いまだ提供していない役務に対し支払いを受けた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の収益となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。また、前受収益は、かかる役務提供契約以外の契約等による前受金とは区別しなければならない。
3 未払費用
未払費用は、一定の契約に従い、継続して役務を受ける場合、すでに提供された役務に対してはまだその対価の支払いが終わらないものをいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過に伴いすでに当期の費用として発生しているものであるから、これを当期の損益計算に計上するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。また、未払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による未払金とは区別しなければならない。
4 未収収益
未収収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合、すでに提供した役務に対していまだその対価の支払いを受けていないものをいう。従って、このような役務に対する対価は時間の経過に伴いすでに当期に収益として発生しているものであるから、これを当期の損益計算に計上するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、未収収益は、かかる役務提供契約以外の契約等による未収収益とは区別しなければならない。
収益の認識原則
収益の認識には、原則として実現主義の原則が採用される。
実現主義の定義
実現主義とは、収益を実現の時点で認識することをいう。
ここに実現とは、財貨又は役務の移転と、これに対する現金又は現金等価物(手形・売掛金等)の取得を指す。
実現の時点は、財貨又は役務が外部に販売されたという事実に求められるので、実現主義は具体的には販売基準として適用される。
実現主義の採用根拠
制度会計上、利益については処分可能性が考慮されなければならず、販売の事実によって、収益とそこからもたらされる利益に貨幣性資産の裏付けが得られるため、実現主義が採用される。
また、実現の時点、すなわち販売の事実によって、収益として計上しうる額が確実になるため採用される。
費用の認識原則
費用の認識には、発生主義の原則が採用される。
発生主義の定義
発生主義とは、費用を発生の事実に基づき認識することをいう。
ここに費用の発生とは、財貨又は役務の価値減少を指す。
費用の発生には、財貨又は役務の価値減少事実の発生と、財貨または役務の価値減少原因事実の発生とがある。
発生主義の採用根拠
制度会計における、投下資本の期間的回収余剰計算の結果としての分配可能利益の計算の枠内において、できるだけ期間的な経営成績を反映させるため、発生主義が採用される。
収益・費用の測定原則
収益・費用の測定には、収支基準が採用される。
収支基準の定義
収支基準とは、収益を収入額、費用を支出額に基づき測定する基準である。
この場合の収入額・支出額は、当期の収入額・支出額のみならず、過去及び将来の収入額・支出額をも含む。
収支基準の採用根拠
取引の事実によって、収益・費用の測定の確実性が確保されるため、収支基準が採用される。
(8)収益認識の具体的適用基準
各種販売形態と収益認識の具体的適用基準(実現主義の具体的適用基準)
規定(損益計算書原則、三のB)
売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積もり、これを当期の損益計算書に計上することができる。
一般販売(現金販売・信用販売)
一般販売の収益認識には、商品等の引渡し時点によって収益を計上する販売基準が採用される。
委託販売
(注解・注6 実現主義の適用について(1)委託販売)
委託販売については、受託者が委託品を販売した日を持って売上収益の実現の日とする。従って、決算手続中に仕切精算書(売上計算書)が到達すること等により決算日までに販売された事実が明らかとなったものについては、これを当期の売上収益に計上しなければならない。ただし、仕切精算書が販売のつど送付されている場合には、当該仕切精算書が到達した日をもって売上収益の実現の日とみなすことができる。
委託販売の収益認識には、原則として受託者が委託品を販売した日に認識する販売基準、例外として仕切計算書到達日基準が採用される。
原則として販売基準が採用されるのは、委託品が受託者によって売却済みとならない限り、その所有権は委託者にあるためである。
例外として仕切計算書到達日基準が採用されるのは、仕切清算書が販売の都度送付されていることを条件とすることで、恣意性介入の排除をしたうえで、実務上の便宜性を図るためである。
試用販売
(注解・注6 実現主義の適用について(2)試用販売)
試用販売については、得意先が買取りの意思を表示することによって売上が実現するのであるから、それまでは、当期の売上高に計上してはならない。
試用販売の収益認識には、得意先が買取りの意思を表示した時点に認識する販売基準が採用される。
販売基準が採用されるのは、得意先に商品等を引き渡しただけでは販売行為は成立せず、得意先が買取りの意思を表示した時点で始めて販売行為が成立するためである。
予約販売
(注解・注6 実現主義の適用について(3)予約販売
予約販売については、予約金受取額のうち、決算日までに商品の引渡し又は役務の給付が完了した分だけを当期の売上高に計上し、残額は貸借対照表の負債の部に記載して次期以降に繰延べなければならない。
予約販売の収益認識には、予約金受取額のうち、決算日までに商品の引渡し又は役務の給付が完了した分を当期の売上高に計上する販売基準が採用される。
販売基準が採用されるのは、商品等の対価が受領されていても、その引渡し等がなされなければ販売行為は成立せず、商品の引渡し等が完了した時点ではじめて販売行為が成立するためである。
割賦販売
(注解・注6 実現主義の適用について(4)割賦販売
割賦販売については、商品等を引渡した日をもって売上収益の実現の日とする。
しかし、割賦販売は通常の販売と異なり、その代金回収の期間が長期にわたり、かつ、分割払いであることから代金回収の危険率が高いので、貸倒引当金および代金回収費、アフター・サービス費等の引当金の計上について特別の配慮を要するが、その算定にあたっては、不確実性と煩雑さとを伴う場合が多い。従って、収益の認識を慎重に行うため、販売基準に代えて、割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日をもって売上収益実現の日とすることも認められる。
割賦販売の収益認識には、原則として商品等を引渡した日に認識する販売基準、例外として割賦金の回収期限の到来の日に認識する回収期限到来基準又は入金の日に認識する回収基準が採用される。
原則として販売基準が採用されるのは、割賦販売の場合においても商品等の引渡しによって販売行為が成立するためである。
例外として回収期限到来基準又は回収基準が採用されるのは、代金回収の期間が長期にわたり、かつ、分割払であること等の割賦販売の特殊性にため、費用収益対応に原則及び保守主義の原則を根拠とすることによる。
長期請負工事
(注解・注7 工事収益について)
長期の請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用することができる。
(1)工事進行基準
決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって工事収益の一部を当期の損益計算に計上する。
(2)工事完成基準
工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益を計上する。
長期請負工事の収益認識には、工事進行基準または工事完成基準のいずれかが採用される。
工事進行基準が採用されるのは、長期請負工事では契約によって収益の獲得が保証されているため完成引渡しまで収益の認識を繰延べる理由がないこと、期間業績判定の観点からは完成引渡しの期まで利益を計上しない工事完成基準には問題があるためである。
工事完成基準は、商品等の販売における販売基準と同質のものである。
農鉱生産物
公定価格のある農産物、金銀等の安定した市場が存在する鉱産物についてに収益認識には生産基準の採用が認められている。
生産基準とは、生産した段階すなわち農産物については収穫時点で、鉱産物については採掘時点で収益を認識する基準であり、農産物の場合は収穫基準ともよばれる。
生産基準が採用されるのは、これらの農産物や鉱産物については特定の価格による収益の獲得が保証されているため販売ないし引渡しまで収益を繰延べる理由がないこと、販売基準を採用した場合において未販売分の期末棚卸資産の原価計算による評価が困難であるためである。
契約に基づく継続した役務提供収益
資金の貸付や不動産の賃貸に係る役務提供収益についての収益認識には、時間基準が採用される。
時間基準とは、役務に対する時間の経過にもとづき収益を認識する基準である。
時間基準が認められるは、これらの役務提供については契約によって継続して役務の提供を行うことから収益の獲得が保証されているためである。
自由職業者の役務提供収益
弁護士・税理士・医師等の自由職業者の役務提供収益についての収益認識には、入金基準の採用が認められている。
入金基準とは、現金を入金した時点で収益を認識する基準である。
入金基準が採用されるのは、ある期間に提供した役務量を客観的に認識することが困難なためである。
(9)損益会計の個別論点
内部利益
(損益計算書原則、三のE)
同一企業の各経営部門の間における商品等の移転によって発生した内部利益は、売上高及び売上原価を算定するに当たって除去しなければならない。
(注解・注11 内部利益とその控除の方法について)
内部利益とは、原則として、本店、支店、事業部等の企業内部における独立した会計単位相互間の内部取引から生ずる未実現の利益をいう.。従って、会計単位内部における原材料、半製品等の振替から生ずる振替損益は内部利益ではない.。
内部利益の除去は、本支店等の合併損益計算書において売上高から内部売上高を控除し、仕入高(又は売上原価)から内部仕入高(又は内部売上原価)を控除するとともに、期末たな卸高から内部利益の額を控除する方法による.。これらの控除に際しては、合理的な見積概算額によることも差支えない.。
企業内における本店・支店・工場等の部門を独立会計単位とし、それら部門間での商品等の移転に際し一定の利益を加算した内部振替価格で記録を行い、これをもとに部門ごとの活動の成果を把握し、経営管理に役立てようとすることがある。このような場合に、その商品等が外部に対し未販売のまま残存するとき、その商品等の金額には未実現利益が含まれることになり、これを内部利益という。
内部利益は未実現の利益であることから、実現主義の原則に従って除去されなければならない。
販売費及び一般管理費
(損益計算書原則、三のF)
営業利益は、売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して表示する。販売費及び一般管理費は、適当な科目に分類して営業損益計算の区分に記載し、これを売上原価及び期末たな卸高に算入してはならない。ただし、長期の請負工事については、販売費及び一般管理費を適当な比率で請負工事に配分し、売上原価及び期末たな卸高に算入することができる。
販売費及び一般管理費は、売上高との対応関係が会計期間だけを媒介とする間接的な対応であり、また販売量の増減と関係なく発生する一種の固定費と考えられるため、期間費用として処理される。
長期請負工事における販売費及び一般管理費を期間費用として処理すると、特に収益認識基準に工事完成基準を採用する場合には、工事収益との合理的な期間対応が図れなくなることから、これを売上原価及び期末たな卸し高に算入することができる。
現金割引(仕入割引・売上割引)
現金割引とは、商品等を信用販売した結果生じる売掛金又は買掛金を、決済期日前に決済することによる代金の一部減免をいう。
現金割引については、これを財務上の損益とみる説と売上・仕入の控除項目とみる説とがある。
財務上の損益とみる説は、信用取引の売買価額と現金取引のそれとの差が金利分であると考え、売買取引を営業取引、代金決済取引を財務取引と、両者を区分して考えるものである。
売上・仕入の控除項目とみる説は、現金取引価額こそが売上・仕入の金額であると考え、代金の一部減免という点では値引と同様と考えるものである。
我が国では、制度上、財務上の損益とみる説が採られている。
法人税等
法人税等は、損益計算上の費用に計上されない税金であり、法人税・住民税・事業税からなる。
法人税については、これを費用とみる説と、利益処分項目とみる説とがある。
費用とみる説は、企業活動は国家の社会的・経済的秩序の維持を前提に行われるものであり、法人税の支出がそのような国家サービスの対価であると考えるものである。
利益処分項目とみる説は、法人税が費用であるならば、企業の利益の有無に関わらず負担すべきものであるはずだが、現実には利益の額に課されていることから、利益処分項目と考えるものである。
(10)
損益計算書の表示(構成内容)
1 総額主義の原則
(損益計算書原則、一のB)
費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。
経営活動における取引規模を明らかにすることで、利害関係者が企業の経営成績に関し適切な判断を行えるようにするために、損益計算書総額主義は必要とされる。
2 費用収益対応表示の原則
(損益計算書原則、一のC)
費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。
費用収益対応表示の原則の必要性
収益と費用の発生源泉に基づく分類を行い、収益項目に関連する費用項目の対応表示を明らかにすることで、利害関係者が企業の経営成績に関し適切な判断を行えるようにするために、費用収益対応表示の原則は必要とされる。
費用収益対応表示の形態
損益計算書における費用項目と収益項目の対応表示は、因果関係に基づく対応表示と、取引の同質性に基づく対応表示の2つからなっている。
売上高と売上原価、販売費及び一般管理費は、因果関係に基づく対応表示がなされている。
営業外収益と営業外費用及び特別利益と特別損失は、取引の同質性に基づく対応表示がなされている。
3 区分表示の原則
(損益計算書原則、二)
損益計算書には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算の区分を設けなければならない。
A 営業損益計算の区分は、当該企業の営業活動から生ずる費用及び収益を記載して、営業利益を計算する。
B 経常損益計算の区分は、営業損益計算の結果を受けて、利息及び割引料、有価証券売却損益その他営業活動以外の原因から生ずる損益であって特別損益に属しないものを記載し、経常利益を計算する。
C 純損益計算の区分は、経常損益計算の結果を受けて、前期損益修正額、固定資産売却損益等の特別損益を記載し、当期純利益を計算する。
D 純損益計算の結果を受けて、前期繰越利益等を記載し、当期未処分利益を計算する。
区分表示の原則の必要性
損益計算書における利益の発生経過を明らかにすることで、利害関係者が企業の経営成績に関し適切な判断を行えるようにするために、損益計算書区分表示の原則は必要とされる。
区分における損益と利益の性格
A 営業損益計算の区分
営業損益計算の区分における損益は、企業本来の営業活動により生じた損益である。
営業利益は、企業本来の営業活動の成果である。
B 経常損益計算の区分
経常損益計算の区分における損益は、主として、企業本来の営業活動に付随する財務・金融活動により生じた損益である。
経常利益は、企業の正常な収益力である。
C 純損益計算の区分
純損益計算の区分における損益は、非反復的・非経常的な損益たる臨時損益と、過年度の損益の誤差を修正する前期損益修正項目からなる損益である。
当期純利益は、企業の期間的処分可能利益からなる損益である。
D
当期純利益までが本来の損益計算書の区分であるが、それに続き前期繰越利益等を記載し、当期未処分利益の計算を行う。
当期未処分利益は、株主総会における実際の処分可能利益である。
(11)
貸借対照表論
貸借対照表完全性の原則
規定(貸借対照表原則、一)
貸借対照表は、企業の財務状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、株主、債権者その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならない。ただし、正規の簿記の原則に従って処理された場合に生じた簿外資産及び簿外負債は、貸借対照表の記載外におくことができる。
貸借対照表の本質
貸借対照表は、資産と負債・資本を表示する報告書であり、企業の一定時点における財政状態を明らかにするものである。
ここに財政状態とは、ある時点の企業に投下されている資金の調達源泉とその運用形態をいう。
貸借対照表完全性の原則
貸借対照表完全性の原則とは、企業に存在するすべての資産、負債及び資本をもれなく記載しなければならないこと、さらには存在しないものは記載してはならないことをも要求する原則である。
貸借対照表完全性の原則の例外として、重要性の原則に従い、重要性が乏しいものについては簿外資産及び簿外負債が認められる。
動的貸借対照表の構造
継続企業のもとでは、利益の計算は期間計算によらざるをえず、そこでは期間収支計算と期間損益計算との間に不一致が生ずるのを避けられない。そこでは、期間収支計算と期間損益計算とのズレとしての未解消項目を生じ、貸借対照表はそれら未解消項目の収容の場としての役割を有することになる。このような役割を有する貸借対照表を動的貸借対照表という。
動的貸借対照表は、借方において、現金、支出・未費用項目、収益・未収入項目、支出・未収入項目、貸方において、費用・未支出項目、収入・未収益項目、収入・未支出項目を収容する。
資産の概念
ある項目を資産や負債として貸借対照表に計上すべきか否かという問題は、貸借対照表能力論とよばれるが、これは資産や負債の概念に依存する。その概念は、これまで、@静態論における資産・負債、A動態論における資産・負債、B経済的な便益・犠牲としての資産・負債、というような段階を経て進化してきている。
静態論における資産
静態論のもとでは、債権者保護のために企業の財産状態を明らかにして、債務弁済能力を示すことが貸借対照表の主たる機能であった。したがって、そこでの資産は債務弁済の手段となる財産価値(換金可能性)をもった財貨や権利に限定される。
動態論における資産
動態論のもとでは、投資家を中心とした利害関係者の主たる関心が企業の収益力であることから、貸借対照表は損益計算の手段としてとらえられる。したがって、そこでの資産は現金の他、収支計算と損益計算との期間的なズレとしての、支出・未費用項目、収益・未収入項目、支出・未収入項目からなる。
用役潜在力としての資産
今日における資産を一元的に概念づけるならば、資産とは、用役潜在力(service potentials)であるということができる。
ここに用役潜在力とは、将来時点で企業に正味キャッシュ・フローをもたらす能力を意味する。
貨幣性・費用性分類
貨幣性資産
貨幣性資産とは、現金及び将来の現金を意味する資産であり、当座資産や投資資産からなる。
貨幣性資産は、企業における資本循環において、企業内で循環過程にある資本のうち、未投下の資本もしくは投下後回収済の投下待機資本であり、その評価は券面額又は回収可能額による。
費用性資産
費用性資産とは、将来の費用を意味する資産であり、棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産及び繰延資産等からなる。
費用性資産は、企業内で循環過程にある資本のうち、未回収の投下資本であり、その評価は取得原価による。
(12)
取得原価主義会計
資産を評価する基準の基本的なものとしては、取得原価主義(原価主義、原価基準)と時価主義(時価基準)とがあり、この他に原価主義と時価主義の選択基準としての低価主義(低価基準、低価法)がある。
取得原価主義
(貸借対照表原則、五)
貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。
資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。繰延資産についても、これに準じて、各事業年度に均等額以上を配分しなければならない。
取得原価主義の定義
取得原価主義とは、資産評価の基礎を、その資産を取得するために実際に要した支出額とする考え方である。
費用配分の原則(原価配分の原則)
費用配分の原則とは、取得原価を費消原価と未費消原価とに期間配分する考え方である。
取得原価のうち費消原価は、当期の費用額であり、未費消原価は当期末の貸借対照表価額である。従って、当期の費用額を測定し、貸借対照表価額を決定するために費用配分の原則は必要とされる。
取得原価主義の論拠
企業は、資本として調達した貨幣を財貨又は役務に投下し、より大きな貨幣として回収していくことになるが、財貨又は役務は、当初の貨幣の変形物に過ぎないことから、その金額は当初の貨幣額と同じ大きさである支出額でなければならない。そして、もしその財貨又は役務をその支出額を超えた金額で評価したならば、その超過部分について計上される利益は貨幣性資産の裏付けのない利益となり、利益の処分可能性の観点より問題がある。以上の点から取得原価主義が採用される。
また、取得原価主義によれば、資産評価が外部との取引価額に基づいてなされるため、計算の確実性、取引の検証可能性が確保されるため、これが採用される。
取得原価主義の欠点
取得原価主義は、物価変動時、特に物価上昇時において以下のような欠点を有する。
まず、資産保有中の価格変化が資産の売却時点まで認識されないため、貸借対照表に計上された資産額が時価から著しく乖離してしまうおそれがある。
また、利益計算に際して計上される売上原価や減価償却費が取得原価に基づいて計上されるため、現在の物価を反映した売上収益に、過去の価格を基礎とする費用が対応づけられることとなり、これにより算出される利益には、当期の企業活動による真の操業利益だけでなく、売却資産についてその保有期間に生じた価格変化に起因する保有利得も混在することになる。
時価主義
時価主義の定義
時価主義とは、資産評価の基礎を、その資産の時価とする考え方である。時価には、資産評価の基礎を購入市場の価格に求める取替原価と、販売市場の価格に求める純実現可能価額とがある。
取替原価とは、保有中の資産と同じものを現在の購入市場で取得して取替えるのに要する支出額であり、再調達原価ともよばれる。
純実現可能価額とは、現在の販売市場での売却価格からアフターコストを控除した金額であり、正味実現可能価額ともよばれる。
時価主義の論拠
資産の取得原価は、過去の取得時点においてのみ客観的な数値であり、現在の時点では、むしろ時価の方が資産の価値を表現する数値として、経済的実態に即した客観的な数値である。したがってこの事実を明瞭に表示する方が、多くの場合、利害関係者の意思決定のために有用性をもっている。
また、経営者の真の受託責任の遂行状況を明らかにする点からみても、原価主義のもとでの名目的な貨幣資本計算より、時価主義による実体的な資本計算の方が妥当性をもっていると考えられる。
時価主義の欠点
時価主義における資産の時価は、その測定方法に確実性を欠くことから、制度上全面的には採用されていない。
低価主義
低価主義の定義
低価主義とは、原価主義と時価主義の選択基準であり、原価と時価とを比較していずれか低い方の価額をもって資産の評価額とする考え方である。
低価主義の論拠
低価主義の採用根拠は、それを会計慣行に求めるものと、原価配分に求めるものとがある。
会計慣行に求めるものは、低価基準の適用により生ずる評価損を販売損失の予見計上ととらえ、会計慣行たる保守主義の思考にその論拠を求めるものである。
原価配分に求めるものは、資産の時価下落は、資産の持つ有用性又は回収可能性が喪失された表れであるととらえ、その喪失部分を当期の費用に配分し、残留有用原価又は回収可能原価のみを次期に繰越すべきであるという点にその論拠を求めるものである。
低価主義における時価の種類
低価主義において、原価と比較すべき時価には、取替原価と純実現可能価額とがある。
低価主義における原価の種類
低価主義において、時価と比較すべき原価には、切放し方式の適用による原価と洗替え方式の適用による原価とがある。
切放し方式とは、前期末に時価により資産評価をした場合に、前期末における評価切下げ後の簿価を時価と比較すべき原価とする方法である。
洗替え方式とは、前期末に時価により資産評価をした場合に、前期末における評価切下げ前の原始取得原価を時価と比較すべき原価とする方法である。
(13)
棚卸資産
棚卸資産の定義
棚卸資産とは、生産・販売・管理活動を通じて売上収益をあげることを目的として費消される資産であり、通常棚卸によって、その有高が確定される。
棚卸資産の範囲には、以下のようなものが含まれる。
1 通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役
2 販売を目的として現に製造中の財貨又は用役
3 販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨
4 販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨
棚卸資産の取得価額の決定
1 購入
棚卸資産を購入によって取得した場合には、購入代価に引取費用等の付随費用を加算した価額をもって取得価額とする。ただし、重要性の乏しい付随費用は取得価額に加算しないことができる。
2 製造
棚卸資産を製造によって取得した場合には、適正な原価計算基準に従って算定された価額をもって取得価額とする。
数量の計算
棚卸資産の売上原価及び原材料等の費消原価の計算は、払出単価に払出数量を乗じて計算する。
棚卸資産の払出数量の算定方法としては、継続記録法と棚卸計算法とがある。
1 継続記録法
継続記録法とは、棚卸資産の種類ごとに、商品有高帳等に受入数量・払出数量をその都度継続して記録し、その払出数量の合計量によって払出数量を計算する方法である。
継続記録法は、払出数量を直接的に把握でき、また、常に在庫数量を帳簿上明らかにすることができる。
しかし、正規の払出数量以外の喪失数量は、計算上の残留数量を構成することになり、損益計算の正確性が確保されない。
2 棚卸計算法
棚卸計算法とは、棚卸資産の実際有高を実地棚卸により把握し、これを繰越数量と受入数量との合計量から控除することによって払出数量を計算する方法である。
棚卸計算法は、継続記録法に比べて事務的には簡便である。
しかし、払出数量を間接的に把握することから、正規の払出数量以外の喪失数量が正規の払出数量と区別されないで計算されるため、棚卸資産の管理を十分に行うことができない。
3 継続記録法と棚卸計算法との関係
商品・製品・原材料等の重要な棚卸資産については、その管理が重要であることから、常に在庫数量を帳簿上明らかにできる継続記録法を中心とし、さらに棚卸計算法の併用により、正規の払出数量以外の喪失数量を把握することで損益計算の正確性を確保する。
これに対し、補助材料、消耗品等の比較的重要でない棚卸資産については、事務的に簡便な棚卸計算法を適用する。
単価の計算
棚卸資産の払出単価の算定方法としては、個別法、先入先出法、後入先出法、総平均法、移動平均法等がある。
1 個別法
個別法とは、棚卸資産の取得原価を異にするに従い区別して記録し、その個々の実際原価によって払出単価を算定する方法である。
個別法は、棚卸資産の原価を個別に管理し、その実際払出原価を収益に賦課することにより、個別損益の把握が可能となる。
しかし、大量の棚卸資産を取得している場合には、実務上煩雑であり、さらに、その払出資産を選択することによって利益操作に利用される恐れがある。
2 先入先出法
先入先出法とは、最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸品は最も新しく取得されたものからなるものとみなして払出単価を算定する方法である。
先入先出法は、一般に計算上の仮定が物の流れに一致する。また、物価変動時においては、棚卸資産の貸借対照表価額が、期末現在の時価に近い価額となる。
しかし、物価上昇時には、先に取得した低い単価によって払出原価が計算されるので、取得時と払出時との間の貨幣価値の下落分である棚卸資産利益が、売上総利益の中に算入される。
3 後入先出法
後入先出法とは、最も新しく取得されたものから払出しが行われ、期末棚卸品は最も古く取得されたものからなるものとみなして払出単価を算定する方法である。
後入先出法は、一般的に計算上の仮定が物の流れに一致しない。また、物価変動時においては、棚卸資産の貸借対照表価額が、期末現在の時価と乖離した価額となる。
しかし、物価上昇時には、後から取得した高い単価によって払出が計算されるので、先入先出法に比べ、棚卸資産利益を売上総利益から排除するのに役立つ。
4 総平均法
総平均法とは、期首繰越金額と当期受入金額との合計額を期首数量と当期受入数量の合計数量で除して、払出単価を算定する方法である。
総平均法は、一定期間の払出単価は完全に均一となる。
しかし、その単価は一定期間経過後でなければ、判明しない。
5 移動平均法
移動平均法とは、単価の異なる棚卸資産を受け入れる都度、残高金額と受入金額の合計金額を残高数量と受入数量の合計額で除して、払出単価を算定する方法である。
移動平均法は、一定期間経過後でなくても、払出単価の計算ができる。
しかし、計算には手数がかかる。
棚卸資産の評価
(貸借対照表原則、五A)
商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の棚卸資産については、原則として購入代価又は製造原価に引取費用等の付随費用を加算し、これに個別法、先入先出法、後入先出法、平均原価法等の方法を適用して算定した取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価を持って貸借対照表価額としなければならない。
たな卸資産の貸借対照表価額は、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定することができる。
(注解・注10 たな卸資産の評価損について)
(1)
商品、製品、原材料等のたな卸資産に低価基準を適用する場合に生ずる評価損は、原則として、売上原価の内訳科目又は営業外費用として表示しなければならない。
(2)
時価が取得原価より著しく下落した場合(貸借対照表原則五のA第一項ただし書の場合)の評価損は、原則として、営業外費用又は特別損失として表示しなくてはならない。
(3)
品質低下、陳腐化等の原因によって生ずる評価損については、それが原価性を有しないものと認められる場合には、製造原価、売上原価の内訳科目又は販売費として表示しなければならない。
(注解・注21 たな卸資産の貸借対照表価額について)
(1)
たな卸資産の貸借対照表価額の算定のための方法としては、次のようなものが認められる。
イ 個別法 たな卸資産の取得原価を異にするに従い区別して記録し、その個々の実際原価によって期末たな卸品の価額を算定する方法
ロ 先入先出法 最も古く取得されたものから順次払出しが行なわれ、期末たな卸品は最も新しく取得されたものからなるものとみなして期末たな卸品の価額を算定する方法
ハ 後入先出法 最も新しく取得されたものから払出しが行なわれ、期末たな卸品は最も古く取得されたものからなるとみなして期末たな卸品の価額を算定する方法
ニ 平均原価法 取得したたな卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末たな卸品の価額を算定する方法
平均原価法は、総平均法又は移動平均法により算出する。
ホ 売価還元原価法 異なる品目の資産を値入率の類似性に従って適当なグループにまとめ、1グループに属する期末商品の売価合計額に原価率を適用して期末たな卸品の価額を算定する方法
この方法は、取扱品種のきわめて多い小売業及び卸売業におけるたな卸資産の評価に適用される。
(2)
製品等の製造原価については、適正な原価計算基準に従って、予定価格又は標準原価を適用して算定した原価によることができる。
1 原則的評価
棚卸資産の期末評価は、原則として取得原価により行なう。この場合の取得原価は、購入代価又は製造原価に引取費用等の付随費用等を加算し、これに個別法、先入先出法、後入先出法、平均原価法等の方法を適用して算定する。
2 減耗損が計上される場合の評価
棚卸資産の帳簿数量よりも実地数量の方が少ない場合は、その不足分は減耗といい、この減耗数量を取得原価による単価に乗じて得られた額は棚卸減耗損として損益計算書に計上し、残額をもって貸借対照表価額とする。
3 評価損が計上される場合の評価
棚卸資産の時価が期末において取得原価よりも下落した場合には、評価減を行い、各評価損を損益計算書に計上し、残額をもって貸借対照表価額とする。これには、時価評価の強制及び低価基準及び品質低下・陳腐化による評価損の計上がある。
特殊な棚卸資産評価
棚卸資産の払出単価の計算方法としての、個別法、先入先出法、後入先出法、総平均法、移動平均法は期末における棚卸資産評価においても用いられる。また、これ以外の期末における棚卸資産評価の方法として、売価還元法、最終取得原価法、修正売価法、基準棚卸法等がある。
1 売価還元法
売価還元法とは、異なる品目の資産を値入率の類似性に従って適当なグループにまとめ、1グループに属する期末商品の売価合計額に原価率を適用して期末棚卸品を評価する方法である。
売価還元法には、売価還元原価法と売価還元低価法とがあり、それぞれの原価率は以下に示すとおりである。
売価還元原価法
原価率=期首繰越商品原価+当期受入原価総額/期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額−値上取消額−値下額+値下取消額
売価還元低価法
原価率=期首繰越商品原価+当期受入原価総額/期首繰越商品小売額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額−値上取消額
売価還元法では、各品目ごとの単位原価を用いて評価することが困難な、取扱品種のきわめて多い小売業及び卸売業における棚卸資産の評価に適している。
しかし、取扱資産をグルーピングする場合やその原価率の決定等の面において、主観性を排除しづらい。
2 最終取得原価法
最終取得原価法とは、決算日に最も近い最終の仕入価額又は製造原価をもって期末棚卸資産を評価する方法である。
最終取得原価法は、実務的に簡便性を有する。
なお、期末有高が最終取得数量以下である場合には、先入先出法による評価と同じ結果となるが、期末有高が最終取得数量を超過する場合には、その超過する有高部分は、時価に近い価額で評価されることから、純然たる原価基準による評価方法とみることはできない。
3 修正売価法
修正売価法とは、棚卸資産の取得時又は期末における売価からアフターコストを差引いた価額、又は売価からアフターコスト及び正常利益を差引いた価額をもって期末棚卸資産を評価する方法である。
修正売価法は、原価計算が実際上不可能な副産物や農鉱産品に適用される。
4 基準棚卸法
基準棚卸法とは、固定在高法、正常在高法ともいわれ、常に維持されるべき基準量を仮定し、期末棚卸量のうち基準量については常に一定の基準価格をもって期末棚卸資産を評価する方法である。
基準棚卸法は、後入先出法と同様に、棚卸資産利益を売上総利益から排除することをねらいとする評価方法である。この方法によれば、基準量に食い込む払出が行われた場合には、食い込み分は時価(取替原価)で算定されるので、後入先出法に比し、より良くその目的を達成することができる。
しかし、期末に食い込みが生じていると、原価基準の評価方法から逸脱することになり、また、基準量及び基準価格を決定するにあたり、恣意性の介入が避けられず、制度会計上は採用されない。
(14)
有形固定資産
有形固定資産の定義
有形固定資産とは、原則として、1年以上使用することを目的とする相当価額以上の資産のうち、具体的な形態を持つものをいう。
有形固定資産は、償却資産、減耗性資産及び非償却資産に大別される。
有形固定資産の取得価額の決定
1 購入
有形固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に購入手数料等の付随費用を加算した価額をもって取得価額とする。ただし、重要性の乏しい付随費用は取得価額に加算しないことができる。
2 自家建設
有形固定資産を自家建設した場合には、適正な原価計算基準に従って算定された価額をもって取得価額とする。
建設に要する借入資本の利子で稼動前の期間に属するものは、これを取得価額に算入することができる。
借入資本の利子は、会計理論上は財務費用であり、その原価性が否定されることから原則として取得原価に算入してはならない。しかし、借入資本が当該工事だけに使用されている場合には、稼動前の期間に限り、費用収益対応の見地より、取得価額に算入することも認められる。
3 現物出資
有形固定資産を現物出資の対価として受入れた場合には、出資者に対して交付された株式の発行価額総額をもって取得価額とする。
有形固定資産を現物出資の対価として受入れた場合には、まず受入資産の評価額を決定した上で、それに見合う数の株式を交付することから、受入資産がその時点の時価で評価される限り、出資者に対して交付された株式の発行価額総額は、受入資産の時価であることになる。
4 交換
有形固定資産を有形固定資産との交換によって取得した場合には、交換に供された自己資産の適正な簿価をもって取得価額とする。
有形固定資産を自己所有の株式、社債等との交換によって取得した場合には、当該有価証券の時価又は適正な簿価をもって取得価額とする。
有形固定資産を有形固定資産との交換によって取得した場合に、交換に供された自己資産の適正な簿価をもって取得価額とするのは、同種資産における本来の等価交換取引からは損益は生じないと考えるためである。
有形固定資産を自己所有の株式、社債等との交換によって取得した場合に、当該有価証券の時価をもって取得価額とするのは、異種資産における等価交換取引は、交換の形態をとってはいても、取引の実質は売買取引であるとみなし、損益を生じると考えるためである。なお、当該有価証券の簿価と時価とが大きく食い違っていない限りにおいて、適正な簿価をもって取得価額とすることができる。
5 贈与
有形固定資産を贈与された場合には、時価等を基準とした公正な評価額をもって取得価額とする。
有形固定資産を贈与された場合には、時価等を基準とした公正な評価額をもって取得価額とするのは、無償取得資産であっても用役潜在力を有する限り公正な評価額を付し、資産計上すべきであるためである。
資本的支出と収益的支出
有形固定資産に関する支出には、資本的支出と収益的支出とがある。
資本的支出とは、有形固定資産に係る支出のうち、当該有形固定資産の取得原価に算入される支出をいう。
収益的支出とは、有形固定資産に係る支出のうち、取得原価に算入せず、支出した年度の費用とされる支出をいう。
ある支出が資産価値を増大又は耐用年数を延長させるものであれば、それは資本的支出とすべきであり、資産価値を増大させるものでなく、かつ、耐用年数を延長させるものでなければ、それは収益的支出とすべきである。
資本的支出と収益的支出とを区別することにより、適正な財政状態及び経営成績が表示される。
減価償却
正規の減価償却
減価償却とは、費用配分の原則に基づいて、有形固定資産の取得原価をその耐用期間における各事業年度に配分することである。
減価償却の目的は、適正な期間損益計算を行うことである。そのために減価償却は、一般に認められた所定の方法によって、計画的・規則的に実施されなければならない。
減価償却が適正に行われるか否かは、製造業等の会計に著しい影響を及ぼす。
製造業等の企業においては、発生した減価償却費を、原価計算によって製品原価と期間原価とに区別し、製品原価をさらに当期の売上原価と期末棚卸資産原価とに再配分する。このうち当期の売上原価は、期間原価とともに当期の期間費用となり、期末棚卸資産原価は、翌期以後の期間費用となる。
減価償却の効果
減価償却は、自己金融効果を有する。
自己金融効果とは、減価償却費自体が現金支出を伴わない費用であるため、当該償却費の計上分だけ、取得原価として投下されていた資金が売上高と対応づけられ、貨幣性資産として回収され、企業内に留保されるという、投下資本が回収される効果をいう。
減価の種類とその発生原因
有形固定資産の原価には、物質的減価と機能的減価の2つがある。
物質的減価とは、使用による減耗・磨耗、時の経過に伴う自然老朽化を発生原因とする減価をいう。
機能的減価とは、発明・新技術の発見等による陳腐化、産業構造の変化等に伴う経済的不適応化等を発生原因とする減価をいう。
減価償却費の計算要素
有形固定資産の計算要素には、償却基礎価額、残存価額及び償却基準の3つがある。
償却基礎価額は、有形固定資産の取得原価が用いられる。
残存価額とは、有形固定資産が使用できなくなった時の売却価格又は利用価格をいい、見積により決定される。
償却基準には、耐用年数と利用度とがある。耐用年数とは、有形固定資産の使用可能期間をいい、見積により決定される。
減価償却費の計算方法
(注解・注20 減価償却の方法について)
固定資産の減価償却の方法としては、次のようなものがある。
(1)
定額法 固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法
(2)
定率法 固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法
(3)
級数法 固定資産の耐用期間中、毎期一定額を算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法
(4)
生産高比例法 固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産又は用役の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法
この方法は、当該固定資産の総利用可能量が物理的に確定でき、かつ、減価が主として固定資産の利用に比例して発生するもの、例えば、鉱業用設備、航空機、自動車等について適用することが認められる。
なお、同種の物品が多数集まって一つの全体を構成し、老朽品の部品的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産については、部分的取替に要する費用を収益的支出として処理する方法(取替法)を採用することができる。
減価償却費の計算方法としては,耐用年数を償却基準とする方法と、利用度を償却基準とする方法(生産高比例法)とがあり、さらに前者は一定額を配分する方法(定額法)と、逓減的に配分する方法(定率法、級数法)とがある。
1 定額法
定額法とは、固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法である。
定額法は計算が簡単であり、毎期同額の減価償却費を計上することになるので、安定した会計処理が行える。
2 定率法
定率法とは、固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法である。
定率法は、定額法と比較して、以下のような特徴を有する。
資産の能率の高い初期に多額の減価償却費を計上し、能率が低下して、比較的多額の修繕維持費を要するようになる後期には、少額の減価償却費を計上することから、固定資産に関する費用の毎期の負担を平準化するのに役立つ。
また、機能的減価の生じやすい有形固定資産については、早い時期に多額の減価償却費を計上しておくことができるため、保守主義の観点から優れている。
3 級数法
級数法とは、固定資産の耐用期間中、毎期一定の額を算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法である。
級数法は、定率法の簡便法として考案されたものである。
4 生産高比例法
生産高比例法とは、固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産又は用役に提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法である。
生産高比例法は、資産の利用度に比例して費用配分を行う方法であるから、費用収益対応の見地から、理論的には優れている方法である。
しかし、資産の総利用可能量を見積る必要があり、その合理的見積は困難なことが多いことから、適用される資産は鉱業用設備などに限定される。
個別償却と総合償却
減価償却における償却単位には、個別償却と総合償却の2つがある。
個別償却とは、個々の資産ごとに減価償却費を計算し、記帳する方法である。
総合償却とは、複数の資産を一括して減価償却費を計算し、記帳する方法である。
固定資産の耐用年数到来前に資産を除却した場合、個別償却では資産の未償却残高が除却損として計上されるのに対し、総合償却では個々の資産の未償却残高が明らかではないことから、残存価額を除いた除却資産原価がそのまま減価償却累計額から控除される。
固定資産の耐用年数を超えて資産を使用した場合、個別償却ではすでに耐用年数終了時に未償却残高がなくなっており、それ以降の資産の使用に対しては減価償却費を計上する余地はないが、総合償却では平均耐用年数到来後も資産が残存する限り未償却残高も残存することから、全ての資産が除却されるまで継続して減価償却を行うことになる。
臨時償却・評価減
臨時償却
臨時償却とは、減価償却計画設定に当たって予見することのできなかった新技術の発明等の外的事情により、有形固定資産が機能的に著しく減価した場合に、この事実に対応して臨時に行う減価償却である。
臨時償却費は、過年度の減価償却不足額としての前期損益修正項目であり、原価性は有さず、損益計算書において特別損失に計上される。
評価減
災害、事故等の偶発的事情によって有形固定資産の実体が滅失した場合には、その滅失部分の取得原価に対応する金額だけ、当該資産の評価額を切下げる。
この場合の評価切下げ額は、偶発的・臨時的な損失であり、損益計算書において特別損失に計上される。
特殊な有形固定資産の費用化
有形固定資産の費用化の方法として、正規の減価償却の他に、減耗性資産に適用される減耗償却、取替資産に適用される取替法がある。
減耗償却
減耗償却とは、減耗性資産に適用される償却方法であり、その手続は生産高比例法と同じである。
減耗性資産とは、山林・鉱山のように、それが伐採・採掘され尽くされてしまえば、復元することができないか、復元するのに相当の年月が必要となる有形固定資産である。
減耗償却は、存在する物量が減耗して枯渇することに基づく償却である点で、減価償却と異なる。
取替法
取替法とは、取替資産に適用される費用化の方法であり、取替資産の取替えに要した費用を収益的支出として処理する方法であり、減価償却の代用法として認められている。
取替資産とは、鉄道のレール・枕木のように、同種の物品が多数集まって1つの全体を構成し、老朽部分の取替えを繰り返すことによって、常に全体が維持されるような有形固定資産である。
取替法は、物的変動時にその取替費用がそのときどきの時価で計上されることになり、実体資本の維持が図られる。
有形固定資産の評価
(貸借対照表原則、五D)
有形固定資産については、その取得原価から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。有形固定資産の取得原価には、原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含める。現物出資として受入れた固定資産については、出資者に対して交付された株式の発行価額をもって取得原価とする。
償却済の有形固定資産は、除却されるまで残存価額又は備忘価額で記載する。
(貸借対照表原則、五F)
贈与その他無償で取得した資産については、公正な評価額をもって取得原価とする。
(15)
無形固定資産
定義
無形固定資産とは、具体的な形態を持たないが、長期にわたり経営に利用され、利益を獲得する上で有用なものをいう。
無形固定資産は、法律上の権利を表す資産と、経済上の優位性を表す資産(営業権)に大別される。
無形固定資産の取得価額の決定
無形固定資産を有償で取得した場合には、その支払対価をもって取得価額とする。
営業権以外の無形固定資産を無償で取得した場合には、公正な評価額をもって取得価額とする。
無形固定資産の評価
(貸借対照表原則、五E)
無形固定資産については、当該資産の取得のために支出した金額から減価償却累計額を控除した価額をもって貸借対照表価額とする。
無形固定資産の評価は、地上権のような非償却資産を除き、当該資産の有効期間にわたり計画的、規則的な償却を行う。
営業権
定義
営業権とは、ある企業の平均収益力が他の企業のそれよりも大きい場合、その超過収益力をいい、暖簾ともいう。
営業権の実体である超過収益力は、具体的に以下のようなものにより生じる。
@
商号又は商標が一般に知れ渡り、商品・製品の販売が容易であること
A
営業所の立地条件がよいこと
B
経営の人的組織が優れていること 等
制度会計における営業権(注解・注25、商法第285条の7)
営業権は、企業の経営努力によって創出される自己創設暖簾と、他企業の買収・合併によって取得する買入暖簾とがあるが、制度会計上、営業権の計上は、買入暖簾に限定し、自己創設暖簾の計上を認めていない。
自己創設暖簾の計上が認められないのは、その資産能力が不明確であること、また、計上したとしてもその計算の確実性が得られないこと等による。
営業権の評価
(注解・注25 営業権いついて)
営業権は、有償で譲受け又は合併によって取得したものに限り貸借対照表に計上し、毎期均等額以上を償却しなければならない。
営業権の償却については、不要説と必要説とがある。
償却不要説は、営業権の実体が企業の信用にあり、企業の信用は時の経過によって増大することはあっても減少することはないととらえるものである。
償却必要説は、競争企業が存在する以上、超過収益力を永続的に維持することは不可能であるととらえるものである。
(16)
繰延資産
繰延資産の概念
(注解・注15 将来の期間に影響する特定の費用について)
「将来の期間に影響する特定の費用」とは、すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待される費用をいう。
これらの費用は、その効果が及ぶ数期間に合理的に配分するため、経過的に貸借対照表上繰延資産として計上することができる。
なお、天災等により固定資産又は企業の営業活動に必須の手段たる資産の上に生じた損失が、その期の純利益又は当期未処分利益から当期の処分予定額を控除した金額をもって負担しえない程度に巨額であって特に法令をもって認められた場合には、これを経過的に貸借対照表の資産の部に記載して繰延経理することができる。
繰延資産とは、すでに代価の支払が完了し又は支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現するものと期待されるため、その支出額を効果が及ぶ将来期間に費用として合理的に配分する目的で、経過的に貸借対照表に資産として計上された項目をいう。
繰延資産は、換金性を有するものではないが、用役潜在力を有し、適正な期間損益計算を行うために資産として計上される、会計特有のものである。
繰延資産は、換金性を有しない点で、棚卸資産や固定資産と異なる。
また、繰延資産は、支出を行った期間のみが負担する費用となることなく、数期間にわたる費用として取扱われる点は前払費用と同じであるが、繰延資産は既に役務の提供を受けているのに対し、前払費用は未だ役務の提供を受けていない点で異なる。
商法上の繰延資産
商法の繰延資産の範囲
商法上の繰延資産には、以下の項目が該当する。
@
創立費(商法第286条)
A
開業費(商法第286条の2)
B
開発費(商法第286条の3)
C
試験研究費(商法第286条の3)
D
新株発行費(商法第286条の4)
E
社債発行費(商法第286条の5)
F
社債発行差金(商法第287条)
G
建設利息(商法第291条)
商法の繰延資産に対する制約
商法会計は、債権者保護を目的とすることから、商法上の資産は換金性を有するものに限るとするのがその基本的立場である。しかし、期間損益計算の適正化の観点をとり入れ、繰延資産の貸借対照表への計上を、以下の制約条件のもとで認めた。
@
8項目限定任意計上
A
早期強制償却
B
配当制限(商法第290条第1項第4号)
創立費及び開業費
定義
創立費とは、会社を設立するための支出であり、会社負担の設立費用、発起人への報酬及び設立登記の登録税からなる。
開業費とは、会社が成立した後、営業を開始するまでの間の開業準備のための支出である。
償却
創立費及び開業費は、営業活動を開始する際の組織費用であると考えられるから、費用収益対応の思考からすれば、企業が解散するまでの期間にわたり償却を行うべきであり、継続企業を前提とすれば各期の償却は限りなくゼロに近づき、償却不要であることになる。しかし、それらは換金性を有さず、会計の健全性を考慮する保守主義の思考からは、早期に償却することが望ましい。
商法上、創立費は会社の成立後(もし建設利息を支払う旨を定めている場合には、その支払を止めた後)5年以内に、開業費は開業後5年内に毎決算期に均等額以上の償却をすることとしている。
創立費及び開業費の償却は、企業の正常な営業活動とは直接の関係がないことから、営業外費用として表示される。
試験研究費及び開発費
定義
試験研究費とは、新製品又は新技術の研究のための特別な支出である。
開発費とは、新技術の採用・新資源の開発・新市場の開拓等のための特別な支出である。
償却
試験研究費及び開発費は、その支出の効果の発現が不確実であり、また効果の持続する期間を合理的に予測することは困難であることから、償却を合理的に行うことは難しい。従って、それらは保守主義の思考から、早期に償却することが望ましい。
商法上、試験研究費及び開発費は、支出後5年内に、毎決算期に均等額以上の償却をすることとしている。
試験研究費及び開発費の償却額は、その期の売上収益との対応が明確であれば、販売費及び一般管理費として、その期の売上収益との対応が明確でなければ、営業外費用として表示される。
試験研究の成功に伴う法律上の権利の取得
試験研究費について、償却が完了する前に試験研究が成功し、法律上の権利を取得した場合には、その未償却残高を無形固定資産に振替えて、取得原価の一部として処理するのが一般的である。
新株発行費及び社債発行費
定義
新株発行費とは、会社成立後における新株発行のための直接的支出である。
社債発行費とは、社債発行のための直接的支出である。
償却
新株発行費は、費用収益対応の思考からすれば、企業が解散するまでの期間にわたり償却を行うべきであり、継続企業を前提とすれば各期の償却額は限りなくゼロに近づき、償却不要であることになる。また、社債発行費は、費用収益対応の思考からすれば、社債が償還されるまでの期間にわたり償却を行うべきである。しかし、新株発行費及び社債発行費は換金性を有さず、会計上の健全性を考慮する保守主義の思考からは、早期に償却することが望ましい。
商法上、新株発行費及び社債発行費は、新株又は社債発行後3年内(ただし、社債発行費については、社債の償還期限が3年内に到来する場合には、その期限内)に、毎決算期に均等額以上の償却をすることとしている。
新株発行費及び社債発行費の償却額は、財務上の費用であることから、営業外費用として表示される。
社債発行差金
定義
社債発行差金とは、社債を額面金額よりも低い額で発行(割引発行)した場合における、額面金額と発行金額との差額である。
性格
社債発行差金は、商法上、繰延資産とされるが、会計理論上は繰延資産としての性格は一般には認められず、その性格として、評価勘定説と前払利息説という、2つの見解がある。
評価勘定説とは、負債の評価額は収入額によるべきであり、社債発行差金を額面金額によって負債に計上された社債勘定から控除すべき評価勘定とみる見解である。
前払利息説とは、社債の契約利率が、一般市場金利を下回る場合に、その差額分を補うために割引発行が行われる点を重視し、社債発行差金を利率調整の為の前払利息とみる見解である。
償却
社債発行差金は、商法上、社債償還の期限内に、毎決算期に均等額以上の償却をすることとしている。
社債発行差金の償却は、財務上の費用であるから、営業外費用として表示される。
建設利息
定義
建設利息とは、会社の事業の性質により、会社の成立後、長期間その営業の全部を開業できない場合に、商法の規定に基づき、株主に対して支払う利息である。
必要性
建設利息は、固定設備の建設に何年もの期間を要する企業において、資金の調達を容易に行えるようにするために、商法上認められた借置である。
性格
建設利息は、商法上、繰延資産とされるが、会計理論上は繰延資産としての性格は一般に認められず、その性格として、利益配当前払説と資本払戻説という、2つの見解がある。
利益配当前払説とは、建設利息は、将来の利益の中から支払われるべきものを、繰り上げて支払うものとみる見解である。
資本払戻説とは、建設利息は、株主の払込んだ資本の一部を払戻したものとみる見解である。
償却
建設利息の性格を、利益配当前払説又は資本払戻説とみた場合、その償却額は利益処分項目として、利益処分計算書に記載されることになる。
建設利息は、商法上、1年当たり資本金の100分の6を超える配当を行うごとに、その超過額と同額以上の償却をすることとしている。
臨時巨額の損失
企業会計原則は、一定の要件を満たした臨時巨額の損失について、これを経過的に貸借対照表の資産の部に記載して、繰延経理することを認めている。
臨時巨額の損失の繰延経理は、経営者の責任によらない事象によって、相当の損失が発生したときでも、配当その他の利益処分を通常通り行うことができるようにするという、政策的配慮によるものであり、繰延資産のように将来における効果の発現は期待できないことから、会計理論上、合理性はない。
(17)
負債総論
負債の概念
静態論における負債
静態論のもとでは、債権者保護のために企業の財産状態を明らかにして、債務弁済能力を示すことが貸借対照表の主たる機能であった。したがって、そこでの負債は、法的確定債務に限定される。
動態論における負債
動態論のもとでは、投資家を中心とした利害関係者の主たる関心が企業の収益力であることから、貸借対照表は損益計算の手段としてとらえられる。したがって、そこでの負債は、収支計算と損益計算との期間的なズレとしての、費用・未収入項目、収入・未収益項目、収入・未支出項目からなる。
経済的負担としての負債
今日における負債を一元的に概念づけするならば、負債とは、経済的負担であるということができる。
負債の債務性による分類
負債は、その債務性の有無に視点を置くと、法律上の債務と非債務たる会計的負債とに分類され、さらに法律上の債務は、確定債務と条件付債務とに分かれる。
確定債務とは、その履行について、期日・相手方・金額のすべてが、すでに確定している債務をいう。
条件付債務とは、その履行について、期日・相手方・金額のうち少なくとも1つが未確定の債務をいう。
会計的負債とは、法律上の債務ではないが、期間損益計算又は実質優先主義の観点から計上される経済的負担をいう。
(18)
社債
社債の種類
株式会社に対して商法で発行が認められた社債には、普通社債、転換社債、新株引受権附社債の3種類がある。
普通社債とは、それを発行して資金を調達した企業が、これを購入して保有する投資家に対して、定期的に所定の利子を支払うとともに、満期日にそれを償還して額面金額を返済することを約束した債務をいう。
転換社債とは、普通社債の性格に加えて、その所有者が要求すれば所定の条件で社債券を株券に交換してもらえる権利が付与された社債をいう。
新株引受権附社債とは、その所有者が事前に決められた金額を会社に払い込んで、新株を交付してもらえる権利が付与された社債をいう。
転換社債の会計処理
転換社債については、株式転換権が行使されると社債は消滅し、社債の償還権と株式転換権が同時に存在し得ないことから、それぞれの部分を区分して処理する必要は乏しいと考えられる。従って、社債本体の金額と、株式転換権の評価額とを区分しない、一括法による会計処理が行われる。
新株引受権附社債の会計処理
新株引受権附社債について、その取得時に投資者が会社に払い込む金額は、社債本体の金額と、新株引受権の評価額という2つの部分から構成されていると考えられる。このため、新株引受権の評価額を別個に識別するとすれば、社債の本体は割引発行Sれていることになる。この事実を反映するため、区分法による会計処理が行われる。
(19)
引当金
会計上の引当金の概念
(注解・注18 引当金について)
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、賞与引当金、工事補償引当金、退職給与引当金、修繕引当金、特別修繕引当金、債務保証損失引当金、損害補償損失引当金、貸倒引当金等がこれに該当する。
発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。
引当金とは、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として計上するために設定される貸方勘定である。
引当金は、適正な期間損益計算を行うために計上される。
引当金は、資産の部に記載される評価性引当金と負債の部に記載される負債性引当金とに分類され、さらに負債性引当金は、債務性のある負債性引当金と債務性のない負債性引当金とに分類される。
負債性引当金は、適正な期間損益計算を行うために計上されるものであり、利益処分の結果設定される積立金とは異なる。また、負債性引当金は、条件付債務もしくは会計的負債であり、確定債務たる未払金とも異なり、さらに、既に役務の提供を受けている未払費用とも異なる。
会計上の負債性引当金の内容
製品保証引当金及び工事補償引当金
製品保証引当金とは企業が販売した製品、工事補償引当金とは引渡した工事について、一定期間、無償で補修する契約を行っている場合、当期の売上高又は完成工事高に係る将来の修理費を引当計上するものである。
売上割戻引当金及び返品調整引当金
売上割戻引当金とは、企業が得意先と割戻契約を行っている場合、当期に売上高に係る将来の割戻額を引当計上するものである。
返品調整引当金とは、企業が得意先と返品契約を行っている場合、当期の売上高に係る将来の返品額中の利益相当額を引当計上するものである。
賞与引当金及び退職給与引当金
賞与引当金とは、企業が従業員と労働協約等に基づいて賞与を支払うこととなっている場合、当期に負担すべき翌期の賞与支給額を引当計上するものである。
退職給与引当金とは、企業が従業員と労働協約等に基づいて退職金を支払うこととなっている場合、当期に負担すべき将来の退職支給額を引当計上するものである。
修繕引当金及び特別修繕引当金
修繕引当金とは、企業が使用している有形固定資産について、毎年行われる定期修繕が何らかの理由で行われなかった場合、翌期の修繕額を引当計上するものである。
特別修繕引当金とは、数年ごとに行われる大修繕に係る修繕引当金である。
債務保証損失引当金及び損害補償損失引当金
債務保証損失引当金とは、企業が他社の債務保証を行っており、保証義務が生じる可能性が高くなった場合、将来の支払額を引当計上するものである。
損害補償損失引当金とは、企業が係争事件等により損害賠償請求を受ける可能性が高くなった場合、将来の支払額を引当計上するものである。
商法上の引当金
商法上の引当金の概念
商法上の引当金とは、債務性のない負債性引当金である。
商法会計は、債権者保護を目的とすることから、商法上の負債は債務性を有するものに限るとするのがその基本的な立場である。しかし、期間損益計算の適正化の観点をとり入れ、債務性のない負債性引当金の貸借対照表への計上を認めた。
商法上の引当金の表示
計算書類規則では、商法上の引当金の表示方法については、貸借対照表の流動負債又は固定負債に記載し、それが商法の引当金である旨(商法第287条の2)を注記するか、負債の部に別に引当金の部を設けて、そこに記載することとしている。
偶発債務
偶発債務の概念
偶発債務とは、まだ現実の債務ではないが、将来一定の条件を満たすような事態が生じた場合に、債務となるものをいう。
偶発債務は、企業の将来の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす恐れがあるので、その発生の可能性が高い場合には引当金を設定し、可能性が低い場合には貸借対照表に注記することで開示される。
偶発債務の内容
偶発債務には、以下のようなものがある。
@
手形遡及義務
A
保証債務
B
先物売買契約
C
損害賠償義務
租税特別借置法上の準備金及び特別法上の準備金
租税特別借置法上の準備金
租税特別借置法上の準備金は、引当金の計上要件を満たすものについては、引当金として処理し負債の部に記載され、引当金の計上要件を満たさないものについては、利益留保の性格を有し、利益処分により任意積立金として処理し資本の部に記載される。
特別法上の準備金
特別法上の準備金は、引当金の計上要件を満たすものについては、引当金として処理され負債の部に記載され、引当金の計上要件を満たさないものについては、利益留保の性格を有するが、特定業種の公益性の観点から、その計上が特別の法令で強制されており、また、その繰入れ及び取崩しの要件が定められている等の事情を考慮し、引当金として処理され負債の部に記載される。
(20)
資本総論
資本の概念
資本の定義
資本とは、企業活動に必要とされる資金の源泉であり、会計上の資本は、資産と負債の差額としての純資産(自己資本)を指し、株主持分ともいう。
資本の源泉別分類
資本を源泉別に分類すると、以下のようになる。
@
払込資本
払込資本とは、株主からの拠出資本である。
A
受贈資本
受贈資本とは、株主以外の者からの拠出資本である。
B
評価替資本
評価替資本とは、物価の上昇により、資産を時価まで評価増しした場合の資本である。
C
稼得資本
稼得資本とは、企業活動を行うことにより稼得した資本の増加部分であり、利益を源泉とする資本である。
商法上の資本の分類
商法では、資本を、資本金、法定準備金(資本準備金及び利益準備金)及び剰余金(任意積立金及び当期未処分利益)とに分類する。
資本金と法定準備金は商法上配当不能額であり、剰余金は配当可能額であることから、商法は、資本を、債権者保護の見地から分類しているといえる。
企業会計原則上の資本の分類
(注解・注19 剰余金について)
会社の純資産額が法定の資本額をこえる部分を剰余金という。
剰余金は、次のように資本剰余金と利益剰余金とに分れる。
1.
資本剰余金
株式払込剰余金、減資差益、合併差益等
なお、合併差益のうち消滅した会社の利益剰余金に相当する金額については、資本剰余金としないことができる。
2.
利益剰余金
利益を源泉とする剰余金
企業会計原則では、その本質上、資本を、資本金と剰余金とに分類し、さらに剰余金を資本剰余金と利益剰余金とに分類する。
資本剰余金は資本取引から生ずるものであり、維持拘束性を本質とし、利益剰余金は損益取引から生ずるものであり、処分可能性を本質とすることから、企業会計原則は、資本を、その性格の相違から分類しているといえる。
しかし、企業会計原則では、上記分類とは異なり、その表示上、資本を、資本金と剰余金とに分類し、さらに剰余金を、資本準備金、利益準備金及びその他剰余金(任意積立金及び当期未処分利益)に区分して表示することとしている。
これは、資本を、商法との調整の見地から分類しているといえる。
(21)
資本各論
払込資本
資本金
資本金とは、商法における法定資本である。
商法上、株主の有限責任制を株式会社の特質とすることから、会社が維持すべき純資産の最低基準額を示すものとして資本金を表示することを要求している。
株式会社の資本金の額は、原則として、発行済株式の発行価額の総額である。
ただし、株式の発行価額の2分の1を上限として、額面株式については額面金額を超える部分を、また無額面株式については5万円を超える部分を、資本金としないことができる。
資本準備金
資本準備金とは、商法上、積立が強制されている資本剰余金であり、株式払込剰余金、減資差益及び合併差益からなり、払込資本のうち、資本金以外のものであり、商法上、利益準備金とともに法定準備金を構成し、その使用は、資本の欠損の填補及び資本金への組入れの場合に限られる。
株式払込剰余金とは、株式の発行価額中、資本金に組入れなかった部分である。
減資差益とは、減資により減少する資本金が、株式消却又は払戻のために要した金額及び欠損の填補に充てた金額を超える場合の、その超過額である。
合併差益とは、合併によって受け入れた純資産が、消滅会社の株主に対して交付された株式によって増加する資本金額、株主に支払った金銭の額及び消滅会社に移転した自己株式の額を超える額である。
増資
増資とは、会社成立後における資本金の増加をいう。
増資の形態には、会社の純資産の増加を伴う実質的増資(通常の新株発行、転換社債の転換、新株引受権附社債の権利行使、株式交付による吸収合併)と、会社の純資産の増加を伴わない形式的増資(配当可能利益の資本組入、法定準備金の資本組み入)とがある。
通常の新株発行とは、取締役会の決議により、会社が新株を発行し、その株式引受人に対して引受対価として、金銭その他現物財産を出資させる増資形態である。
通常の新株発行には、額面発行と時価発行とがあり、また、発行形態としては株主割当、第三者割当及び公募がある。
転換社債の転換とは、転換社債の保有者からの請求により、社債を消滅させ、新株を発行する増資形態である。
新株引受権附社債の権利行使とは、新株引受権附社債の保有者の新株引受権の行使により、社債部分は存続しつつ、新たに払込を受け新株を発行する増資形態である。
株式交付による吸収合併とは、ある会社が他の会社を吸収合併し、受入れた純資産に見合う新株を発行する増資形態である。
配当可能利益による資本組入れとは、株主総会の決議により、配当可能利益の一部又は全部を資本金に組み入れることによる増資形態である。この場合、取締役会の決議によって、新株を発行することができる。
法定準備金の資本組入れとは、取締役会の決議により、法定準備金の一部又は全部を資本金に組入れることによる増資形態である。この場合、取締役会の決議によって、新株を発行することができる。
合併会計
合併とは、契約に基づいて、複数の会社が1つになることをいう。
合併の形態には、吸収合併と新設合併とがある。
吸収合併とは、合併当事会社のうち一方の会社が解散の上、他の会社に吸収される合併の形態である。
新設合併とは、合併当事会社は双方とも解散し、それと同時に新会社を設立する合併の形態である。
合併の本質には、現物出資説と人格合一説とがある。
現物出資説とは、合併を被合併会社の株主による合併会社への現物出資とみる考え方である。
現物出資説では、引継ぐ資産・負債は、有形の財貨及び法律上の権利・義務に限定され、その評価は、合併時点における公正な価額による。そして、合併により受入れた純資産額が、その対価として交付する株式数に基づいて計上する資本金の額を超えた金額が合併差益として計上されることから、その合併差益は株式払込剰余金と同様の性格を有するといえる。
人格合一説では、引継ぐ資産・負債及び資本は、原則としてそのまま引継がれる。従って、合併差益は生じないのが原則である。しかし、合併当事会社の収益力の相違等の理由から1対1の割合で株式が発行されないことがあり、その結果、合併差益が計上されることがあるが、その合併差益は減資差益と同様の性格を有するといえる。
商法上の合併
商法では、合併差益として資本準備金に含めるべき金額を原則として、以下のように定めている。
合併差益=(消滅会社から承継した財産の価額−消滅会社から承継した債務の価額)−(合併交付金+消滅会社に移転した自己株式+存続会社の増加資本金)
この算式で求められる合併差益の金額は、現物出資説に従い算定される額に等しい。
また、商法では、上記原則規定による合併差益の金額中、消滅会社の利益準備金その他の留保利益金は、資本準備金としないことができるという特則を設けている。なお、この特則による場合には、消滅会社の利益準備金は必ず存続会社又は新設会社の利益準備金としなければならない。
商法が特則規定を設けたのは、人格合一説を規定したのではなく、原則規定によった場合には、合併後改めて利益準備金を積立てなければならなくなることから、配当可能利益が減少してしまうことに対する借置や、契約に従った積立金の消滅を回避するための借置等の実務上の要請によるものと考えられる。
受贈資本及び評価替資本
受贈資本
受贈資本には、国庫補助金、工事負担金、債務免除益等がある。
国庫補助金とは、国や地方自治体からの補助金のうち、固定資産の購入・製作に充当する等、資本助成の目的で交付を受けたものである。
工事負担金とは、電力・ガス事業等を営む公益企業が、設備の建設に要する工事費を消費者に負担してもらう形で受入れた金銭や資材である。
債務免除益とは、企業に資本の欠損が生じている場合に、企業を存続させるために欠損填補の目的で債権者が債権放棄をしたものである。
受贈資本は株主以外の者からの資金の受入れであり、企業自体の立場から、企業会計原則上、それを元本たる資本として取扱うべきものと考える。
評価替資本
評価替資本には、固定資産評価差益、保険差益等がある。
固定資産評価差益とは、更正会社の財政立直しの一環として、会社が保有する資産について時価による評価替を行った場合の評価増し部分である。
保険差益とは、保険に付されていた固定資産が滅失し、物価上昇により受取保険金が滅失資産の被害直前の帳簿価額を越える場合の、その差額である。
評価替資本は物価の上昇を原因とする資本価値の修正であり、企業会計原則上、それを元本たる資本として取扱うべきものと考えられる。
企業会計原則と商法の資本概念の相違
企業会計原則上の資本剰余金は、株式払込剰余金、減資差益及び合併差益からなる払込資本の他、受贈資本、評価替資本も含むものと考えられるが、これら受贈資本、評価替資本については、商法上その資本性を認めていない。この企業会計原則と商法における資本概念の相違部分たる、受贈資本及び評価替資本を、その他の資本剰余金という。
企業会計原則と商法とで、上記のようにそれぞれの資本概念が異なるのは、以下の理由による。
受贈資本については、企業会計原則は、企業主体理論に立脚し、この見地より、株主による払込資本のみならず企業自体の立場から維持すべきものとして受贈資本を資本としてとらえるのに対し、商法は、資本主理論に立脚し、株主による払込資本のみを資本としてとらえることから、両者の間で資本概念の相違が生じる。
また、評価替え資本については、企業会計原則は、例えば保険差益であれば、これが元の固定資産の再建設のための再投下される限り、何人も利得するものではないことから資本としてとらえるのに対し、商法は、株主の有限責任性の観点より株主が負う責任限度額を資本とし、それ以外のものを全て利益ととらえていくことになることから、両者の間で資本概念の相違が生じる。
その他の資本剰余金の取扱い
企業会計原則では、その他の資本剰余金につき、その他の剰余金の区分に記載する方法と圧縮記帳による方法とを認めている。
(注解・注2 資本取引と損益取引との区別について)
商法上資本準備金として認められる資本剰余金は限定されている。従って、資本剰余金のうち、資本準備金及び法律で定める準備金で資本準備金に準ずるもの以外のものを計上する場合には、その他の剰余金の区分に記載されることになる。
企業会計原則上、その他の資本剰余金を資本剰余金としているが、商法上、これを利益としている。そこで企業会計原則においても、商法との調整から、これを損益計算書における特別利益に記載することで、当期未処分利益を構成し、株主総会において利益の留保として積立ての決議を経た後、貸借対照表におけるその他の剰余金の区分に記載されることとしている。
(注解・注24 国庫補助金等によって取得した資産について)
国庫補助金、工事負担金等で取得した資産については、国庫補助金等に相当する金額をその取得原価から控除することができる。
この場合においては、貸借対照表の表示は、次のいずれかの方法によるものとする。
1.取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除する形式で記載する方法
2.取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除した残額のみを記載し、当該国庫補助金等の金額を注記する方法
企業会計原則上、贈与その他の無償で取得した資産については、公正な評価額をもって取得原価とすることを原則としつつ、特則として、国庫補助金等で取得した資産については、圧縮記帳を認めている。
圧縮記帳とは、国庫補助金等で取得した固定資産について、国庫補助金等に相当する金額をその取得原価から控除する処理方法である。
圧縮記帳は、国庫補助金等を益金とみる法人税が、それに対する即時の課税により、固定資産の取得が困難になるのを回避するために認めた課税の繰延制度である。
稼得資本
利益準備金(商法第288条)
利益準備金とは、商法上、積立が強制されている利益留保額であり、資本金の4分の1に達するまで毎決算期に利益の処分として支出する金額の10分の1以上、及び中間配当の金額の10分の1の積立が強制されているものであり、商法上、資本準備金とともに法定準備金を構成し、その使用は、資本の欠損の填補及び資本金への組入れの場合に限られる。
利益準備金は、商法が、会社の財政的基礎を強固にし、もって債権者保護を図る目的で利益の一部を社内に強制的に留保させるものである。
任意積立金
任意積立金とは、法律上の強制によらないで、定款の規定、契約又は株主総会の決議等によって積立てられる利益留保額である。
配当可能利益の限度額(商法第290条第1項)
商法では、株主の有限責任性に伴い、債権者を保護するため、会社の財産が不当に流出することがないよう、配当可能利益の限度額を定めている。
商法上、配当可能な利益の限度額は、貸借対照表の純資産額より以下の金額を控除した額となる。
@
資本金の額
A
資本準備金及び利益準備金の合計額
B
その決算期に積立てることを要する利益準備の額
C
貸借対照表に計上されている開業費・試験研究費・開発費の合計額がA及びBの合計額を超える場合は、その超過額
D
取締役又は使用人に譲渡するため及び、閉鎖会社において会社の売渡請求又は相続人からの請求により取得し、貸借対照表に計上されている自己株式の合計額
E
その他有価証券の評価差額
上記Cの超過額に配当制限が課されるのは、開業費・試験研究費・開発費の3つの繰延資産は、財産価値をもたない繰延資産の中でも、金額が巨額にのぼる可能性があるため、債権者保護の見地によるものである。
また、上記5の合計額に配当制限が課されるのは、取締役又は使用人に譲渡するため及び、閉鎖会社において会社の売渡請求又は相続人からの請求により取得し、貸借対照表に計上されている自己株式は、本質的に資産ではなく、資本の控除項目としての性格を有し、更に、これらの自己株式の取得財源を配当可能利益を限度とするという規制を設けている趣旨によるものである。
欠損の填補
商法では、貸借対照表上の純資産額が、資本金と法定準備金の合計額に満たないとき、その差額を欠損金という。
会社に欠損が生じている場合には、資本勘定の残高を取崩すことで填補する。その場合の填補順位は、以下のようになる。
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任意積立金
A
利益準備金
B
資本準備金
C
資本金
(22)
貸借対照表の表示(構成内容)
1 総額主義の原則
(貸借対照表原則、1のB)
資産、負債及び資本は、総額によって記載することを原則とし、資産の項目と負債又は資本の項目とを相殺することによって、その全部又は一部を貸借対照表から除去してはならない。
企業の財政規模を明らかにすることで、利害関係者が企業の財政状態に関し適切な判断を行えるようにするために、貸借対照表総額主義の原則は必要とされる。
2 区分表示の原則
(貸借対照表原則、二)
貸借対照表は、資産の部、負債の部及び資本の部の三区分に分ち、さらに資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産に、負債の部を流動負債及び固定負債に区分しなければならない。
3 項目の配列
(貸借対照表原則、三)
資産及び負債の項目の配列は、原則として、流動性配列法によるものとする。
流動性配列法
流動性配列法とは、貸借対照表項目を現金化の高いものから順に配列する方法で、資産については、流動資産、固定資産の順、負債については流動負債、固定資産の順、そして負債に続いて資本を配列する方法である。
流動性配列法は、企業が流動資産で流動負債を支払う能力を明らかにするのに便利であることから、多くの企業において採用される。
固定性配列法
固定性配列法とは、貸借対照表項目を現金化の低いものから順に配列する方法で、資産については、固定資産、流動資産の順、貸方は、まず資本を記載し、続いて負債については固定負債、流動負債の順で配列する方法である。
固定性配列法は、企業の長期的な資金運用形態たる固定資産と、同じく長期的資金調達源泉たる資本及び固定負債との関係を明らかにするのに便利であることから、固定資産の占める割合がきわめて高い企業において採用される。
4 科目分類の原則
(注解・注16 流動資産又は流動負債と固定資産又は固定資産とを区別する基準について)
受取手形、売掛金、前払金、支払手形、買掛金、前受金等の当該企業の主目的たる営業取引により発生した債権及び債務は、流動資産又は流動負債に属するものとする。ただし、これらの債権のうち、破産債権、更正債権及びこれに準ずる債権で一年以内に回収されないことが明らかなものは、固定資産たる投資その他の資産に属するものとする。
貸付金、借入金、差入保証金、受入保証人、当該企業の主目的以外の取引によって発生した未収金、未払い金等の債権及び債務で、貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に入金又は支払の期限が到来するものは、流動資産又は流動負債に属するものとし、入金又は支払の期限が一年をこえて到来するものは、投資その他の資産又は固定負債に属するものとする。
現金預金は、原則として、流動資産に属するが、預金については、貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に期限が到来するものは、流動資産に属するものとし、期限が一年をこえて到来するものは、投資その他の資産に属するものとする。
所有有価証券のうち、証券市場において流通するもので、短期的資金運用のために一時的に所有するものは、流動資産に属するものとし、証券市場において流通しないもの若しくは他の企業を支配する等の目的で長期的に所有するものは、投資その他の資産に属するものとする。
前払費用については、貸借対照表日の翌日から起算して一年以内に費用となるものは、流動資産に属するものとし、一年をこえる期間を経て費用となるものは、投資その他の資産に属するものとする。未収収益は流動資産に属するものとし、未払費用及び前受収益は、流動負債に属するものとする。
商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産は、流動資産に属するものとし、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工若しくは売却を予定しない財貨は、固定資産に属するものとする。
なお、固定資産のうち残存耐用年数が一年以下となったものも流動資産とせず固定資産に含ませ、たな卸資産のうち恒常在庫品として保有するもの若しくは余剰品として長期にわたって所有するものも固定資産とせず流動資産に含ませるものとする。
資産及び負債は、企業の支払能力を測定すること等を目的に、流動資産と固定資産、流動負債と固定負債とに分類して貸借対照表に表示される。そしてその分類基準として、一年基準と正常営業循環基準とが用いられる。
1年基準とは、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金又は支払の期限が到来するもの、または、費用化もしくは収益化するものを流動資産・流動負債とし、1年を超えて入金又は支払の期限が到来するもの、または、費用化もしくは収益化するものを固定資産・固定負債とする基準である。
正常営業循環基準とは、正常な営業循環過程内にある項目を流動資産・流動負債とする基準である。
(注解・注17 貸倒引当金又は減価償却累計額の控除形式について)
貸倒れ引当金又は減価償却累計額は、その債権又は有形固定資産が属する科目ごとに控除する形式で表示することを原則とするが、次の方法によることも妨げない。
1
二以上の科目について、貸倒引当金又は減価償却累計額を一括して記載する方法
2
債権又は有形固定資産について、貸倒引当金又は減価償却累計額を控除した残額のみを記載し、当該貸倒引当金又は減価償却累計額を注記する方法
5 注記
(貸借対照表原則、1のC)
受取手形の割引高又は裏書譲渡高、保証債務等の偶発債務、債務の担保に供している資産、発行済み株式1株当たり当期純利益及び同1株当たりの純資産額等企業の財務内容を判断するために重要な事項は、貸借対照表に注記しなければならない。