ASOBATの批判的考察
1960年代
米国における会計思潮の大きな変化
変化を示す文献
「基本的会計公準論」
「企業会計原則試案」
「基礎的会計理論(ASOBAT)」
ASOBATの概要とその評価
ASOBATの内容
第1章 序説
第2章 会計基準
第3章 外部利用者のための会計情報
第4章 内部経営管理者のための会計情報
第5章 会計理論の拡張
付録A 付属資料入手の方法
付属B 財務諸表の例示
第1章
会計の意義、目的、範囲、方法
会計
情報の利用者が判断や意思決定を行うにあたって、事情に精通した上でそれができるように、経済的情報を識別し、測定し、伝達する仮定である
会計の情報提供機能を重視した定義
情報の内容
営利企業における損益情報に限定されることなく、非営利目的の経済組織体における経済的資料をも含む
ASOBAT
広く個人、受託者、行政団体、慈善事業その他これに類似する経済単位の活動にも適用
内部経営者が利用する会計は、広く経済的概念に基づきながらも、経営に関する次第に増加してゆく知識から生ずる諸概念も含まなければならない
外部報告もその領域を拡大して、経営活動及び経営構造、さらにおそらく経営計画の測定までも包含するようななる
会計の目的
1. 有限の財を利用する際に適切な意思決定ができるようにすること
2. 経済組織体の人的及び物的資源を効率的に利用し管理すること
3. 資源の保全と管理についての受託責任や各種の法的責任の遂行の結果を明らかにすること
4. 課税、公共的規制や行政指導、労使関係の調整などの面において社会的な機能を果たすこと
投資家中心の会計という目的観よりは遥かに拡大され
財務会計と管理会計の両者が、情報提供という一つの包括的な目標観の下に統合されている
⇒「会計の範囲」の拡大
伝統的な会計報告書の場合のように、歴史的取引との関係についての情報や、予算、標準原価その他これに類似した場合のように、将来の計画または期待との関係についての情報
将来の計画または期待を問題とする会計技術がますます強調されるようになり、しかもこの傾向はさらに持続することが予想されるということを認識すること
従来の会計理論や会計原則
一般に承認されている
一般に認められた会計原則に準拠している
実質的に権威のある指示を受けている
→といった見地から妥当性を論じている
↓
現行の会計実務がすべてそのまま会計理論であるかのごとく誤解される
↓各種の会計実務の妥当性について
論理的な批判のフレームワークがない
→理論的な判断が下せない
会計情報の「有用性」
「包括的な規準」
規準に照らして会計情報の特性を示す「規準」とその伝達に関する「指針」を打ち立てている
諸基準
基礎的会計理論にとって必要かつ充分なものとして確立される
→現行の会計実務の適否を判断し、また改善について勧告を行うための尺度として役立つのみならず、さらに、会計の範囲を確立することにも役立つ
会計情報の有用性を達成するための「会計基準」
基礎的会計理論の骨格
潜在的な会計情報を評価するにあたって使用すべき基準を提供するもの
・
目的適合性
・
検証可能性
・
不偏性
・
量的表現可能性
会計情報の伝達
・
予期された利用に対する適合性
・
重要な関係の明示
・
環境的情報の付記
・
会計単位内部及び相互間の実務の統一性
・
会計実務の期間的継続性
外部利用者のための財務報告に適用する問題
伝統的な会計理論や会計原則において重視されてきた「喧騒可能性」
↓
・
「目的適合性」の優位性
・
「不偏性」の重要性
・
多元的評価による情報、とりわけ歴史的原価と時価による情報を提供
会計情報の基準の適用に関する問題
経営管理者の機能を伝統的に計画と統制に区分
活動をプログラム化されるものとされないものとに区別
→都合4つの組み合わせの下に計画と統制の方法や会計情報の性質などを吟味
会計学の基本的な性格
「情報システム」
複式簿記機構に縛られたものでなく
対象を財務資料のみに限定することなく
→広い研究方法と研究対象を持つように拡張されてくる
⇒インターディシプリナリーな研究領域の開発が必要
情報
提供するものと受け取るものとのかかわり合いにおいて、作り出され、また伝えられる
情報の提供
いかなる情報が求められているか
情報の提供によって情報を受けるものはどのような反応を示すか
→情報の利用者の要求や反応を調査研究しなければならない
⇒行動科学や統計学との連繋(電子計算機の活用という技術的な問題)
⇒コンピュータ・サイエンスや経済学との連繋(測定理論を精緻化)
⇒数学その他の関連科学との連繋
「説明的」なものではなく、「規範的」な性格をますます強めてくる
ASOBATの特徴とその評価
特徴@
「規範的」な性格が強い
伝統的な会計理論
現に行われている会計実務の説明の理論、正当化の理論
会計原則や会計理論の形成方法
機能的であり「叙述的」
会計の目的や機能を積極的に吟味することがない
現に行われている実務を素材として、その体系的な説明や一般化を試みることに重点がおかれる傾向
ASOBAT
各種の意思決定に役立つ有用な会計情報の提供という基準または目的観に立って
↓
会計理論を演繹的・規範的に形成することを試み
↓
現行実務や会計方法の妥当性を評価しようとしている
特徴A
会計情報システム論としての基礎的会計理論を展開
有効な意思決定に役立つ会計情報の提供に関する理論を樹立しようと試みている
情報をめぐる諸概念は重要
・
情報とは何か
・
情報とデータとはそのような関係になっているか
・
会計情報と日会計情報とはどのように異なるか
・
会計基準は情報処理のインプット基準なのかアウトプット基準なのか
→明らかでない
会計情報と測定とが量的表現可能性の会計基準によって密接に結び付けられている
・
測定とは何か
・
測定情報と非測定情報とはそのように違うのか
・
会計情報に対する要求の実態はどのようなものか
・
どのような行動科学的、社会学的アプローチなどによってどのような測定方法を利用または開発しなければならないのか
→明らかでない
さし当りはそのフレームワークを提供したに留まっている
解答を用意していない問題提起の書
特徴B
会計理論の拡張を試している
内容
会計研究及び実務の発展方向の予想であって啓蒙的な記事にすぎない
すべてが計画、統制及び意思決定に大きく役立つことが在るとしても、そのことが基礎的会計理論報告書と何らかの関係があるとは考えられない
古いものに対して新しいものが主張されるとき
何故に古いものがこれまで存続してきたか、何故に新しいものが生まれようとしているか、何故に古いものの全部または一部が消え去らなければならないかなどの点が冷静に分析検討されなければならない
<参考文献>
新井清光「ASOBATの批判的考察」『会計』第100巻第1号、森山書店、1971年7月