企業会計原則の会計学的意義

「企業会計原則」の性格についての二面性

「理想版」

「在るべき」会計原則

会計実践の指導原理であるとともに、会計法規改正への要求を蔵するところのもの

「現世版」

「在る」会計原則

現存する会計法規(商法の計算規定)の解釈の資料として、会計原則をみること

本稿の課題

表面化した会計原則の本質に関する問題を考察すること

「書かれた会計原則」における規範的性格は一体どのような意味をもっているのであろうか

企業会計原則

会計行動、すなわち行動としての会計ワーキング・ルール

会計実践に対する指導性という意味における規範的性格

「書かれた」会計原則の背後に「書かれざる」会計原則がある

「書かれざる」会計原則

当為としての会計原則

行動基準としての性格を端的にあらわすもの

「書かれた会計原則」(企業会計原則)

「一般に認められた」会計原則のすべてを表明するものということはできない

現実的諸条件の配慮の下に何がしかの妥協を強いられている

「一般に認められる」

本質的には「在るべき」会計原則として、かなりの幅をもったもの

基礎となる会計原則

歴史的、社会的存在として変転してやまない

「書かれた会計原則」

「在るべき」会計原則から離れざるをえない(宿命的)

BUT

強い規範性がある

「在るべき」会計原則とのつながりが認められるため

「一般に認められた」会計原則にかなりの幅がある

会計原則の社会的「形成力」を認識

会計原則

常に社会的要請に応える形成力をもたなければならない

会計行動基準としての会計原則の意義

企業をめぐる様々な利害関係集団の間に生ずる利害の相克を回避し,社会的構成体としての企業の持続と存立を確保するための基準

「在るべき」会計原則

歴史的・社会的存在として恒常不変のものではなく、現実的にインスティテューショナルにとらえられるべきもの

命題

会計原則は財務会計のみの基準であるか、それとも管理会計の基準でもありうるか

黒沢清「近代会計学の起訴としての会計原則の構造」

企業会計の基本的機能

(1)利害関係者に対する情報伝達機能

(2)情報伝達のために会計資料を測定する機能

(3)保全機能ないし内部統制機能(管理機能)

財務会計

伝達機能の会計と測定機能の会計

管理会計

管理機能の会計

財務会計と管理会計

会計機能としては区別される

諸機能は相互に補い協力することによってはじめてその目的を達成し得る

→企業会計を構成するようとして統一されなければならない

会計学

機能会計学として構成されるだけではその体系は未完成

  ↓

批判会計学(監査論)をその相互補完的な関係としてその体系のうちに取り入れる必要

  ↓両者を結びつける紐帯の役割

「会計原則」

財務諸表はもとより、原価計算、企業予算のすべての機能会計の領域における一般原則たる役割を果たすとともに批判会計学にとっても、共通の根本原則としての役割を持っている

財務会計と管理会計との統合を機能的観点から図るという傾向(アメリカ)

企業の利害関係集団のうち事実上最も強い影響力をもつ投資家層と債権者層の意識が次第に企業自体の立場を代表する経営者層のそれに近づき、同質化の傾向

→従来外部報告として財務会計の領域で扱われてきた財務諸表が経営者的立場で作成されるものとして、したがって同時に管理会計の内容として、論ぜられることさえ生じた

ex)マックス・ファーランド「管理会計上の諸概念」

  ↑

財務会計と管理会計との統合がなったとは考えない

 ↓

経営者が利害関係集団の要求に適応するというマネジメント機能の拡充を意味する

→「代表」機能

財務会計

極めて多義である

本質規定については定まったものがない

「外部利害関係者に情報を提供する会計」

  ↑

会計の目的が述べられているだけ

→会計そのものはどんなものかということが明らかではない

2タイプ

1.社会的制度としての財務会計

普遍的であり規範性をもつ

「在るべき」財務会計基準としての会計原則の対象として想定される

財務会計基準としての「在るべき」会計原則が管理会計にも共通に妥当するとは言い難い

2.個別企業で現実に営まれている会計としての財務会計

「書かれた」会計原則の規制の下にあって具体的に営まれているもの

管理会計と領域的に重なり合う

二つの会計が重なり合っている領域、あるいは二つの会計の交渉する領域については具体的な会計原則が共通的に支配する

「基礎的会計理論に関するステートメント」

会計原則を会計情報基準に関連付けようとする動き

*ねらい

情報的観点から統合理論としての会計理論を確立する基礎を提供しようとするところ

→会計原則の基礎をなす「会計公準」にむしろ属する

 

<参考文献>

溝口一雄「企業会計原則の会計学的意義」『会計』第100巻第1号、森山書店、19717