中国における会計規制体系の特徴
現在の中国における企業会計体系
母法:「中華人民共和国会計法」
基本的な会計規制:「企業会計準則」、「企業財務通則」
会計処理や表示方法、および財務管理方法についての基本原則を定めている
どの(形態の)企業も遵守しなければならない
基本的な会計規制の下に(3種類):「業種別会計制度」、「株式会社会計制度」、「外国投資企業会計制度」
企業の形態別に適用
ピラミッド型構造
3層構造
中国における企業会計制度の変遷
1949年に建国後
国家の経済政策の安定的な事項と国家による生産手段の統制の維持を主目的とするソ連型の会計制度が導入
中央集権的計画経済のための制度
国家資金が国家の計画に基づいてどのように利用され、生産目標がどれほど達成されたのかを重視した統制型制度
国家資金を計画的に利用する過程とその結果を監視するための記録システム
中国のすべての企業は国有化集団所有
企業の収益性や成長性などについては重要視されていなかった
会計情報の利用者
政府関係者のみ
1978年以降
「経済改革」「対外開放」
計画的市場経済体制へ移行
国有企業は著しく減少
国際総生産に占める割合
1980年からの10年間で76%から51%にまで減少
集団所有企業
24%から37%へ
私有企業
0%から12%へ
非国有企業にも対応した会計制度を拡充・修正しようとする改革
「会計法」の制定や業種別会計制度の改訂を経て、「企業会計準則」の段階
経済特区の創設とそれによす外国資本の流入、外資系企業における外国投資者が国際的に通用する方式で企業を管理するニーズ
1985年
「合弁企業会計制度」
1992年:中国の経済改革は「社会主義市場経済」へと進展
現代企業制度の構想が提起
1992年:「企業財務通則」および「企業会計準則」の公表(財政部)
1993年7月1日から
「企業会計準則」を中心とする新しい会計規制体系が構築
各会計制度について
(1)会計法
1985年1月25日:中国人民共和国主席令第21号によって公表
立法主旨
「会計制度を強化し、会計担当者の方による職権講師を保護し、会計の国家財政制度および財務制度を維持すること、社会主義公有財産を保護することおよび経済管理を強化し、経済効果を高めることにおける役割を発揮する」(第1条)
構成:6章立て
第1章 総則:適用範囲や会計管理体制
適用範囲
「すべての国営企業および事業単位、国家機関、社会団体、軍隊は、その会計事務をおこなうにあたっては、この法律に従わなければならない」(第2条)
第2章 会計計算:内容や会計プロセス、財務諸表の提出など
第3章 会計監督:会計機構および会計担当者による監督、国家機関および公認会計士により監督について
第4章 会計機構および会計担当者:その設置及び配置、その主な職責
第5章 法律責任
第6章 付則
制定された背景
@文化大革命の時期の法制度の欠落による社会秩序の崩壊という苦い経験
法によって国を管理するという政治的背景
A企業経営管理の混乱
会計気候の崩壊や会計担当者の不在等の経済的背景
B企業の経済構造における位置の変化
農村にける生産請負制の試行が成功したことにより、企業に経営請負制やリース系衛星が全面的に導入されるとうの制度的背景
会計行為をはじめて法制化したもの
1993年12月29日:改正
改正要因
社会主義市場経済体制になり、経済改革の進展とともに大きく発展したまま企業の会計業務の基本法としての意義を失わないため
1985年「会計法」施行後も、会計不正事件が増加しつづけていることに対する法的強制制と権威性を強めるため
最大の特徴
会計情報の真実性を強調したこと
(2)企業会計準則
1992年11月30日:財政部令第5号として公布
設定目的
「社会主義市場経済の発展の要請に答えて、会計処理の標準を統一し、会計情報の質を保証するために、「会計法」に基づいて、本基準を設定する」(第1条)
「基本会計準則」と「具体会計準則」から構成
(a)基本会計準則
構成:10章66条
第1章 総則、第2章 一般原則、第3章 資産、第4章 負債、第5章 所有者持分、第6章 収益、第7章 費用、第8章 利潤、第9章 財務報告、第10章 付則
@総則(第1章)
第1条
基準設定の目的、適用範囲および基準の機能、並びに会計をおこなう場合の前提
第2条
中国で設立されたすべての企業及び企業管理方式を採用している事業体がこの基準を適用すること
第3条
企業会計規則の設定にはこの基準に準拠しなければならないこと
第4章から第9章
企業実体、継続企業、会計期間、貨幣的測定、記帳方法、記録文字の6つの会計前提を規定
*記帳方法と記録文字を会計前提
中国特有
記帳方法
「会計記録は貸借記帳法(貸借複式簿記)によるものとする」
わざわざ貸借記帳法を強調するのは
従来から中国では、貸借記帳法のほか、増減記帳法や収支記帳法などが使用されていたから
記録文字
「会計記録は中国語によるものとする。ただし、少数民族自治区では当該少数民族の文字、外資企業では当該外国文字の使用も認める」
中国では漢民族以外に多くの少数民族がいることおよび外資系企業の増加傾向を考慮することから
A一般原則(第2章)
会計記録、会計処理及び財務書評の作成に関する一般原則として、真実性(客観性)、目的適合性、比較可能性、継続性、適時性、明瞭性、発生主義、収益費用の対応、保守主義、取得原価主義、資本的支出と収益的支出の区分、重要性の12をあげている(第10条〜第21条)
中国の国情に基づき、国際的会計慣行を参考にして要約したもの
目的適合性の原則(第11条)
「会計情報は国家のマクロ経済管理の要求に家内、企業の財政状態及び経営成績に関する関係各方面の情報要求を満足させ、企業が内部経営管理の強化要求を満足させなければならない」
会計情報の第一の利用者は国家
1990年
国有企業および集団所有企業が工業生産総額の約90%を占めていた
B会計要素(第3章〜第8章)
会計要素の概念並びにそれぞれの要素の認識、測定、記録および報告の基準を規定
規定の方式
会計処理方法を詳細に規定することなく、貸借対照表項目と損益計算書項目の概念の説明に重点をおいている
資産
企業が所有またはコントロールしており、貨幣で測定できる経済資産であって、各種の財産、債権その他の権利が含まれる
負債
企業が負担し、貨幣で測定できる、資産または役務の提供を必要とする債務である
収益
企業が商品を販売したり役務を提供するなどの取引のなかで実現した営業収益であって、基本業務収益とその他の業務収益が含まれる
費用
企業の生産経営過程のなかで発生した各々の消費額である
C財務報告(第9章)
財務報告の構成、財務諸表の体系、財務諸表の本質、財務諸表の基本的な区分と配列、財務諸表の表示原則を規定した部分
財務報告
「企業の財政状態及び経営成績を明らかにする文書であって、資産負債表、損益表、財政状態変動表(またはキャッシュ・フロー計算書)、付属明細票及び財務諸表注記事項、並びに財務状況説明書が含まれる」
(b)具体会計準則
一般業務準則、特殊業務準則、特殊業種準則、財務諸表準則から構成
企業会計準則設定当初の計画
基本会計準則に基づく具体的な会計処理基準を規定する予定
1996年の公開草案
国際会計基準を参考にした30項目に整備
2000年1月末まで
9項目は設定、施行され、残りは検討中
すでに施行
@関連当事者間の関係及び取引に関する開示
A後発事象
Bキャッシュ・フロー計算書
C会計方針、会計上の見積もりの変更及び会計誤謬の訂正
D収益
E投資(関連会社を含む)
F工事契約
G債務再構築
H非貨幣性資産による取引
検討中
貸借対照表、損益計算書、研究開発、無形資産、連結財務諸表、繰延費用、外国為替、贈与及び政府の補助金、企業結合、先物契約、リースなど
(3)企業財務通則
1993年7月1日より施行
「中国社会主義市場経済発展のための必要に適応し、企業の財務行為の規範として、企業の公平な競争に役立ち、財務管理と経済計算を強化するため」(第1条)
「業種別財務通則」:実施細則のようなもの
財務諸表の作成方法を含めた詳細な規則が制定
資金管理、流動資産管理、固定資産管理などの管理方法や会計処理方法が規定
内容
「企業会計準則」と重複する部分が多い
「企業会計準則」に規定されていない事項
@資本金の内訳区分
A貸倒損失の設定要件
B法定財産再評価益の処理
C税引後利潤の分配優先順位
D財政状況説明書の記載内容
E財務比率
(4)業種別会計制度
1978年から段階的に改革、改訂がおこなわれ、1993年の全面改訂に至った
「基本会計準則」が定める会計の諸要素及び財務諸表の具体的処理手続及びその様式
「工業企業会計制度」「商品流通企業会計制度」「建設業会計制度」「不動産開発業会計制度」「農業会計制度」「航空業会計制度」など13業種の業種別会計制度(1993年7月1日施行)に規定
計画経済時代に行政主管部門が企業を管理するために設定していた約40種の業種別・所有性別・部門別会計制度を基本的には継承したもの
↓その性格から
その業種の主管官庁が必要とする勘定科目と財務諸表についても定められている
業種毎に勘定科目の名称や使用方法が異なるため
異なる複数の業種にわたって事業を展開する企業集団にとっては、グループ全体の管理運営上及び連結財務諸表作成上の不便は多大
(5)株式会社会計制度
1998年1月1日より施行
設定の目的
「中国社会主義市場経済の発展による需要に適応し、株式会社の会計業務を強化させ、投資家及び債権者の合法的権利を保護するため、「会計法」、「会社法」、「企業会計準則」及び国家のその他の関連法律、法規に基づき、本制度を制定する」(第1条)
株式会社
企業会計準則に規定された原則と本制度の要求に基づき、会計計算や会計処理を行うことが制度上要求されている
*本制度以外の会計制度である業種別会計制度や外国投資企業会計制度
公開を前提としたものではない
株式会社会計制度
会計勘定科目と財務諸表及び添付資料から構成
「公開企業情報開示の内容及び様式」(1995年12月公布:中国証券監督管理委員会)
年度報告書を会計年度終了後4ヶ月以内に作成し、中国証券監督管理委員会、地方証券管理部門及び上場の証券取引所に送付
同時に報告の要旨を株主総会開催日の30日以上前に全国紙に掲載し、さらに同時に企業の所在地、取引証券取引所、関連証券機構及びその組織網に据え置き、株主及び大衆投資家が閲覧できること
(6)外国投資企業会計制度
外国の直接投資や企業進出による企業
外国企業と外資系企業の2種類に分類
外国企業
@中国国内に組織を設置し、生産・経営をおこなう
A中国国内に組織はないが中国国内に収益源泉を有する外国会社、企業及びその他の経済組織
外資系企業
中国国内に本部を設立する合弁企業、合作企業および外資企業のこと
1985年(財政部):「合弁企業会計制度」、「合弁工業企業勘定科目及び財務諸表」などを公表
合弁企業会計を制度化
1991年「会計改革綱要」が公表
@統一的な会計基準を設定する
A基本的克統一的な財務諸表の体系を確立する
1992年(財政部)
合弁企業、合作企業及び外資企業の3者を適用対象とする「外国投資企業会計制度」をはじめとする関連諸法令を公表し、合弁企業を対象とした「合弁企業会計制度」などを廃止する
1993年7月1日:「業種別財務通則」の設定
財政部から「外資系企業の新会計規制の執行における若干の問題に関する規定」が公表
外資系企業は「企業会計準則」を準拠すべきであるが、具体的な会計処理について、一部の例外を除き、従来どおり「外国投資企業会計制度」に準拠するとした
→1993年7月1日以降も、外資系企業会計は依然として「外国投資企業会計制度」によって規制
制度間の関係
(1)「企業会計準則」及び「企業財務通則」
ピラミッド型構造
中核に位置
3層構造
第2層に位置
「企業会計準則」
統一的会計制度
「会計法」を母法
「会計法」
「企業会計準則」の法的地位あるいは位置付けについて何も言及していない
「企業会計準則」という言葉さえ明記されておらず、その法的位置付けが曖昧
「企業財務通則」
会計規制体系におけるその位置付けは「企業会計準則」と同じ
企業の財務活動を規定するもの
直接、会計処理を規定するものではない
内容の多くは「企業会計準則」と重複
(2)「基本会計準則」と「具体会計準則」
現行の「基本会計準則」が新しく設定される「具体会計準則」と整合性がない
両者の差は大きい
「基本会計準則」と「具体会計準則」の関係
@一つの「具体会計準則」を設定する時、前者は必ずその目標とする方向を指導する
A後者に採用される用語・専門の名刺はすべて前者が規定する財務会計の要素に関連したもので、後者はそれをさらに細分化するものである
B後者は特定の具体的な業務に結びついた会計の認識・測定・報告について具体的に記載するものである
C当然、後者は前者に服従しなければならない。しかし、前者は比較的穏健であるのに対し、後者は絶えず新しい事象に対応して発展する性格をもっている
「具体会計準則」と「基本会計準則」とは必ずしも上位会の関係が固定した不変のシステムではない
両者は、絶えず変化するなかにあり、そして環境が変化し、発展するに従って両者は収支相互に依存しあう関係にある
(3)「具体会計準則」と「業種別会計制度」
両者の関係(3つの説)
@交替説
具体会計準則が整備された後、業種別会計制度を廃止すべきと主張
A臨時併存説
具体会計準則が整備された後も、しばらくは業種別会計制度と併存すべきと主張
B永久併存説(主流)
具体会計準則と業種別会計制度は、今後も継続して併存すべきと主張
現段階の中国
社会主義市場経済の発展途上
市場経済に相応しい社会の諸制度はこれから整備されていくので、「業種別会計制度」と「具体会計準則」の共存が必要
社会の諸制度が整備され市場経済が成熟する
「業種別会計制度」は中小企業
「具体会計準則」は上場企業や大会社に適用
「具体会計準則」
ある種の経済業務や会計要素を対象
認識、測定や情報の開示に重点
「業種別会計制度」
ある特定業種の企業を対象
会計帳簿の記録方法や財務諸表の具体的作成方法に重点
<参考文献>
小渕究「中国における会計規制体系の特徴」『慶應商学論集』第14巻第1号、2001年3月