会計観の選択と概念フレームワークの構築

FASB1976年討議資料

従来の通説的会計観:損益計算指向的会計観

→収益費用アプローチ

これに対比されるべき会計観

→資産負債アプローチ

目的

2つの会計観の論理公正をどう当期資料の叙述に会いたがって追跡し、各会計観の理論的特長点を筆者なりに整理した上で、1976年討議資料におけるFASBの問題提起の会計学的含意を検討すること

検討素材としての1976年討議資料の意義

(1)1976年討議資料における問題提起

近代的会計理論の確立

財産計算指向的会計観

  ↓転換

損益計算指向行為的会計観

→通説的会計観として資本主義各国の会計制度と会計実務を指導してきた

  ↓

(実務としての)財務報告は、損益計算書に焦点をあてたものから、貸借対照表に焦点を当てたものへの移行期にある

会計観の再「転換」の嚆矢

FASBの概念フレームワーク・プロジェクト(19731985

実質的な出発点:1976年討議資料

会計観の選択問題が提起

概念フレームワークの「基礎」にかかわる問題として提起

FASBが概念フレームワークに期待したもの

将来の財務会計基準および財務会計実務の基盤となり、そしてやがては現行の財務会計基準および財務会計実務を評価するための基礎として役立つような諸概念および諸関係

  ↓かかる機能を具備した概念フレームワーク

会計上の「憲法」

(2)概念フレームワークの原初的構想を伝える文献としての1976年討議資料

1978年〜1985年にかけて6つのSFACを公表

1976年討議資料に盛られたFASBの本源的会計観を底流に秘めながら

現行会計実務の容認に大きく傾斜したもの

公表の過程

実務界からの激しい抵抗

→現実へのなし崩し的な妥協を余儀なくされた

妥協としてのSFAC

一意的な解釈を許さない曖昧な記述を多く含む

ex)実質的ディフィーザンスの会計基準をめぐる論争

     実質的ディフィーザンスを債務の償還とみる論者

     これに異を唱える論者

  ↓双方が

SFACのまったく同じ記述を援用し、それぞれの見解の正当性を競った

SFACの当該記述

相互対立的な見解のいずれをも「正当化」し得るほど曖昧なもの

  ↓しかし

当該フレームワークの撤回や抜本的修正が現実の課題として提起されていない

→逆にその影響力は逆に国際的な広がりを見せつつある

2つの会計観とその論理構成

1976年討議資料

10章立て3部構成

会計観の選択問題

・第1部第2章「財務諸表要素を定義するための基礎」

(1)1976年討議資料における2つの会計観の提示

財務会計上の期間利益

財務諸表において伝達される情報の焦点

期間利益の本質、ならびに当該本質と経済的資源・義務の関係
→見解の対立
  ↓
FASBとしての規範的方向性を与えようとした

利益

一期間における企業の正味資産ないし資本の増減額

 or

当該期間における収益と費用の差額

利益計算書と財政状態が連携している

2つの利益測定は同一の測定プロセスに属し、企業の収益・費用差額は同時に、当該企業の正味資産ないし資本の増加額をなす

長期にわたる強調点の相違

2つの利益測定観を形成

     資産負債アプローチと称する利益測定観
     収益費用アプローチと称する利益測定観

→利益の測定および財政状態の報告において重要な相違をもたらす

「重要な相違」を明らかにすること

=資産、負債、収益、費用、およびその他の財務諸表要素を定義するための基礎

資産負債アプローチと収益費用アプローチのいずれかを選択するという概念問題

その明確な定義型の要素の定義を規定するような最も基本的な要素は何かという選択問題

(2)資産負債アプローチ

利益

一期間における営利企業の正味資源の増分の測定値

鍵概念

資産

企業の経済的資源の財務的表現

負債

将来他の実体に資源を引き渡す企業に義務の財務的表現

資産・負債の属性および当該属性の変動を測定することが、財務会計における基本的な測定プロセス

その他の財務諸表要素

資産および負債が有する属性の測定値の差額または変動額として測定される

収益

当該期間における資産の増加および負債の減少に基いて定義

費用

当該期間における資産の減少および負債の増加に基いて定義

正味資産の増減をもたらすすべての項目が、利益を構成するわけではない

資本拠出、資本引出、過年度利益修正

正味資産の増減要素
利益の構成要素ではない

収益と費用の適切な対応

資産と負債の適切な定義と測定の必然的な結果

→利益は資産・負債の従属変数

利益(一義的)

資産−負債=正味資産

正味資産の増加=利益

(3)収益費用アプローチ

利益

アウトプットの獲得および販売を目的としてインプットを収益的に活用する企業の活動成果の測定値

鍵概念

収益

企業の収益稼得活動からのアウトプットの財務的表現

費用

企業の収益稼得活動へのインプットの財務的表現

収益・費用の測定、ならびに一期間における努力(費用)と成果(収益)を関連付けるための収益・費用認識の時点調整が、財務会計における基本的な測定プロセス

利益(一義的)

収益−費用=利益

→費用の収益への対応(現行会計実務の基礎)

プロセス(2つの段階)

「実現」

「対応」(3つの認識ルール)

(1)原因と結果の関連付け
(2)組織的かつ合理的な配分
(3)即時認識

資産・負債の定義および測定

利益測定の必要性によって規定される

収益費用アプローチに基く貸借対照表

企業の経済的資源を表さない項目や、他の実態に資源を引き渡す義務を表さない項目が、資産・負債またはその他の要素として主要される

2つの会計観の相違

2つの会計観の間に見られる相違

     実質的な相違

     実質的でない相違

(1)実質的でない相違

     特定の会計観と特定の財務諸表の結びつきに関する「相違」

     特定の会計観と特定の測定基準の結びつきに関する「相違」

特定の会計観と特定の財務諸表の結びつき

利益測定は財務会計および財務諸表の焦点であるということに土江、2つのグループは意見が一致している

財務諸表の連携を前提

利益の測定と資産・負債の増減の測定
=同一の測定の異なる側面

特定の会計観と特定の測定基準の結びつき

各アプロ−チと特定の測定基準との必然的な結びつきは存在しない

ex

収益費用アプローチの本での利益測定
「歴史的費消原価を収益に対応させること」に限定されないのであって、「現在取替原価を販売収益に対応させること」も可能

(2)実質的な相違

・貸借対照表項目の範囲を経済的資源なしその引渡し義務の財務的表現としての資産・負債に限定するか、あるいは当該範囲を計算擬制的項目にまで拡大するか

・利益の本質を正味資産の増分とみるか、あるいは当該本質を収益と費用の差額とみるか

貸借対照表項目の範囲

収益費用アプローチ

利益〜当該成果の測定値
一期間における収益と費用の良好もしくは適切な対応にもとづく「収益・費用の差額」として測定
計算擬制的項目
これらの項目は、企業の経済的資源や他の実態に資源を引き渡す企業の義務を表さないので、資産でも負債でもないが、期間利益を適正に測定するためには必要なもの

資産負債アプローチ

利益〜当該変動の測定値
一期間における当該企業の資産・負債の変動のみから生じる
資産・負債
当該企業の経済的資源ないしその引渡し義務の財務的表現としての資産・負債に限定される
計算擬制的項目の財政状態表への記載
経済的資源・義務を表さない資産・負債を生み出すと同時に、当該企業の(経済的)資源・義務の変動からではなく帳簿記入から生じる収益・費用を認識することにつながる
→容認しえない

利益の本質

収益費用アプローチ

利益
企業内ないしの経営者の経常的、標準的、長期的な業績指標ないし成果指標
  ↓
経常的業績の測定に適合しない事象の財務的影響を排除し、企業業績に対して長期的に飲み作用する事象の財務的影響を平均化する
  ↓課題を遂行するため
経済的資源・義務の当期の変動に基かない収益・費用を認識し、さらいその派生的手続として、経済的資源・義務を表さない資産・負債ないしその他の貸借対照表項目を記録することが必要となる
利益測定を経済的資源・義務の変動にのみ関連付けること
→収益と費用の不適切な対応
利益、収益、費用、適切な対応、利益の歪曲といった基本的諸概念が明確に定義されない限り
→利益はほとんどまったく主観的なものにとどまる
客観的な基準を明示しないまま、「経済的資源・義務の変動を反映しない利益」と「報告利益の人為的な平準化」を実務において再生産しつづけている

資産負債アプローチ

企業の経済的資源ならびに将来他の実体に経済的資源を引き渡す企業の義務に基いて資産および負債を定義づけ、またかかる資産および負債の変動に基いて利益を定義づけることによってしか達成されえない
→利益水準の非連続的な変動
収益、費用、利益の定義に対して、経済的資源・義務の変動との関連付けという制約を課することは、利益概念を明確化し、利益測定値の信頼性を高める

 

<参考文献>

藤井秀樹「会計観の選択と概念フレームワークの構築−FASB 1976年討議資料における二つの会計観について−」『経済論叢(京都大学)』第150巻第1号、19927