「新しい会計史」としての会計変化の理論
これまでの会計史とは異なる会計史の存在を指摘
「会計士は過去10年間で大きく変わった。この変化は、方法論の多様化と会計学における歴史の位置付けの変化を意味している。こうした変化の程度は、多様な研究課題の集まりとして、『新しい会計史(the new accounting history)』といってもいいほどのものと思われる」(Miller)
これまでとは異なる会計史、そうした意味で「新しい会計史」が出現
「新しい会計史」
歴史学における「新しい歴史」の会計版
新しい歴史の特徴
新しい歴史
フランスのアナ―ル学派と深い関わりのアル歴史のアプローチ
ニュー・ヒストリー
伝統的な『パラダイム』に対する意図的な反動としてかかれた歴史を意味する
ニュー・ヒストリーと伝統的なパラダイムの対照(7点)
@政治史から全体史・社会史
政治だけでなく、人間活動のほとんどすべてに関心をもつ
現実的なものは社会的もしくは文化的に構築されているとする観念
A事件史から構造史
伝統的な歴史家が歴史を事件の物語と考えているのに足しいて、構造の分析に関心が向けられている
B偉人の歴史から普通の人々の歴史
×政治家や将軍と失態人の偉大な業績に焦点をあわせる「上からの視点」
○普通の人々からの「下からの歴史」に関心
C文書資料から多様な資料へ
文書の形で残された資料だけでなく、視覚的な資料や口述による資料など多様な資料を検討
D個人の意図的な行動から集団的運動・社会的状況へ
個人的行動の意図を探るよりは、その社会的な背景などを探る
E客観的な事実の提供から相対的な歴史叙述へ
唯一・絶対の歴史・事実ではなく、文化相対主義的な、多様な解釈を認める歴史叙述を行なう
F専門職としての歴史学から学際的な歴史学へ
人間行動全般に関心を持ち、他の分野の研究者からも学び、共同研究を行なう
新しい会計史の特徴
伝統的な歴史研究に対して、社会的な歴史研究と実証的会計理論の適用による歴史研究を対置
「新しい会計史」あるいは「これまでとは異なる会計史」の存在を述べる研究者の共通点
フーコーの影響が大きい
新しい会計史の特徴
@方法論が多様化している
・フーコーの考えを援用した研究
・マルクス主義の労働過程アプローチ
・社会学者ハーバーマスのアプローチ
・哲学者デゥーイのパースペクティブ
→「新しい」歴史をすべて同じように扱うことはできない
新しい会計史
明確な理論的境界線を持つ単一の研究プログラムを表すのではなく、全く異なることが多い研究課題のゆるやかな集まり
A社会的コンテクストへの埋め込みを重視
会計
組織に埋め込まれた現象
組織や社会に埋め込まれている
会計あるいは会計変化
社会的な要因に関わらせて理解しようとする
「埋め込み」(embedding,
embeddedness)
社会言語学でも言語変化を社会的コンテクストで捉える時に使われるもの
言語や会計における変化を社会的な要因あるいは社会や組織などの社会的コンテクストで捉える時に使われる用語
埋め込み
コンテクスト化(ネイピア)
コンテクスト・アプローチ、コンテクスト主義(スチュアート)
個人の意図的な行動から集団的運動・社会的状況へ
B「進歩」・「進化」については懐疑的
懐疑的にみられる
「一直線に発展する」かのような「進歩」の概念
Cフィールド・スタディが利用される
歴史的な文書を研究して歴史を書き上げるだけでなく、会計変化が生じた現場に出かけて関係者にインタビューをするなど
多様な資料の利用
D会計の築造面を重視
「埋め込み」の内容の一つの側面を具体的に表したもの
会計
組織や経済社会の変化に従って変化するだけではなく、逆に組織や経済社会を構成的に変化させる面ももっている
E小さな出来事にも注目
特定の企業における会計の変化といったような、ある意味で「つまらない」出来事なども扱われる
「新しい会計史」と「会計変化の理論」という用語
意味が確立しているわけではない
こうした用語で言い表されるような研究活動がばらばらに行なわれており、実体としての意味をもつほど体系的には行なわれていない
新しい歴史の特徴と同じように、新しい会計の研究者が共通にその特徴を意識しているわけでもなければ、その研究成果が共通にその特徴をもっているわけではない
<参考文献>
永野則雄「「新しい会計史」としての会計変化の理論」『会計』第154巻第1号、森山書店、1998年7月