日中会計モデルの比較研究の一端 ―「市場経済化」と会計改革―
中国
共産党の一党支配
社会主義市場経済といわれる経済体制
中央政府による計画的統制経済に政教分離の考え
・政治
社会主義体制で紛れもなく国家管理による全体主義
・経済
市場原理に委ねる株式所有制を導入
一国経済がその国の中央政府による計画と統制の中にあること
資本主義だって同じ
経済運営の主体が国家であるかの違い
国家が主体
株式所有制を採用していても政府の意図で市場経済化を左右することになる可能性が高い
国有企業に株式所有制を導入
国家持分が支配的な割合であると市場経済とは縁遠い
中国社会主義市場経済と会計制度改革
中国社会主義市場経済
@中国の社会主義経済は公有制を基礎とする計画のある商品経済である(1984年)
A計画経済体制は計画と市場が内在的に統一する体制でなければならない(1987年)
B中国の特色ある社会主義の道に沿って前進、改革・開放推進、勤倹建国(1990年)
C社会主義市場経済体制構築、国民総生産年間平均6%の伸び率を目標(1992年)
D2010年までの長期目標の制定を提案、物質技術と経済体制の基礎樹立(1995年)
Eケ小平理論(先富起来)に基づいた社会主義経済の更なる推進(1997年)
1992年の第14期代表大会
社会主義市場経済の基本的枠組み
所有制、市場体系、政府機能、分配制度、社会保障等に関する基本的規定を市場経済化の方向にシフトするもの
特徴
経済関係の市場化、企業行為の自主化、マクロ規制の間接化、経営管理の法制化、社会保障の体系化
会計制度の改革
@市場経済体制に適応する管理型会計モデルを、会計計算体系を基礎として、会計管理体系を中心とし、会計組織体形を保証するように構築
A政府主導型の会計管理体系を確立
特徴
政府は会計法規、会計監督体系の確立・完備を通して、政策指導、情報サービス、組織調和、監督および検査等の措置をとって間接的に会計活動を管理し、同時に、会計職業団体の役割を十分に発揮させ、調査、討議、提案および監督等の措置を取って、会計の管理活動に参与すること
会計管理機構を設立し完備
国務院財政部は全国の会計活動を管理し、県クラス以上の各級地方人民政府の財政部門は当該行政区域の会計活動を管理
会計規範を確立し完備
国家権利機関:会計法律
国務院:会計行政法規
省、市、自治区権利機関:地方会計行政法規
国務院主幹部:会計行政規則制度
中国統一の会計制度
国務院財政部:「中華人民共和国会計法」に基づいて制定
B会計法規体制の確立
「中華人民共和国会計法」
国家機関、社会団体、企業、事業単位、個人工商業者、その他の組織の会計活動は必ず「会計法」を守らなければならない
国務院財政部
「工業企業会計制度」「農業企業会計制度」「商品流通企業財務制度」等の会計行政規則制度を制定
C会計活動の現代化の漸進的実現
規範化、科学化、法制化、国際化
D会計市場の完備
1983年(国務院):「中華人民共和国会計士条例」公布
1991年:公認会計士試験実施
1994年:「中華人民共和国会計士法」施行
E現代的企業財務会計制度の構築
「中華人民共和国会社法」による、法人財政権の容認、財務目標管理を実施する経営責任制度、資金に関する日常管理規定、責任単位資金目標管理、内部監督規制、財務会計制度の体系の確立
F資本市場に対する対応
生産経営から資本経営への転換
資本経営
「利益最大化原則のもとで、資本運動と資本形態の変化を通じて、資本を配置・運用し、出資者の権益を保護し、資本価値の維持・増加を実現する行為」
資本循環の最適化を目標
資本経営のモデル
「製品を基礎、資本要素の流動、棚卸資本の最適配置、増量資本の再構成、無形資産経営の重視」
G会計の国際的調和化
IASCの国際会計基準、EUの会計指令、その他の主要国家の会計基準、会計観行および関連法律等との調和
会計の国際的調和の条件
中国の会計準則(基準)が国際経済の通用規則に適応する、国際会計基準と調和する、社会主義市場経済体制の確立に適応すること
調和化のためのルート
国家政府機関組織、企業集団組織、民間組織それぞれの国際的会計交流活動への参加
H会計教育体系の構築
1998年(国務院財政部):「会計人員継続教育暫行規定」公布
日中会計モデルの比較
市場経済の観点から見た共通点
比較の視点
「市場経済」
中国の社会主義市場経済と日本の資本主義経済の共通点
市場経済に対応する会計制度を会社法(商法等)および会計基準(会計準則)等の規範に準拠させる制度を採用
→共通性
その方針、内容、期待される効果、制定時期など
→国情による違い
日本
敗戦後、アメリカ型の市場経済への転換
証券資本主義への道
証券取引法、公認会計士法の制定
中国
法制度整備に着手
証券取引法:2000年7月公布・施行
公認会計士法:1994年施行
証券取引法の法的整備
日本:敗戦という事実を背景
中国:文化大革命の否定を背景、改革開放政策によって自主的に採用
→採用の契機に違い
証券市場経済に焦点→共通
日本
戦後経済復興
計画経済および官僚統制の導入
国家経済および国民経済の再建目標:福祉国家の建設
経済的原動力
輸出主導型の産業構造の構築
工業の安定成長
戦後の証券市場型経済の挫折
急速な経済発展のために、資金調達を金融資本に依存
政・官・財の癒着のもとで、金融統制型経済に移行
→健全な証券市場の発展を阻害
中国
国家による金融統制が基本
証券金融は補完的
株式所有制
80年代に広州と上海で施行
90年代に入って拡大
非流通株(国有株、法人株):全体の66%
→国家の方針に従ったもの
流通株(大衆株、外資株):全普通株式の34%
証券取引に著しい制約
日中両国の共通した金融経済の特色
統制金融型市場経済
政治経済体制から見た相違点
政治思想の違い
社会主義と資本主義
所有権に対する理解が根本的に異なる
・社会主義
社会的所有の観念が基本
個人所有は例外的
株式所有制を導入しても、国家による支配および統制が証券市場の自由な発達にとって制約
・資本主義
個人所有制が原則
国家による支配および統制は例外的
現在の市場主義
証券資本主義の発展を内在的目的
政治と経済の分離が基本理念
自由な市場取引によって証券価格が形成され、企業価値の評価が、株式時価総額のように、市場相場の動きに連動して決定
2000年からの日本企業
全面的な時価会計
伝統的な原価主義のもとで、「含み益」や「含み損」を抱えて「含み経営」を経営操縦の手段としていた慣習との強制的な決別
企業統治の主体者が経営者から株主に移行
→本来の株主資本主義に戻った
社会主義中国の会計制度改革
企業
国家および労働者のために存在するという理念
株式所有制の根底に、存在
→株主の利害を専ら尊重する会計基準を制度化できない
日本の会計制度と中国の会計制度との間に存在する理念的違いを示唆
日本の会計制度改革
欧米の基本的社会理念である「民主主義」と「市場主義」
政府主導型の会計管理体系の確立を目標とする中国
会計制度はマクロ経済の間接規制の手段
↓この大原則のもと
市場経済体制に適応する管理型会計モデルを構築することが会計制度改革の主眼
同じ会計的技法を採用
基本理念においては自由主義経済諸国のもとの異ならざるをえない
今後の検討課題
「市場経済」の認知に関する両国の基本姿勢の違い
会計制度改革の方向性に影響
中国の「市場経済化」
国有企業改革と開放経済の導入を具体化するための基本テーゼ
計画経済と市場が内在的に統一する体制でなければならないという認識を基礎
株式所有制および私有制
公有制の補完
会計制度改革
国家およびマクロ経済への貢献の評価という視点が不可欠
会計制度の国際的調和化に多くの困難な過大が潜在
会計基準の国際的調和化
国際証券市場および国際投資家が投資対象である株式等の評価を世界共通の会計基準によって行えるように、統一の国際会計基準を通用せしめようとするもの
国際会計基準
投資家の投資判断の形成に寄与することを目的とするもの
株主価値の表明を会計情報に求めるもの
証券資本主義の要請を反映した会計基準
それ以外の価値基準を持った会計基準
→国際証券取引市場では「世界標準ではない」という烙印
市場主義
「市場」が国家を凌駕する
市場の形成に参画することが国家および国民経済を守るための第一条件
IASCで基準の設定に参加すること
→自国の意思を表明するために不可欠の条件
<参考文献>
吉田寛「日中会計モデルの比較研究の一端」『会計』第158巻第5号、森山書店、2000年11月