IASBが目指す“会計基準の正解統一”と、日本の対応
IASBが目指している会計基準の世界統一(convergence)について
(1)IASBの目的(定款(constitution)の第2パラグラフ)
(a)パブリック・インタレストのために、高品質、理解可能そして実施可能な唯一のグローバル・アカウンティング・スタンダードをつくる。このようなスタンダードは、国際金融市場への参加者およびその他の経済的意思決定を行う利用者を助けるために、財務諸表およびその他の財務報告に高品質で、透明性が高くかつ比較可能な情報の開示を要求することになる。
(b)このようなスタンダードの、利用と厳格な適用を促進する
(c)高品質な問題解決のために、各国会計基準と国際会計基準の統一(または、収斂(Convergence)を達成する
↓つまり
各国会計基準を国際会計基準に統一すること
*IASCの目的
調和(Harmonization)を目指す
各国会計基準を可能な限り国際会計基準に近くなるように整合性を図るという、柔軟性のある国際的調和化(International Harmonization)
統一(convergence)
各国会計基準を国際会計基準と同じにするのが究極の目的
↑
早期統一は現実的に困難
→IASBの趣意書(Preface to IFRS)草案のパラグラフ7
IASBは、IFRSと各国会計基準との統一を最大限成し遂げるために、各国会計基準設定主体と一緒にIFRSの制定作業を行っていく
IASC−国際会計基準(IAS)
IASB−国際財務報告基準(IFRS)
(2)新しい目的設定の背景
IAS←IOSCOの承認
→大企業によって幅広く実務において使用される可能性はかなり低い
↓
組織の大幅な変更
公認会計士だけでなく他の分野からも幅広く人材と資金を投入して、より独立性と透明性の高い組織にした上で真のグローバル・スタンダードを作ろう
→IASB
(3)会計基準の世界統一は果たして可能か?
IASB副議長(Thomas E Jones)
法律システム
それぞれの国民性や特有の文化を反映したその国固有のもの
会計
法律とは異なる技術的な手法
文化の違い
↓
会計処理の方法に影響を与えるということは本来ありえない
会計基準世界統一の手法、Joint Project Approachについて
(1)Joint Projectへの関与の度合い
Joint Project Approach (IASBが前述の目的を達成する方法)
主要8カ国の会計基準設定主体と共同で作成していくというアプローチ
Joint Projectに関与する度合い
@ リード
単独でまたはIASBと共同で、特定のプロジェクトの初めから終わりまでのすべてのプロセスを責任を持って遂行する
A サポート
リード役国を、あらゆる面でサポートしていく。これを担当する国の基準設定主体のスタッフは、約50%の時間をこのプロジェクトに費やすのが目安
B モニター
リード役国やサポート役国の求めに応じて、担当した特定のプロジェクトについての、調査・研究やコメント提出等の支援を行う。約10~20%の時間を使うことを予定
*日本―モニター役
(2)旧G4+1の影響力
14人の理事―アングロ・サクソン10人
例
株式報酬制度
旧G4+1が公表したDPをそのままIASBのDPとした
企業結合、のれん会計
SFAS141,142号とほとんど同じ内容の基準を採用する方向
IASBのアジェンダ
P18~19参照
日本の新しい会計基準設定主体の対応
(1)IASB活動への日本の貢献とそれに比例しない影響力
日本―米国に次ぐ大口のIASB運営資金拠出国
↓
日本の主張が基準設定プロセスに充分反映されているとはいえない
原因
@ ドイツ・フランス
旧G4+1と同じ考え方を取る
A 非英語国
B 日本独特の実務慣行を理解してもらうことが難しい
(2)日本の会計基準設定主体の自主性・自立性の保持
アングロ・サクソン国
自国の主張を国際会計基準作りの中で反映している国
→結果できあがった国際会計基準と同じ内容のものを自国基準にすればよい
日本
自国の最良だけで自国の会計基準を作る余地が狭まった
→日本の会計基準設定主体
IASBの単なる下請け機関
(3)中長期的観点からの対策が必要
@ 2~3つのプロジェクトにリード役を買って出る
A 能力を備えた人材を早急に育成する必要
B 英語教育の根本的見直し
C 英語および国際的な会計教育を専門的に行うアカウンティング・スクールの設置
日本における会計の今後のあり方
(1)会計ビックバンが企業経営に与えたインパクト
@ 金融商品会計基準
金融商品の時価評価
→含み損経営の終焉
持合株の放出
→企業系列の崩壊・企業の銀行離れ・メインバンク制の弱体化・間接金融から直接金融へのシフト
A 退職給付会計基準
莫大な積み立て不足年金負債の表面化
B 実質支配力基準
子会社・関連会社の管理方法や企業グループの運営方針を見直さざるを得なくなった
C キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー管理の重要性の再認識
将来キャッシュ・フローを生まないバランス・シート科目の処分
D 税効果会計
タックス・プランニングの重要性の再認識
税金も企業経営上のコストあるいは利益であるとの認識
(2)会計は、時として企業行動をリードするべきではないの?
今まで−会計=簿記的なもの
これから−先駆的な役割、企業経営をリード
<参考文献>
加藤厚「IASBが目指す“会計基準の世界統一”と、日本の対応」『会計』第161巻第3号、森山書店、2002年3月