アメリカの会計基準における資産・負債アプローチの役割
SFAC6号(1985)
資産
過去の取引または事象の結果として、ある特定の実体により取得または支配されている、発生可能性の高い将来の経済的便益
負債
過去の取引または事象の結果として、特定の実体が他の実体に対して、将来、資産を譲渡しまたは用役を提供しなければならない現在の債務から生じる、発生可能性の高い将来の経済的便益の犠牲
収益、費用
資産、負債の増減額
⇒資産・負債アプローチ
問題点
・最近のアメリカの会計基準が資産・負債アプローチに基づいて首尾一貫した体系をとっているか
@リースの会計処理
A従業員の退職給付
B資産の除却債務の会計処理
・利益の計算上、否定したはずの収益や費用の対応・配分から脱却しているのか
↓そして、資産・負債アプローチが
実際にはどのような役割を果たしているのか
@リース取引における借手側の会計処理
FASB基準書第13号
@リース契約が解約不能
Aリース資産にかかるコストを実質的にすべて負担
→売買取引として会計処理(日本:ファイナンス・リース)
リース資産
通常の資産と擬制して認識
→「将来の経済的便益」○
将来企業から流出するキャッシュ・アウトフローである支払リース料の割引現在価値
→「将来の経済的便益の擬制」○
↑
収益・費用アプローチとして特徴付けられる従来の会計処理では認識されてこなかった経済的資源のストックを資産・負債として認識
BUT
将来のキャッシュ・アウトフローの割引現在価値で測定されるリース資産の取得原価が、将来のキャッシュフローのパターンとはまったく独立して規則的に各期の費用に配分されている点
↑
従来からの費用配分の操作が組み込まれている
A従業員の退職給付の会計処理
FASB基準書第87号
負債〜キャッシュ・アウトフローである退職給付の割引現在価値
→「将来の経済的便益の犠牲」○
問題点
FASB基準書第143号
将来のキャッシュ・アウトフローのうち、費用として当期までに発生した分だけを負債として認識する引当方式は、負債の全貌を表さないという理由で否定されている
仮定:将来の退職給付見込み額全額を現在の負債としたら会計処理はどうなるか
@その負債の全額を当期の費用として計上する
→将来の退職金は当期の費用ではない×
Aその負債にみあう資産を計上し、従業員の勤務期間にわたって償却する
→一般的にこの種の人的資産を認識することは認められていない×
⇒現実には不可能
資産・負債アプローチを適用する前に、既に費用配分の観点に依拠している
B資産の除却債務の会計処理
基準書第143号
資産の除却コスト
割引現在価値で当該資産の取得時に負債として認識し、資産の取得原価に算入
→減価償却
負債
将来キャッシュ・アウトフローである除却コストの公正価値をあらわしている
→「経済的便益の犠牲」○
資産
→はたして資産性があるといえるのか?
除却コスト
資産を利用するうえで必要なコストであるから、取得原価に算入する必要がある(基準書第143号)
→資産の利用に不可欠な修繕費の会計処理は?
↓
資産の機能の現状を回復させる修繕費は取得原価に算入されない
除却コストが取得原価であるとは言い難い
別の種類の資産となるか?
全額を費用←取得にかかるコストであるから×
無形資産←資産性がない
⇒負債の認識に伴って発生する費用を繰り延べた計算擬制的な項目
資産・負債アプローチ
↑
収益・費用の対応・配分のプロセスから生じる計算擬制的項目を排除するために採用
この場合
費用に先立ち負債を認識
↓
資産性を否定するほかはない資産の認識
⇒資産・負債アプローチと矛盾する処理を生み出している
三つの会計基準に共通の概念
利益の計算上のコスト
× 当期の費用
○ 資産の利用期間にわたる費用として配分
利益(資産・負債アプローチによる)
資産・負債の額の変動分で測定される
↓にもかかわらず
利益の計算を目的とした配分の観点が優先されている
リース会計処理
購入した場合と同じ費用配分を達成するために資産・負債を認識
↓
費用配分の合理性を確保することが基本的な観点
従業員の退職給付会計
将来に支払う退職給付額を勤務期間に配分し、未経過分について負債を計上しないという方法
↓
費用配分の観点から負債の認識と評価を定めるもの
費消した労働サービスに見合う退職給付の現在価値を認識する負債の概念自体
↑
発生ベースによる費用配分の考え方に依拠していた
費用配分の観点
↓
利益の計算とともに資産・負債の認識と評価を基本的に制約している
資産・負債アプローチ
その制約のもとで、配分のあり方を補完的に決める役割を果たしている
資産負債アプローチの役割
実態に合った期間配分を達成するために資産や負債のストックを認識する必要があるとき、そのストックの識別基準を提供すること
概念ステートメントにいう資産・負債アプローチを機械的に適用しようとすると
⇒資産・負債アプローチそのものと矛盾する会計処理に帰着してしまう
<参考文献>
坂井映子「アメリカの会計基準における資産・負債アプローチの役割」『会計』第161巻第6号、森山書店、2002年6月