アメリカ会計諸原則におけるアプローチの時系列的研究
本稿の趣旨
収益費用アプローチから資産負債アプローチと言う会計思考の大転換が本当にあったのか?
『会計財務諸表に関する会計および報告基準1957年改訂版』
「新たな会計思考」の「萌芽」
会計思考の転換点
→それ以降の諸原則は資産負債アプローチによって成立
『1957年原則』以前の諸原則
収益費用アプローチ
・『会社報告諸表会計原則試案』(1936)
・『会社財務諸表の基礎をなす会計原則』(1941)
・『会社財務諸表の基礎をなす会計諸概念および諸基準』(1948)
分析の視点
収益費用アプローチか資産負債アプローチかの判断
費用収益の対応を目的とした「繰延費用」および「繰延収益・引当金」の計上を認めるか否かという点
*同一項目、同一金額の「繰延費用」あるいは「繰延収益・引当金」
・費用収益の対応を達成するための手段と考えて貸借対照表に計上する
・企業の権利あるいは義務を表すものとして計上する
⇒全く異なった性格を有する
重要…意味付け
実質をみる思考
「繰延費用」あるいは「繰延収益・引当金」ばかりではなく、すべての項目の説明に当てはまる
『1936年試案』の会計アプローチ
費用の繰延に言及していると考えられる可能性があるもの
社債の発行差額の処理を扱った第6項のみ
↓
*我が国『企業会計原則』
「既に代価の支払が完了しまたは支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来に渡って発言するものと期待される費用」として繰り延べ、社債発行差金として資産計上することが認められている
↓
「連続意見書第5」
収益との対応関係を重視して、数期間の費用として、これを配分する
⇒繰延処理の根拠を費用収益の対応、すなわち収益費用アプローチに求めている
『1936年試案』
債務の総額がそれによって受け取った金額を超過する部分は、支払期日において支払わなければならない利息を表すものであって、このような利息のみ発生部分は貸借対照表において債務の額面金額からの控除として記載しなければならない
社債発行割引額
社債の評価勘定として処理
→社債の発行差額の資産性を認めていない
×前払つまり資産
○未発生の利息
費用の決定
当該資産の用役潜在性が問題となり、その消滅部分が費用とされている
→収益費用アプローチを示す要因を発見できなかった
『1941年原則』の会計アプローチ
社債の発行差額の処理
『1936年試案』と同様の処理
「契約収益」の認識
→「契約条件」という基準
見越収益あるいは繰延収益の計上
請求権という企業の権利の有無に結び付けて考えられている
→資産負債アプローチによる考え方
『1948年原則』の会計アプローチ
社債の発行差額の処理、収益の見越し・繰延の根拠、対応原則の取り扱い
『1941年原則』からの変化はなし
AAA会計原則として初めて、資産、負債、そして利益といった会計諸要素の定義を示した
*収益、費用
利益の構成要素としているだけ
特に定義付けていない
資産
資産すなわち企業の経済的資源は、有形ならびに無形の財産に対する企業の権利
負債
過去の活動から生起する企業に対する債権者の請求権であって、会社の経済的資源の支払あるいは利用によって弁済されるべきもの
利益
純資産の増加
⇒資産負債アプローチ
まとめ
『1936年試案』
ぼんやりとしていた会計アプローチの姿
↓
『1948年原則』
1976年の討論資料に示された資産負債アプローチそのものとして顕在化してくる
分析の結果
・AAA会計原則の会計アプローチが収益費用アプローチであったといえる時代はなかった
・AAA会計原則には、1936年当初から一貫して資産負債アプローチの流れがあった
会計思考の転換
AAAは経験したことがない
<参考文献>
石原裕也「アメリカ会計諸原則におけるアプローチの時系列的研究」『会計』第163巻第5号、森山書店、2003年5月