会計ハイブリットの予備的考察
会計制度創設
会計基盤がなければ
↓
他国から会計制度を導入
会計(ハードウェア)
導入後
その国の経済、社会、文化等の環境要因に大きくあわせ、同入国の実情に合うように変容を遂げる
会計基盤がすでにある国家
他国の会計制度を導入
↓
国内で利用されている会計制度とハイブリッド化
⇒新しい制度が創設される
ハイブリッド化した制度
環境に合わせて、また変化を続けていく
会計ハイブリッド化(山内)
自国の会計制度が他国の会計制度と混合し、文化、経済、社会党の影響を受けて変容していくこと
会計のハイブリッドのメカニズム
第T段階
会計基準等を制定する組織、基盤をもたない国々
自国に会計基準や会計慣行等が全くない
他国の会計制度を、まず、そのまま取り入れる
植民地関係をもった国々の場合
過去に宗主国の強い影響により、その宗主国で採用されていた会計制度を取り入れる
第U段階
第T段階で受け入れた会計制度
自国の経済、社会、文化等に合わせ徐々に変形
会計制度の普及
会計教育が重要な役目
政治・経済の影響を受け、会計制度というハードウェアが導入
↓その後
会計制度を社会、文化等に合わせるための連結間として教育というソフトウェアが必要となる
社会・文化
変化のスピードが遅く動きにくい
他国から導入された会計制度を、その国の社会・文化に適合させるため
会計教育が不可欠
第V段階
導入された会計制度が、変形され自国に定着
政治・経済が変化
従来の会計制度では対処できない問題が生じる
海外での企業経営の経験や外国企業への経営参加の機会の増加
↓多国籍企業や金融機関等の要請
自国会計が他国の会計影響
投資環境、市場の拡大等
自由貿易地域の統合や東アジア地域の統合
国の経済法や会計制度に影響
⇒他国の会計制度を導入
*自国に会計基盤、会計慣行
新たに独自に会計制度を創る場合
自国の既存の会計制度と混合
第W段階
第V段階で混合した会計制度
その国の社会・文化等に適合させるために更なる変容を遂げていく
新しい会計制度を国民に浸透
会計教育が一層必要
グローバル・スタンダードな基準としてのIAS
社会・文化の違いや、政治的・経済的に直接的な影響を受けている既存の法律の影響等
→IASを導入するのが早い国と遅い国
既存の会計制度とIASがハイブリッド化
導入する範囲も国により違いが出てくる
会計ハイブリッドと環境
環境
@政治・経済
A社会・文化
B教育
それぞれの環境が性質を異にし、しかも会計ハイブリッドに及ぼす影響度に差がある
@政治経済環境
変化が大きく変化のスピードも速い
・影響力
法律を生み、会計に直接的な影響を及ぼす
A社会・文化
変化のスピードは遅い
会計にも間接的な影響を与えるに過ぎない
B教育
会計制度というハードウェアを社会・文化、政治・経済に適応させていくために、この教育というソフトウェアが重要な役割を示す
(1)政治・経済環境
経済体制の違い
経済目的の違い
会計の必要性を異なるものにする
・資本主義
資本の提供者である株主や投資家、最権者への情報提供として会計が重視
企業規模の拡大、証券市場の発達
投資家
投資企業の業績を判断する資料として、会計が重要
グローバル化の進行
外国の投資家からも資金を調達
理解しやすい会計制度を作成する必要性
・社会主義
国家を統制するために会計が必要
経済変化の速さ
会計制度のないように影響
・経済変化の速さが遅い場合(以前)
年1回の決算所のみの会計情報でも許される
・経済変化が速い場合(今日)
中間財務諸表や四半期報告書も必要
企業規模が大きくなり、戦略による組織の変更
連結会計の意義も重要
政治的環境
・民主主義政治
会計:投資家、債権者、労働者等の多くの国民に情報提供する一つの方法
・全体主義政治
会計:国家の計画の進行度合いを確認するための一つの方法
政治がまだ不安定、経済も発展途上
政治的影響力を強化し、経済政策を強引に進めることもある
→会計制度や法制度も影響
政府主導
政治が安定、経済も成熟
経済政策は強引に進める必要はない
会計制度や法制度への政治的、経済的影響力は少ない
民間主導
・成文法の国(例:ドイツ)
会計制度は会社法等の法律のなかに位置
法的に規制を受ける
経済的対応といっても法律の改正をする必要
柔軟な対応はしにくい
・慣習法の国(例:アメリカ)
会計士によって民間レベルで会計慣行が重視され、慣習法的に会計原則が作成
法的に規制が少ない
経済状況に応じた柔軟な対応
他国に支配された経験あがる国か否か
・過去の植民地国
過去の宗主国の会計制度のみならず多くの制度も影響を直接に受けている
他国の制度を受け入れやすい傾向
IASの導入にも熱心
・過去の宗主国
自国に主体があり自国の制度を他国に導入させようとする
IASにも自国の会計制度を盛り込ませようと活発になる傾向
(2)社会・文化環境
社会が開放的
会計による情報開示はしやすい
社会が閉鎖的
秘密主義
会計による情報開示をする社会的基盤がない
単一民族国家
国民の社会的・文化的背景が同じ
→国民の価値観が似てくる傾向
契約等のトラブルは少ない
書類等はあまり複雑でなくてもよい
→会計諸類もそれ程細かい所まで気にせずに済む
多民族国家
国民の社会的・文化的背景が異なる
国民の価値観も異なる
契約上のトラブルも発生しやすい
↓トラブルを回避するため
契約書類等を整備
→会計書類も重要で、会計上の開示も必要
(3)教育
会計教育
会計制度というハードウェアを社会・文化に合わせ人々に理解させるための重要なソフトウェア
教育水準が低く、文盲が多い国
会計を理解するに足る基礎能力がなく会計の普及どころではない
計算能力となれば一層難しい
会計の普及
読解能力や計算能力という基礎的能力が築かれていなければならない
会計教育
会計専門家の教育のみならず、一般の人々にも浸透
→専門学校や大学等の授業等において授業の取り組み方が重要
会計の教育を支えるもの
会計研究
会計教育、会計実務に影響を及ぼす
会計制度そのものにも影響を及ぼす
中国の会計ハイブリッド
@中国式簿記(古代中国式簿記)
会計という用語
西周時代に起源
経済の発展に応じて発展
中国の会計
官庁会計として発展
漸次民間の商工業に取り入れられて発展
中国固有の帳簿組織
「草流」「細流」「総清」の3帳による記録方法
清代までに高度に整備された複式記帳が発展
伝統的な記帳方法
宋代:「四柱清冊」
明代:「三帳」体系
明末清初:「龍門帳」
清代:「四脚帳」
A西洋式簿記の導入と普及
1840年代:アヘン戦争後の洋務運動の時期
日本・イギリス等の会計が中国の沿岸都市を中心に導入
全国レベルには至らなかった
アヘン戦争(1840〜1842年)後
封建経済と資本主義経済が同時に存在する半封建式、半植民地式経済体制
異なる経済体制
中国式簿記と西洋式簿記が共存する局面
伝統的な簿記
勘定の分類が統一されておらず、帳簿体系の構造と帳簿の構成も統一されておらず、統一的な会計準則もなく、会計制度の系統性と厳密性はともに不十分
近代的な生産システムの客観的需要にはとても対応できない
中国の民族企業、事業団体への貸借複式簿記法の応用
1908年の大清銀行の創立を発端
日本銀行の現金貸借分類法に改良を加え、実用化
B辛亥革命(1911年)後
アメリカから西洋式簿記を導入
新中国の成立まで、アメリカの会計学が主流
*大勢の留学生をアメリカへ派遣し、会計理論と実務を習わせたため
1913年:西洋式貸借簿記の鉄道会計制度を制定
1921年:上海各取引所でも西洋式簿記が採用
国民党(実業部)
西洋式簿記の統一普及方法を発布
西洋式簿記が中国の大・中規模および交通運輸部門の間で押し広められていった
1930年代:中国式簿記の改良運動
改良された中国式簿記(4つの特徴)
「収付記帳法、帳簿分割法、以表轄帳法、四柱決算法」
西洋式簿記と改良中国式簿記が共存
西洋式簿記
大、中規模企業に採用
改良中国式簿記
中小企業、特に商業企業に採用
C新中国成立後(1949年以後)
(1)対外開放政策前
国民経済復興の時期(1949〜1952年)
旧ソ連による会計実務に蓄積された経験に学ぶという形で実施
ソビエト会計を導入
中国の政治・経済環境の変化に適合させ変形
第1次5ヵ年計画の時期(1953〜1957年)
社会主義制度に基づく工業化
私営企業の社会主義的改造
ソビエト式会計制度を補完し、業種別に統一国営企業会計規則が制定
・国営企業
ソビエトの社会主義会計が導入
・私営企業
旧中国時代の資本主義会計をそのまま使用
人民公社誕生の時期(1958〜1960年)
帳簿の廃止、会計担当者の削減など、会計を軽減する行き過ぎた傾向
国民経済調整の時期(1958〜1965年)
行き過ぎた会計軽視の傾向を見直し
企業等経済主体の管理のためには会計が重要であることを再認識
財政部:相次ぐ統一会計規制の制定
商業部:増減簿記の制定(1964年)
経済調整政策の時期(1961〜1965年)
農村人民公社会計
貸借複式簿記が導入
収支複式簿記や財産収支複式簿記も使用
複式簿記が難解
収支単式簿記が人民公社に現れ普及(1960年代前半)
増減簿記を全国の小企業に導入(1966年)
1961年:「国営企業会計計算業務規則」
1962年:「会計職員職権施行条例」
文化大革命の時期(1966〜1976年)
思想と政治が優先
経済管理や会計は軽視され会計無用の傾向
会計担当者→下放
会計専門家、責任者→追放
財政部の会計規制
過度に簡素化され、経済管理のために役立たなくなった
中国成立後、1979年の対外開放政策前の新中国における会計
硬直的な会計制度
特徴
国有・国営企業を中心とした制度
統一性、専門性、専款専用、政策性
国民経済の成長に応じて
中国会計は軽視されたり、重視されたり波があった
1962年5月
財政部と中国人民銀行総庁が合同で全国会計会議を開催
過去数年間における会計実務の経験と教訓を総括し、会計実務における問題を分析し、さらに会計実務を強化するための措置と提案を検討
1964年(財政部)
会計改革の討議を開始
→文化大革命(1966年)
→中断
(2)対外開放政策後(1979年〜現在)
1979年:対外開放政策
1985年(財政部):「中華人民共和国中外合資経営企業会計規則」
IASおよびアメリカ等先進諸国の会計基準を大幅に導入
国内企業の諸規則とはかなり異なったもの
国民経済改革の時期(1977〜1990年)
文化大革命が収束した時から第7時5カ年計画の時期(1986〜1990年)まで
・四つの現代化
農業・工業・国防・科学技術の近代化
→経済管理を再び重視
会計制度の改革
1973年(財政部):「国営企業会計業務規則」
1978年(国務院):「会計職員職権条例」
1985年(主席令):「会計法」
1980年1月:中国会計学会設立
第8時5カ年計画の時期(1991年から現在)
対外開放政策が一段と進む
100%が石企業も積極的に受け入れ
国有企業→香港証券取引所に上場するものもある
所有制
多元的所有形態
外商投資企業、集団企業、合作経営企業、有限責任会社、株式有限会社等
経営方式
多くの形態が出現
企業
市場経済のなかに一つの独立した経済実体
経済の国際化や企業内部の経営システムに新しい変化
→現行の会計計算制度はもう対応できなくなった
会計改革の重要任務
社会主義市場経済の会計計算に対する要求
→「会計法」に依拠して全国統一的な会計準則を制定すること
1992年(財政部):「中華人民共和国外資系企業会計規則」
1993年(財政部):「企業会計基準」
「企業会計基準」
事業別・所有性別(企業形態別)の不統一であった会計規制をこれから改正するための基本的・一般的会計規範となるもの
資本主義先進国および国際会計基準を大幅に導入
会計準則
会計制度の制定と会計計算の基本規範
中国の企業会計制度
会計改革
国際化、現代化が進んだ
イギリスやアメリカや日本などの経済先進諸国における会計制度の数十年にわたる発展過程を十数年で経験
中国会計
一貫して各国の調書をかねそろえて、自国の伝統を保持している優秀な会計文化
中国の独自に設計された会計制度
柔軟な会計制度
経済体制の変化に対応しやすく、生命力のある国際会計の流れにも適応するもの
歴史上、多くの国々から会計の影響を受けてきた
自国に柔軟に適応させていく体質が出来上がってきた
国際会計基準にいち早く適応する基盤
財政部
1979年1月:会計制度司を再建
1982年:会計事務管理司と改名
会計教育は比較的早い回復
1978年から1984年
財務・会計専攻を設けた大学
21校→104校
1980年代から
会計人に対して、会計教育を行ってきた
実務的な会計教育の普及を重視
1983年1月(財政部)
北京で会計専門の授業方法の改革について会議
会計の専門教育の改革が行なわれなければならないということが認識
ex)上海財経大学の会計教育改革案
旧ソ連の強い影響のもので作られた従来のカリキュラムでは時代の新しい要請や世界の動きに十分対処できず、そのため新しいカリキュラムを作ることが必要となっていることを指摘
中国
儒教:古来、種族を問わず中国に居住する人民の精神的支柱、生活上の道標
親に対する孝行の精神、家族主義などは古来からの中国の不変的文化
長い間の戦乱や動乱
政治不信に陥っている
党や国家への不信
*「上有政策、下有対策」
国家がいくら法律を立てたとしても庶民派勝手にやる
上有下達というように法令が浸透していない現実
会計も政府主導で作るが、浸透しにくい
税務と財務会計が分離
根本的な税務会計の計算の違い
税務会計重視の実務
<参考文献>
山内進「会計ハイブリッドの予備的考察」『福岡商学論叢』第45巻第4号、福岡大学研究所、2001年3月