中国における市場改革と国際会計基準導入への対応
近代中国会計基準の歩み
図表1(P134)
1949年建国以来の中国会計基準
計画経済型から市場経済型へ
国有企業を主な会計被写体とする従来の形から多様な所有区分の企業に対応できる形へ
市場経済に対応できる会計基準体系が徐々に設定
*政治制度をはじめ、企業所有・活動、ファイナンス・市場市場の変化によるもの
第1期:1978年から1992年の間
中国会計の概念的フレームワーク及び株式会社に対する実験的な会計基準が公布された1992年を節目
「市場経済化」を採り入れ、国有企業を再構築・民営化するため、国営企業に対する企業会計基準の修正が必要となり、また、外資系企業・私営企業の増加に備えた、外資企業・私営企業・国有企業を含む多様な企業形態に対する会計基準の整備が急務
第2期:株式会社会計基準が公布された1998年まで
急激な経済成長を背景として、国有企業改革が進化し、証券市場が成長したため、様々な所有区分にある企業が増加した機関
すべての企業に対応できる概念的フレームワーク作りが不可欠となり、市場経済にさらに対応することができる会計基準の修正・作成も急務
第3期:1998年から現在まで
国有企業の更なる改革及び株式会社の普及により、株式会社に対する会計基準作成が必要となり、またWTO加盟に向けた国際化の流れにおいて、債権者・株主に対する国際的に対応できる会計基準の下でのディスクロージャーが求められるようになったため、株式会社に対応する会計基準作りの必要性が増大
市場経済要素の導入への対応という中国会計の変遷
国有企業改革の進展と深く関わる
企業形態・業種の多様化及び社会のグローバル化のなかに変化してきた
中国会計に影響する環境的要素
会計システムに関わる11の環境的要素(Radebaugh & Gray)
↓これに依拠して
中国会計に関わる環境的要素
図表2(P136)
・要因1:政治制度・法律システム
・要因2:経済・企業・資本市場の発展
・要因3:会計教育と会計団体
→内部的要因
・要因4:グローバル化
→外部的要因
国際社会からの投資を促すこと
財務諸表の比較可能性、投資者保護を目的とする会計基準の設定・修正
要因1:政治制度・法律システム
政治制度の変革を伴う改革開放がなぜおこなわれる必要があるか
政治制度が、変化せずしてそのもとで生活していた人々は生きていけない状態にあった
政治制度の修正は主に国内圧力
政治制度の修正、内外経済・経営環境の変化
ケ小平のリーダー的存在が大きな要因
政治制度の変化を受けて、中国の「市場経済化」
中国の企業の所有区分と経営活動内容は多様化
要因2:経済・企業・資本市場の発展
1978年の企業改革
国有企業の全体に占める比率は縮小する傾向
国有企業
政府に対する信頼感もあり、公衆はそのディスクロージャーを必要としない
その他の所有区分の企業
公衆(投資者)の権利を保護する立場から、財政状態・経営成績に対するディスクロージャーの必要性
国有企業の株式会社化
連動して、証券市場が整備され、急速な発展
資本市場の存在と発展
資金調達を容易にさせ、企業の資金面からの脱政府依存が期待
投資者保護が重要視され、それに関わる会計基準の枠組み作りが内外投資者の要望によって迫られる
要因3:会計教育と会計団体
会計専門教育が盛んでなく、会計職業組織も機能しなかった中国においては、外国の会計システムを導入しやすい
中国会計システムに影響する要因(一つのパターン)
政治制度⇒経済の変化⇒市場の変化
中国会計システムに影響を及ぼす要素・要因
政治制度、企業、資本市場が主な要因
*改革解放後の中国会計の変貌の後押し役を担っている
中国会計基準のIASへの対応
「IAS」対「株式会社会計基準」
株式会社基準
会計法、企業会計準則、中外会計基準のなかで中国にある企業に対して最も適用性・厳格性をもっている
「IAS」対「中国の株式会社会計基準」の比較例示一覧
図表5(P138)
IASと中国の株式会社会計基準の規定
多項目にわたって明らかに類似している
4つの基本型に分類
A:類似アプローチ型
両基準の全般的アプローチが実質的に類似的であるもの
B:異なったアプローチ型
両基準の全般的アプローチが実質的に異なるもの
C:代替的アプローチ型
少なくとも一方の基準において代替的アプローチが許容されるもの
D:存在上の差異型
特定の会計事項について、一方の基準においてのみ基準が設定されているもの
会計基準のバリエーションとのその類型化
図表6(P139)
A:類似アプローチ型
有形固定資産(IAS16、株式会社会計基準第三編・第1501号科目の二、固定資産の減価償却(IAS16、株式会社会計基準第三編・第1502号科目の四)等
B:異なったアプローチ型
研究開発費(IAS9、株式会社会計基準第三編・第5503号科目の一)等
C:代替的アプローチ許容型
1.中国基準はIASより幅が広い場合
棚卸資産の原価決定(IAS2、株式会社会計基準第三編・第5503号科目の一)
2.IASが中国基準より幅広い場合
キャッシュ・フロー計算書の形式と方法(IAS7、株式会社会計基準第五編キャッシュ・フロー計算書の四)
D:存在上の差異型
セグメント報告(IAS14)
・類似的アプローチが最も多く、異なったアプローチ型が最も少ない
・代替的アプローチ許容型と存在上の差異型はある程度存在
存在上の差異型が存在
中国会計基準が整備中にあるという証拠
異なったアプローチ型と代替的アプローチ許容型
最も調和化が困難な領域
調和化プロジェクトの展開
国際会計慣行との整合性を求めようとする動き
「企業会計準則」の一連の個別会計基準(具体会計準則)プロジェクトの展開
ex)金融技術援助プロジェクト(1992〜1996年)、会計改革および発展プロジェクト(1996〜2001年)
30項目の会計準則の公開草案を完成
1997年5月から最初の個別会計準則を皮切りに、2000年5月まで、10の個別会計準則を公布
個別会計準則の公開草案
セグメント別報告、従業員給付、金融商品、一株あたり収益等が設定されていない
いくつかは国際会計基準と対応している
中国にしか見られない会計基準
ex)清算
IAS導入の実態分析
1.背景
投資者
@中国の個人投資者
A中国の機関投資者
B外国の個人投資者及び機関投資者
@Aのグループが所有している株
A株
Bの投資者が有している株
B株
A株とB株を発行している企業
それぞれの株の一人当たりの権利内容が同様
A株の価格は通常B株より高いこと
→情報の不完全性、言語の違い、異なる会計基準等によるもの
中国会計基準とIASの利益調整
B株を発行している中国の企業
中国GAAPによる財務諸表とIASによる財務諸表を公表することを要求
二組の会計基準(中国GAAPとIAS)の会計利益数値
総括的な記述、つまり中国のGAAPによる利益数値をIASによる利益数値に返還するまでの変換過程の記述は、中国GAAPをベースに地元の新聞に提供されなければならない
2.リサーチの質問事項と分析方法
リサーチの質問事項
問題1
IASと最近の中国会計基準との差異をなすものは何か。これらの差異は利益数値にどのような影響を与えているか
問題2
これらの差異に最も関連する財務諸表の項目として、どのような項目があるか
問題3
1998年の新会計基準設定は中国GAAPとIASとの差異を縮小するか
データと分析方法
B株を発行している企業
公衆に総括的な財務報告の中に中国GAAPとIASベースの利益数値を公表
この差異の内訳に関する情報が入手可能であるのは上海証券取引所における1994年から1998年の期間に限られる
3.分析と検討
中国GAAPとIASによる利益数値の差異に関連するファクター
図表8(P144)
中国GAAPとIASを下での利益間の差異
図表9(P146)
財務諸表転換後の利益の変化
図10(P146)
中国GAAPとIASとの差異ファクターの貢献度
図11(P147)
中国の国際的調和化への展望と課題
会計基準の調和化を推進(3つのアプローチ)
(1)統一的会計基準の採用によるグローバルな調和化アプローチ
(2)他国の会計基準の導入による自国の会計基準の調和化アプローチ
(3)他国の会計基準・実体実務の検討による自国の会計基準の国際化アプローチ
中国会計にとって、当面、最も実行可能性があり、適用性のあるアプローチ
→(3)
中国の会計システムを検討する場合
会計基準や個別ガイダンスの設定
IASC、FASB等による会計基準を参考に、政治制度・経済背景との適合性を検討しつつ会計基準を定めている
中国の会計
外国・国際的会計基準設定団体との交流を高め、隣接アジア諸国等との協力関係を促進し、「実質的な国際的調和化」を図ることは重要
課題
(1)市場経済に適用可能な会計への発展
(2)収支計算重視から期間損益計算重視への展開
(3)特定企業別会計基準から包括的会計基準への展開
(4)会計基準の充実への展開
ex)デリバティブ取引への対応
(5)原価主義会計から時価主義会計への展開
(6)情報開示の内部施行から外部施行への展開
<参考文献>
胡丹「中国における市場改革と国際会計基準導入への対応」『六甲台論集―経営学編―』第48巻第1号、2001年6月