会計教育上の問題点と対応 ―IASに関連して―
T.会計教育上の困難性
会計上の認識・測定プロセス
@会計の対象となる事象を会計の勘定科目によって認識し、同時に金額を付与して測定する識別の段階
A識別された勘定科目と金額を集計し財務諸表を作成する段階
→@:仕訳、A:決算に至るまでの段階
困難性
@:概念習得の困難性
経済事象に勘定科目を適確に対応させることが取得しにくいという、事象と勘定科目の未照応性に関する困難性
A:会計システム習得の困難性
会計システムが煩雑で一連の流れを習得しにくいという会計システムの煩雑性に関する困難性
V.抽象的レベルと具体的レベル
事象と勘定科目の照応関係
概念のレベルに抽象・具体のレベルの存在
*FASBのDM
財務会計および財務諸表は、数多くの高いレベルの抽象または一般的な抽象を伴っている。富、収益性、公正、実現、目的適合性、信頼性および比較可能性はその例である
財務会計および財務諸表はまた、数多くの中間のレベルでの抽象を伴っている。資産、収益、継続性、検証可能性および重要性はその例である。財務諸表の要素に関連した概念がすべてのレベルに基づいているように、有用な財務情報の質的特性または質に関連した概念もすべてのレベルに基づいている。この討議資料の多くは、異なるレベルにある諸概念間の関係に関心がある
抽象どの高いレベルの諸概念がより低い具体的な諸概念に関連付けられる必要
X.会計基準のIAS準拠化
資金調達の国際化
↓
会計の国際的調和化
⇒IASが証券市場向けの会計基準の実質的な国際標準となってきた
NIESやASEAN各国
会計制度の整備
IASに準拠した会計基準設定
我が国
戦前より商法を中心とした会計の枠組み
戦後導入されたアメリカ型会計の枠組み(証券取引法)
アジア各国の動向とは異なっていた
我が国の会計(トライアングル体制)
フランコジャーマン型会計
損金経理を前提とする確定決算主義に裏打ちされており、商法と税法が密接な関係
監査実施面および会計情報の一般的信頼性の観点
実務的には証券取引法会計と商法会計は一元化の傾向
会計計算の際の大きな役割
商法における債権者保護の理念と処分可能利益の算定
↓
厳格な取得原価主義、収益認識に実現基準を採用、未実現利益の計上を排除
測定属性
原則:取得原価
アングロアメリカン型の会計情報の開示
会計目的
情報利用者の意思決定に有用な情報の開示
測定属性
時価の採用
2つの会計の枠組み(収益費用アプローチと資産負債アプローチ)
利益測定に関して基本的に異なる考え方
収益、費用、資産、負債および出資者持分に関して異なる定義
貸借対照表と損益計算書に対する観点が異なる
収益費用アプローチ
利益測定
事物ではなく活動である企業の経営成績を対象
→企業が所有する事物
単に副次的に利益測定の対象
資産または負債
収益費用対応の結果の残余
重視
取得原価、費用収益対応、実現主義に基づく期間損益計算
貸借対照表
二期の損益計算書をつなぐ連結環としての残高表
貸借対照表の構成要素に表されている金額
経済的実質とは切り離された金額
貸借対照表上の構成要素の測定値
取得減価を基礎にした信頼性の高い測定値
資産負債アプローチ
企業活動の目的
富を増大させること
→企業が所有する事物の変動
期間における企業の活動に関する有効な指標
資産または負債
経済的資源または経済的資源の犠牲
出資者持分の増減とならない収益、費用を認識しない
重視
貸借対照表の構成要素の経済的実質
↓
経済的実質を有していない単なる繰延べ項目の排除
費用・収益アプローチでは認識・測定されない取得原価以外の属性測定も行われる
貸借対照表上の構成要素の測定値
取得原価よりも信頼性が低くなる
⇒重要な問題:測定属性の選択
Y.我が国上場企業の新会計基準への対応
会計の役割
利益処分および財産保全
→収益費用アプローチを選好
情報利用者への有用な情報開示
→資産負債アプローチを選好
分析:資金調達に占めるメインバンクの割合と市場の割合から、回答企業群をメインバンク調達型企業と市場調達型企業に分けて分析
メインバンク型企業
会計の役割に情報開示を期待せず、利益処分および財産保全を期待
市場調達型企業
情報利用者への有用な情報を期待
比較的規模の大きい企業
商法決算と税務計算の別立て、連結納税制度の導入、個別財務諸表の簡素化といった現行会計からの改革の報告に賛成する傾向にある
市場調達型企業
商法決算の別立て、連結納税制度の導入、個別財務諸表の簡素化といった現行会計からの改革の方向に賛成する傾向にある
メインバンク調達型
商法決算と税務計算の別立てには反対であり、連結財務諸表作成時に基準性の原則が必要であると考えている傾向
<参考文献>
木本圭一「会計教育上の問題点と対応 ―IASに関連して―」『商学論究(関西学院大学)』第49巻第3号、2002年3月