継続企業の前提と財務諸表の質的特徴

目的

財務諸表の質の違いおよびそれを生み出す会計上の前提の違い

IASCフレームワーク,FASB概念フレームワーク)

IASC1989):『財務諸表の作成開示に関するフレームワーク』

目次

(1)  

(2)   財務諸表の目的

(3)   基礎となる前提

(4)   財務諸表の質的特徴

(5)   財務諸表の構成要素

(6)   財務諸表の構成要素の認識

(7)   財務諸表の構成要素の測定

(8)   資本および資本維持の概念

FASB:『財務会計諸概念に関するステートメント』

SFAC1号「営利企業の財務報告の目的」(1978年)

SFAC2号「会計情報の質的特徴」(1980年)

SFAC4号「非営利組織の財務報告の目的」(1980年)

SFAC5号「営利企業の財務諸表における認識と測定」(1984年)

SFAC6号「財務諸表の構成要素」(1985年;3号の改訂版)

SFAC7号「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報および現在価値の使用」(2000年)

比較

IASCフレームワーク(SFACにはない)

「序」、「基礎となる前提」、「資本および資本維持の概念」

FASB概念フレームワーク(IASCにはない)

「非営利企業の財務報告の目的」、「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報および現在価値の使用」

財務諸表:財務報告の目的

IASC

財務諸表の目的

広範な利用者が経済的意思決定を行うにあたり、企業の財政状態,経営成績および財政状態の変動に関する有用な情報を提供することとしている

FASB

財務報告の目的

現在および将来の投資者,債権者,その他の情報利用者が合理的な意思決定を行うのに有用な情報を提供すること(一般目的)としている

⇒両者とも

     経済的意思決定のための有用な情報を提供することを目的

     意思決定・有用性アプローチを採用

IASC

情報提供目的と並列的に,経営者の受託責任すなわち会計責任の結果報告目的もあげている

問題点

FASBは経営者の受託責任の結果報告目的を考えていないのか?

結論

一般目的から誘導される最下位の様々な諸目的のうちの一つ

FASB

一般目的

投資と与信の意思決定に有用な情報提供という形に特定

特定された目的

キャッシュ・フローの見通しの査定に有用な情報を提供すべき

→企業の資源,それに対する請求権およびそれらの変動に関する情報提供

  ↓具体的・個別的

企業の経済的資源,義務および所有主持分,企業業績と稼得利益,流動性,支払能力および資金フロー,経営者の受託責任と業績,経営者の説明と解釈,の開示

まとめ

IASC

経済的意思決定のための情報提供目的と経営者の受託責任の結果報告目的を並列的に扱っている

FASB

経済的意思決定のための情報提供目的のみを第一に掲げている

財務諸表:会計情報の質的特徴

IASC(質的特徴)

財務諸表が提供する情報を利用者にとって有用なものとする属性

=「財務諸表の目的」を満たすために,財務諸表に求められる特徴

「理解可能性」、「目的適合性」,「信頼性」,「比較可能性」

FASB(質的特徴)

「財務報告の目的」を満たすために,会計情報に求められる特徴

「目的適合性」,「信頼性」

IASCのように「目的適合性」,「信頼性」と並列的には扱っていない

IASC

目的適合性

利用者が過去,現在または将来の事象を評価し,あるいは,利用者の過去の評価を確認または訂正する時に情報が役立つことによって,利用者の経済的意思決定に影響を及ぼす時,目的適合性の特徴を有する

信頼性

重大な誤謬と偏向が除去され,また,情報が表示しようとするかあるいは表示されるよう合理的に表示しようとするかあるいは表示されるよう合理的に期待される事実を忠実に表現したものとして,情報が利用者によって信頼される時に,信頼性の特徴を有する

FASB

目的適合性

情報利用者が、過去,現在および将来の事象の結末を予測し,あるいは,事前の気体を確認または訂正するのを支援することによって,意思決定に影響を及ぼす情報の能力

信頼性

情報に誤謬や偏向がなく,忠実に表示されていることを保証する情報の質

⇒内容同じ

IASC

理解可能性

 財務諸表が提供する情報の重要な特性は,その情報が利用者にとって理解できるものでなければならないことである

 このためには,利用者が,事業,経済活動および会計に関して合理的な知識を有し、また合理的に勤勉な態度でその情報を研究する意志を有すると仮定される

比較可能性

 利用者は、企業の財政状態と経営成績の趨勢を明らかにするために、各期を通じての財務諸表を比較できなければならない

 利用者は、他の企業の関連する財務状態、経営成績および財政状態の変動を評価するために、異なる企業の財務諸表も比較できなければならない

FASB

理解可能性

 財務報告によって提供される情報は、経営および経営活動を正しく理解し、また適度の注意を払って当該情報を研究しようとしているものにとって、理解できるものでなければならない

比較可能性

 利用者に、二組の経済現象の類似点と相違点を識別させる情報の特性

 ある企業に関する情報が、他の企業に関する同種の情報および当該企業の他の期間または他の時点における同種の情報と比較することができるならば、その情報の有用性は高まる

⇒内容同じ

FASB

「理解可能性」と「目的適合性」、「信頼性」と並列に扱っていない

理解可能性

情報利用者の問題

「目的適合性」、「信頼性」と違う次元のもの

IASC

「理解可能性」

財務諸表の主要な質的特徴の一つとして、「目的適合性」、「信頼性」と並列に扱っていた

FASB

「比較可能性」、「目的適合性」、「信頼性」の関係

 二つの測定置換の比較可能性を確保するために、その二つの測定値のうち一方を、情報の目的適合性か信頼性のいずれかが損なわれる方法で獲得せざるを得ない場合、比較可能性を向上させることは、目的適合性または信頼性をそこなうかまたは弱めることとなるであろう

 それらの特性のいずれか一方が完全に失われる場合には、当該情報は有用でなくなる

「目的適合性」と「信頼性」

会計情報が有用であるために本質的なもの

→「比較可能性」のために、「目的適合性」や「信頼性」を欠くことは許されない

基礎となる前提

IASC

「発生主義」と「継続企業」

FASB

「基礎となる前提」という表題ない

「発生主義」の記述はある

「継続企業」がない

IASC「発生主義」

 発生主義のもとでは、取引、その他の事象の影響額はその発生時に認識され、会計帳簿に記録され、それらの帰属する期間の財務諸表に記録される。発生主義に基づいて作成される財務諸表は、利用者に現金の収支を伴うかこの取引だけでなく、将来の現金支払債務と将来の現金受領をもたらす資源についての情報を提供する。

IASC「継続企業」

 財務諸表は、通常、企業が継続企業、すなわち予見しうる将来にわたって事業活動を継続するであろう、という前提に基づいて作成される。したがって、清算あるいは事業活動の大幅な縮小は意図されておらず、またその必要もないと考えられている。

FASB「発生主義」

 発生主義会計によって測定される企業の利益とその内訳に関する情報の方が、一般に現在の現金収支に関する情報よりも企業業績の優れた情報となる。発生主義会計は、企業によって現金が受領されまたは支払われる機関だけでなく、取引、その他の事象、環境要因の発生する期間において、企業の現金に影響を及ぼす当該取引、その他の事象、環境的要因の財務的影響を記録するものである。

IASCFASBの「発生主義」

将来の現金収支に関する財務的影響に注目している点で共通

IASCフレームワーク

 ↑

「発生主義」、「継続企業」が「財務所要の質的特徴」に影響を与えている

FASB概念フレームワーク

「発生主義」の前提だけが、「会計情報の質的特徴」に影響を与えている

⇒相違が現れた理由

「継続企業」の有無

継続企業の前提を財務諸表の質的特徴

IASCフレームワーク

前提:「継続企業」→企業活動の継続を前提

⇒財務諸表を期間比較することが重要

FASB

「比較可能性」

「目的適合性」と「信頼性」に対する副次的特徴

*「継続企業」を前提としていない

IASC

利用者

 事業、経済活動および会計に関して合理的な知識を有し、また合理的に勤勉な態度でその情報を研究する意志を有するもの

企業活動の継続を前提

 「継続企業」の前提に立って財務諸表が作成されていることについての合理的な知識が要求

→知識を有した利用者を仮定

 情報利用者の特性も財務諸表の質的特徴の中に取り込んだ

FASB

「財務報告は、一専門家であるか否かは問わず−、・・・すべてのものが利用できる情報を提供しなければならない」

情報利用者の質は問われていない

IASC

財務諸表の目的

経営者の受託責任の結果報告を、経済的意思決定のための有用な情報提供

FASB

一般目的

経済的意思決定のための有用な情報提供のみ

財務諸表の構成要素の測定

IASC(財務諸表の構成要素)

歴史的原価

現在原価

実現可能価額

現在価値

FASB

歴史的原価

現在原価

現在市場価値

正味実現可能価額

将来キャッシュ・フローの現在価値

*現在市場価値

企業活動の継続を前提とするIASCフレームワークでは、精算取引を想定した現在市場価値が測定基準として含まれる余地はなかった

非継続企業(当座企業、清算企業)を含む

IASCよりも、企業を広くとらえている

経営者の受託責任の結果報告目的を、経済的意思決定のための有用な情報提供目的と同列に扱うため

→会計において、「継続企業」の前提が必要

 

<参考文献>

国田清志「継続企業の前提と財務諸表の質的特徴」『企業会計』Vol.53,No.12、中央経済社、200112