中国証券法の生まれ出ずる悩み
中国証券法
1998年にようやく成立
論叢や対立を封印したまま、過度に抑制された姿で生まれでた
証券法に期待された役割の大きさに比較してあまりにもみすぼらしいその姿
WTO加盟後の体制構築
社会主義的市場経済という独自の経済システムを、できる限りグローバル・スタンダードで規範化しようという、新たな改革
中国の証券法
国有企業改革を株式制度の導入によって推進するため、93年に成立した会社法とともにワンセットで立法されるはずのもの
順調に成立した会社法とは対照的に、証券法は苦難の迷路に迷い込み、5年遅れで成立
会社法
WTO体制への転換をも視野に入れ、グローバル・スタンダードを強く意識して構成
証券法
極めて禁欲的な姿勢を保持
WTOへの加盟が実現(2001年12月)
WTO体制への転換が急速に進められ
証券市場においても新たな改革が展開する渦中
証券法はひとり蚊帳の外
法体系の形式的な構成
証券法分野
証券法は基本法としての位置を占めている
→現実的な証券制度の枠組み
証券法が実効性を伴った規制の対象に含めている範囲は、一定の分野に限定
WTO体制への転換を軸として進められている現在の証券制度の改革
証券法があえて規制の対象から外した部分に集中
改革はあたかも証券法とは何の関わりもないかのように進められている
T.起草過程の混迷
1.混迷の予兆
南巡講話(92年初頭)
ケ小平が株式制の実験を提唱
→国有企業改革に株式制度を導入する方針が確立
中国共産党第14回大会(92年秋)
この方針を公認
国務院の国家経済体制改革委員会など企業改革関連部門(92年5月)
株式制実験弁法、株式有限会社規範意見、有限責任会社規範意見という3つの法規を制定
株式会社の本格導入に対応する準備
全国人民代表大会
株式会社の法制化に備えるため、会社法、証券法、先物取引法など関係法律の立法作業に着手
会社法の起草作業
国務院の関連部門に委ねられた
証券法の起草作業
通常のプロセスとやや異なる
全人代の財政経済委員会に委ねられた
全人代の目論見
会社法と証券法とを短期のうちに同時に成立させるため、効率を優先させて分担させた
証券法
分業関係がかえって災い
98年にようやく成立するまで、実に足掛け6年に及ぶ論争に明け暮れ、紆余曲折を余儀なくされた
証券法の成立に至るまでの混迷の始まり
起草組織の設置のときに遡る
起草小組を設置:励以寧北京大学教授を責任者
励教授:全人代の代表として全人代財政経済委員会の委員に任じられていた
→起草小組は財政経済委員会のもとにおかれた
起草小組(92年7月末発足)
アメリカ、日本、韓国、台湾、香港などの証券制度を参考にしつつ、10月には証券取引法草案第1稿を取りまとめた
→合意された基本方針
@ 中国の現状を基礎に、先進諸国の経験を参照し、証券業の規範化と国際化を目指す
A 証券市場に法的保障を与え、公平な競争の実現を目指す
B 集中的統一管理を行い、責任と権利の明確化を目指す
→11月に第2稿、12月に第3稿
通常の立法過程
政府の関係部門が草案の叩き台を作成し、これをもとにして全人代常務委員会の法制工作委員会が関係各部門との調整を行ないつつ草案を取りまとめ、全人代常務委員会に上程するという手続
証券法の場合
財政経済委員会のもとに起草小組が設置
草案作成の初期段階で法制工作委員会との関係が希薄
実務サイドとの調整役を欠いたこと
2.証券取引法から証券法へ
93年1月:第3稿の内容を検討
関係部門による最初の討論会
「証券取引法」は「証券法」と名称変更
全人代常務委員会が示していた構想
株式の発行については会社法において規定
株式を含めた証券の取引について証券法を規定
→分担関係
株式の発行も含めた包括的な内容の「証券法」に変更すべき
93年3月
「証券法」として修正された第4稿
香港での調査を経た後第5稿:先物証券取引や信用取引などの規定が追加
この頃まで
関係者は立法の見通しを比較的楽観視
93年7月15日
青島ビール株式有限会社が中国企業としてはじめて香港市場に上場
全人代の指導者たちや証券業界からは証券法の早期立法を待望する意見が繰り返し表明
起草小組:法案第6稿
7月7日:関係機関と最終的な調整を行なうための検討会
大きな論争
@ 証券市場での取引に関して、取引数量、株価の値幅などについて一定の制約を設けるべきか否か、設ける場合の方法はいかにすべきか
A 証券業の管理体制は中央集権とするか、地方分権とするか、それぞれの場合について、その体制をいかに構築するか
B 国有株の取り扱いをいかにすべきか、流通の制限を如何にして確保すべきか
@、B→大方の意見を集約
A→関係機関の利害対立が厳しく、最後まで合意を得られなかった
最後まで最も深刻な争点として存在し続けた
→第7稿を最終草案として全人代常務委員会に提出
常務委員会の審議過程
起草小組が存続、修正作業に参加
起草小組のルール破り
法制工作委員会によるその後の修正作業に強い不信感
証券法の立法作業
立法関係機関相互の複雑な対立とねじれ現象
3.証券管理体制をめぐる争い
立法の過程で最大の争点
証券市場の管理体制
「証券市場のマクロ管理を一層強化するについての通知」(国務院:12月17日)
中央:国務院証券委員会と証券監督委員会が管理
地方:各省政府証券監督管理機関が管理
→分権的な管理体制を採用する方針
上海と深センの証券取引所
それぞれ地元省政府が管理し、証券監督委員会が監督
国務院
証券市場の規範化を早期に実現するため関係法規起草作業の分担を決定
証券監督委員会
・
株式発行・取引管理暫定規定
・
証券経営組織管理弁法、投資基金管理弁法
・
証券業者行為規範
・
株式発行資格審査管理弁法
国家経済体制改革委員会の担当
・
証券法
証券法
国家経済体制改革委員会の担当
→証券法そのものの起草作業は起草小組がすすめ、国務院はそれとは離れて、証券法が成立するまでの暫定的な行政法規を作成
→奇妙な分業関係が成立
起草小組による作業
予想をはるかに越えて遅延
国務院サイドの立法作業が事実上先行
→その内容が実務的な側面では起草小組の作業に大きな影響
国によって正式に認可された証券取引所が国内に2ヶ所しかないことの弊害
闇市場の登場
闇市場
投機的行為や詐欺事件、不正な「株式」の発行などが多発
多くの個人投資家を巻き込んだ社会的重大事件を引き起こした
国
混乱を是正するため
中央による集権的な統一管理体制に転換しようとした
地元国有企業の資金調達などに権限を確保したい地方政府の抵抗は根強い
→容易に合意を形成するには至らなかった
中央
政府内の官庁間に利害の対立関係が存在
証券の発行、取引に関わる行政上の権限
証券委員会、証券監督委員会のほか、国家計画委員会、国家経済体制改革委員会、財政部、中国人民銀行などの多くの部門
それぞれが担当する範囲内で管理権や監督権を行使
それらの権限が証券委員会ないし証券監督委員会に集約されることを警戒
ボタンの掛け違い
常務委員会
会社法と証券法を同時に成立させるという当初の方針を変更
会社法を先行して審議する方針を決定
会社法草案
証券法の起草グループとの間にほとんど実質的なすり合わせは行なわれてこなかった
会社法が先に成立した場合
証券法は会社法に規定された関連規定を受け入れざるを得ない
会社法を前提としてそれとの整合性にも配慮しなければならなくなった
常務委員会のこのような決定の基礎
証券法草案に対する常務委員会の否定的な判断
草案の内容が先進資本主義国の証券制度に影響を受けすぎている
アメリカ・モデルに近づきすぎている
修正第8稿(93年末)
法制工作委員会
常務委員会に提出された草案
市場経済を理想化する観点に傾きすぎて、中国の経済的な実情とすでに存在している証券関係の諸制度、行政の実体とはかけ離れたもの
むしろ第1稿に方に現実味があると判断
起草小組は経済学者の集まりであるため、中国における法律の現状を理解できていないという思い
94年1月:法制工作委員会修正草案第1稿
起草小組による草案第1稿をベース
内容
基本的に証券法から証券取引法へと後退させたもの
起草小組が積み上げてきた一連の修正作業を否定するかのような法制工作委員会の草案
→起草小組の反発
通常の立法手続
常務委員会の審議に入った時点で起草小組は解散
修正作業は法制工作委員会に引き継がれる
証券法の起草小組
採算するどころか、最後までコミットする姿勢をとり続けた
法制工作委員会
権限は自分たちの手に移った
*起草小組の背後には財政経済委員会が控えている
起草小組の責任者が法律委員会の副主任
→起草小組の意向を全く無視するわけにはいかなかった
3月18日:2回の小刻みな修正を施した第3稿を作成
常務委員会
対立関係を解消、早期に法案の成立を図るため
3月28日:法律委員会、法制工作委員会、財政経済委員会の共済による検討会議
基本的な見解の対立は解消されず、財政経済委員会と法制工作委員会とでそれぞれ別個に修正案を作成
それらをすり合わせて調整を図るという点だけ合意
修正案の提出
財政経済委員会:4月18日
法制工作委員会:4月19日
両者の隔たりは大きく調整は難航
早期の立法が必要との認識では一致
→あわただしい妥協が成立して調整案が完成
→あまりにも妥協を急ぎすぎたため
審議において対立の溝を埋めることができず、常務委員会の会議としては稀有の決裂に至った
→証券法の立法作業は出口のみえない袋小路にはまり込み、長い休眠期間
5.空しい努力
95年2月
上海の国際先物取引市場で巨額な不正取引事件
根本的な原因
証券法が制定されていないことになるという批判
↓
法制工作委員会は休止状態に陥っていた証券法の修正作業を再開
95年10月24日
新たな修正案を取りまとめた
10月末
法律委員会、財政経済委員会、法制工作委員会による3社会議を招集
成案を得るように強く促した
この草案
常務委員会としての最終通告のようなもの
内容に大きな変更はなく、起草小組には到底受け入れられないものであったが、反対の姿勢を貫く選択肢は残されていなかった
形ばかりの修正を施した法案を11月2日に提出し、常務委員会の3回目の審議にかける
12月4日:国務院
内容に問題が多いという意見が大勢を占め、李鵬首相を通じて常務委員会に審議の延期を申し入れ
国務院
独自に証券管理制度に関わる一連の行政法規を整備しつつあり、政府の方針と必ずしも一致しない証券法を急いで成立させる必要はどこにもなかった
→これ以後はしばし完全な休眠状態を余儀なくされた
U.誕生へ至る経緯
1.金融工作委員会の成立
97年のアジア金融危機
証券法を長い休眠状態から救い出した
97年9月の第15回党大会
3大改革の一つとして金融改革
アジア金融危機
中国の金融市場を守るという課題
改めて証券市場の規範化の必要性が確認
証券法の制定にとって重要な要素
アジアの金融危機、WTOへの加盟など
経済的な要因
反腐敗闘争という政治的要因
97年11月:全国金融工作会議
金融改革を統一的に進めるため、党中央に金融工作委員会を設置
金融工作委員会の成立
以前の分権的な管理体制に代えて集権的管理体制に転換することを意味
必然的に証券法の起草において争われていた主要な争点の一つが解消
96年8月21日
「証券取引所管理弁法」(国務院証券委員会)
証券取引所を証券監督委員会の監督、管理のもとにおくと規定
97年8月15日
上海、深センの両証券取引所は地元政府の管轄から証券監督委員会の管轄に移管
証券取引所にのみ関するもので証券市場全体を対象とするものではなかった
金融工作会議の決定
証券市場全体を金融工作委員会と証券監督委員会の直轄管理のもとにおくというもの
→国務院証券委員会は廃止、地方政府と中国人民銀行の証券管理業務も廃止
証券監督委員会の組織と機能の強化
天津、ハン陽、上海、済南、武漢、広州、深セン、成都、西安に弁公室
北京、重慶に直属の弁事室
その他の省、市に特派員事務所
→全国的なネットワークが形成
98年6月16日
中央金融工作委員会が正式に成立
2.ゴール急ぐ
98年後半
党指導部の強力なテコ入れ
立法作業は再開
ゴールへ向けてまっしぐら
アジアの金融危機を教訓
市場防衛的な証券法を制定するという党の方針
統制的な内容の立法を目指した法制工作委員会の意図と合致するもの
中央集権的な管理体制のもとで統制色の強い証券市場を運営しよう
修正草案の基本的内容
起草小組の当初の方針からは大きく隔たったもの
98年10月と12月
2度にわたる常務委員会での審議において細部の調整を経た証券法草案
12月29日
最初の上程から足掛け6年半、4度目の審議を経てようやく採択、成立
アジア金融危機から中国を救い、WTO加盟に備えるという大儀
真剣な論争は封じられ、あっけない幕切れを宣言される結果
成立した証券法
党の昔に反故にしたはずの草案と極めて類似
起草小組の立場からすれば、歴史の歯車が逆に回ったような印象
証券業界の関係者にとっても、中国の証券市場の発展もしくはWTO加盟後の外資の攻勢に対して、この証券法が有効な武器になりうるのかという点について、一様に強い懸念
中国の証券法
いくつかの点で先進資本主義国の証券制度とはやや異なる特徴を有するもの
基本的な特徴
×中国が証券市場の自由な発展を促そうとする方針
○国が統一的に市場を管理し、厳格な統制のもとにおこうとする姿勢
・
株式の発行を届出制ではなく認可制にしたこと
・
信用取引、証券先物取引を禁止したこと
・
銀行資金の利用を禁止したこと
・
証券会社の顧客に対する融資を禁止したこと
・
場外取引を禁止したこと
・
証券業者(従業員を含む)の資格審査を厳格にしたこと
・
違法行為に対する処罰を強化したこと
V.問題はどこにあるのか
1.隠された争点
証券法の立法にあたって事実上最大の争点
国有株の流通をいかにコントロールするかという問題
中国における株式会社の大半
国有企業から改組されたもの
株式会社への改組にあたって最も懸念された
株式に姿を変えた国有資産が株式市場を通じて流出する危険はないかという問題
会社法や証券法
国際的な法原則を優先させて株式の平等を基本原則として採用
これらの法律のなかに国有株という概念は存在していない
証券の発行、流通の問題をめぐって、その制度化をめぐる激しい論争の背後
国有株と非国有株、流通株と非流通株を如何にして明確に区分し、国有株の管理を厳格にするかという課題
株式の発行を認可制
そのような観点から採用されたもの
93年4月22日
「株式発行・取引管理暫定条例」(国務院)
流通株と非流通株の割合について一つの基準を定めた
株式を発行する企業
株式発行総額の25%以上を流通株としなければならない
↓
株式発行総額が4億元を超えるとき
10%以上まで引き下げられた
93年12月:会社法改正
株式発行総額が4億元を超えるときの基準が15%以上に引上げられた
94年11月
「株式有限会社国有株管理暫定弁法」(国有資産管理局)
国有株の支配的地位を規定
非国有株の発行と国有株の流通を厳しく制限する方針
国有企業から改組された株式会社は、国有株について一定の比率を保持しなければならない
基準:二つに区分
@ 国有株が絶対的支配の地位を占める株式会社
国有株が株式全体の50%を占める
A 国有株が相対的支配の地位を占める株式
国有株が株式全体の30%〜50%を占めるが、同時に株式を分散すること
2.形だけの改革
会社法
施行後のほぼ5年間は、ほとんど立法の目的を達しえなかった
会社法の主要な改革の課題
およそ1万5,000社を数える大・中国有企業に会社法を適用して、組織改革を実行すること
→目標の半分しか達せられなかった
重要な大型国有企業
会社法の適用を受けたといっても、国有独資会社に転換しており、その実態は国有企業とほとんど異ならなかった
株式有限責任会社に転換した場合
株式の大部分は国有資産管理部門によって国有株として保持
多数の株主に配分されることはなかった
会社法本来の目的
株主構造を多元化することによって国による経営の支配から脱却させ、自立的な経営を実現する
ほとんど絵に描いた餅に終わっていた
上海と深センの証券市場に上場している企業の数(2000年末の時点)
1,088社
上場企業による発行株式総数
約3,800億株
時価総額
5兆元弱
上場企業のうち、国有企業から株式有限会社に改組した企業
約95%
国内外の証券市場で流通している
約1,350億株(全体の約35%)
時価総額
約1兆6,000億元(33.5%)
流通していない残りの株
従業員持株制の対象とされている僅かな株(非流通株の約6%)
非国有企業などの保有株
約80%(全体の約55%)は国が直接または間接に保有する国有株
国有企業から転換した株式有限会社における国有株の比率
非流通株の割合が示す数字よりさらに高くなる
株式の発行が認可制
新規株式の発行が国有株の比率変動に及ぼす影響
国として厳格に管理する権限を残す意図
管理体制
中央に集権化するか地方に分権化するか
ここの企業の国有資産を中央で管理するか、あるいはその管理権を各地方政府に授権するかという問題
W.重い課題
1.国有株の売却問題
97年の第15回党大会
国有経済の戦略的再編
大中型国有企業は国有経済の範囲内で改革をすすめる
小型国有企業については大胆に非国有経済に開放する
99年9月の第15期中央委員会第4回総会
「国有企業の改革と発展に関わるいくつかの重要問題についての決定」
大中型国有企業について「規範化された会社制(現代企業制度)」への改革
中心課題
チェック・アン・バランスにもとづくコーポレート・ガバナンスの確立
上場企業のうち筆頭株主が発行済株式総数の過半数を保有している企業
全体の約80%
そのうちの95%は国有株の株主
5%強にあたる63社
筆頭株主の保有株が発行株式総数の75%を超えている
国有株が絶対的支配の地位を占めているだけでなく、筆頭株主もまた単独で絶対的支配の地位を占めている
3.外国企業への国有株の譲渡
95年9月:国務院
国有株及び法人株を外国企業に売却することを全面的に禁止
02年11月1日:証券監督委員会、財政部、国家経済貿易委員会
「上場会社の国有株及び法人株を外国企業に譲渡する問題についての通知」
全面禁止の方針を変更
X.新しいステージへ
1.中国型合弁企業の特徴
外資に対する株式譲渡の問題
基本的には合弁事業に関わる政策によって統制
中外合資経営企業
外資の出資比率を25%以上
経営権のマジョリティーを確保するという政策
外資の比率を一般的には25%〜50%の枠内に誘導
外資の持ち株比率が25%〜50%の枠内
むしろ政策の上からは歓迎されてきた
50%の枠を越えること
基本的に禁止され、厳しい監視が行なわれていた
88年:趙紫陽党総書記
「沿海地区経済発展戦略問題について」
外国側に主体的な管理権を与えるべきだとの、当時としては画期的な認識
会社法
既存の法律に基づく外資系企業については、そのまま既存の法律を適用
会社法が規定する株式有限会社の形態による外資系企業の設立という新たな可能性に道を拓いていた
95年1月:対外貿易経済合作部
「外国投資株式有限会社設立のいくつかの問題についての暫定規定」
会社法に基づく外資系企業の設立についての法制度
2.外資系株式会社の新たな可能性
外資系企業が有限責任会社の形態に限定されている
出資者の数を制限することによって外資側に対する管理を厳格に行なうとする政策目的
外資系企業に会社法を適用
この目的の遂行に重大な制約をもたらす危険性
単なる有限責任会社と株式有限会社との違い以上の問題
中国の合資経営企業
重要な点で国際的なルールとは大きく異なった原則を採用
最大の特徴であり、同時に最大の問題点
経営権と出資比率とが完全に切り離されているところ
中外合資経営企業法
外国側投資者の出資比率に上限を設けるどころか、反対に下限を設けて、25%以上の出資を義務付けた(第4条)
外国側投資者
50%を超えることはもとより、100%に近い投資も可能
出資比率に応じた役員の数と損益を投資者に配分するとも規定
経営上の重要事項について決定する役員会の議決
全会一致でなければならないと規定
合資経営企業の経営管理にかかわる最高の意思決定期間
董事会(第33条)
董事会の役員である董事
出資比率に応じて各投資者に配分されるのが原則(第34条)
董事会での決定
一般的な事項については多数決を原則
合弁企業の定款の変更、中止、解散、合併、登録資本の増額、譲渡など、重要な事項
全会一致でなければ議決できない(第36条)
出資比率で圧倒的な優位を占めようとも、経営管理上の実質的なマジョリティーを確保することは不可能
会社法が直接適用される株式有限会社の場合
全会一致でなければ議決しえない事項が株主総会の3分の2以上の賛成によって議決できる
株式平等の原則に基づく民主主義が機能
株式総数の3分の2を支配していれば、経営管理上の絶対的なマジョリティーを確保することが可能
中国の外資導入政策における歴史
統制主義の緩和という問題
画期的な転換を示したものと評価されるべき
3.進む法整備
株式有限会社形態を採用した外資系企業
ほとんど設立されなかった
設立された企業
中小のプロジェクト
法整備の実現
政策が定着するものとなっていないことを証明
99年8月:経済貿易委員会
「外国企業による国有企業の買収についての暫定規定」
「外資系企業の合併と分割についての決定」
外資が国有企業に資本参加することを認める
2001年:対外貿易経済合作部
「外国投資株式会社関連問題についての通知」
同規定に基づく外国投資株式有限会社設立の申請を受理する旨通知したうえ、さらにそうして設立された外国投資株式有限会社が中国の証券市場に上場することを許可する方針
11月:対外貿易経済合作部と証券監督委員会
「上場会社の外国投資に関わる問題についてのいくつかの意見」
外資系株式有限会社がA株またはB株を発行することや、外資系企業が上場会社の非流通株を購入することについて、原則的に認める規定
11月22日:対外貿易経済合作部と工商行政管理総局
「外資系企業の合併と分割についての決定」
2001年になって制定されたこれらの一連の関係法規
外資系株式有限会社の設立という問題は、法的な環境を整えると同時に、それ以前には例のなかった大企業の設立認可へと具体的に動き始めた
2002年11月8日:経済貿易委員会、財政部、工商行政管理総局
「外資利用による国有企業改組暫定規定」
国有株の比率に制限を設けている国有企業を除いては、国有株を含むすべての国有資産を外国企業に譲渡することも可能
中小の国有企業
外資に全資産を売却することが選択肢の一つに加えられた
2002年11月
「上場会社の国有株及び法人株の外国企業に譲渡する問題についての通知」
中国の証券市場
対外的に扉を大きく開くための準備に入った
11月7日:証券監督委員会と中国人民銀行
「有資格国外機関投資家による国内証券投資管理暫定弁法」
政府による認可を受けて指定された国外機関投資家(QFII)
国内証券市場における株式の取引を認める
外国企業による株式の売買に便宜を図ると同時に、その管理を規制しようとするもの
おわりに
証券制度の新たな展開
現行の証券法はほとんど何も具体的な関わりをもちえていない
政策の実施
すべて証券法によることなく、これとは別に単行の法規を制定することによって行われてきた
新たな政策の展開にあわせて、証券法が改正されたということもない
中国の証券市場
急速に発展
アジアでは証券市場の時価総額が日本、香港についで第3位
WTOへの加盟
加盟と引き換えに背負った証券市場の国際化という課題
証券法が近い将来に、上述した法整備の成果を反映して大きな修正を受け入れざるをえないことは、誰の目にも明らか
<参考文献>
田中信行「中国証券法の生まれ出ずる悩み」『社会科学研究』第54巻第3号、東京大学社会科学協会、2003年3月