会計情報の利用目的と会計不信
我が国会計界の2つのジレンマ
1.会計基準の世界標準化に伴うジレンマ
・会計制度・基準の改革は、会計の「プレゼンス」を飛躍的に高めた
・我が国の「アイデンティティ」は失われつつある
2.米国で起こった会計不信に伴うジレンマ
・会計基準の改革を進めるべき
・独自の路線を追求するべき
→会計情報の基礎概念ないし利用目的など会計の本質観に照らして、御こっている会計現象をきちんと整理した上で、我が国会計界が進むべき道筋を描き出すこと
会計情報の利用目的
@ 予測価値、意思決定支援機能、情報提供機能
A フィードバック価値、契約支援機能、利害調整機能
・SFAC第2号(会計が備えるべき目的適合関を構成する要素)
@ 意思決定者の予測能力の改善に関連する予測価値(predictive value)
A 意思決定者の事前の期待値の確認また訂正に関連したフィードバック価値(feedback value)
・IASBの概念フレームワーク
@ 予測的役割(predictive role)
A 確認的役割(confirmatory role)
・Watts, Zimmerman(1986)
@ 意思決定を促進するための情報としての役割(information role:意思決定支援機能)
A 契約が履行されたことの事後的な確認を可能にする役割(contract role:契約支援機能)
→区別
・Beaver(1998)
@ 情報的観点(information perspective)
A 契約的観点(contracting perspective)
→2つの側面を区別
・我が国の会計制度のコンテクスト
@ 証券取引法のもとでの会計の役割(情報提供機能)
A 商法のもとでの会計の役割(利益分配、利害調整機能)
日本の会計制度の特徴
日本の会計制度
商法と証取法の強い結びつきを維持しつつ、情報提供機能と利害調整機能の双方を満たそうとしてきた
↓近年
会計基準のプレゼンスの高まり
商法はむしろ会計基準を尊重しながら、配当可能利益の計算局面で修正を加えるというアプローチ
⇒情報提供機能が優先されつつある
米国の会計制度
情報提供機能を拡充させつつも、それに伴い複雑化ないしは脆弱化が進む利害調整機能については、その周辺制度の拡充を通じて、補完してきた
米国で会計情報の利用目的が情報提供機能と重視する契機
⇒1966年ASOBAT(AAA)
会計
情報の利用者が事情に精通して判断や意思決定をすることが可能なように、経済的情報を識別し、測定し、伝達するプロセス
会計の機能
情報利用者の意思決定への有用性を強調
SFAC第1号
財務報告は、現在および将来の投資者、債権者その他の情報利用者が合理的な投資、与信およびこれに類似する意思決定を行うのに有用な情報を提供しなければならない
↓情報提供機能を拡充させるべく
数多くの会計基準が世界に先駆けて設定
外貨換算会計
金融商品の公正価値評価
年金債務のオンバランス化
リース会計
ストックオプション会計
税効果会計
共通点
・オフバランス項目であったものを貸借対照表に計上するといったバランスシート核心の側面
*SFAC第6号
持分、包括利益、収益、費用、利得および損失を資産・負債に関わらせて定義(資産・負債観)
・経営者による見積要素や確率論的要素が拡大
⇒「利害調整機能」の実現を困難にさせる
会計情報の利害調整機能(米国)
各州の会社法に委ねられている
→監査制度ないしは取締役会制度などの周辺制度を拡充することで対応
ex)
1992年「内部統制に関する統合的枠組み(the committee of
sponsoring organizations of the Treadway commission(COSO))」
外部監査
SECPS(SEC Practice Section)を設立し、同業他社によるピア・レビューの実施
1999年「企業の監査委員会の有効性に関するブルーリボン委員会による報告および勧告」
我が国の会計制度(トライアングル体制)
情報提供機能と利害調整機能を同時に満たす方向で制度設計が進められてきた
・会計基準の世界標準化
従来の利害調整機能を脆弱化させる可能性が高い
会計不信の原因
アーサー・レビット(1998)
経営者が@ビッグバス、A創造的な買収会計、B多種多様な積立金(Cookie Jar Reserve)、C重要性の原則、D収益の認識の基準などを濫用して会計利益をコントロールしている事態を問題視
米国
会計数値の操作に代表される、経営者の「暴走」を抑止するメカニズムがビルとインされていたはず
⇒なぜ機能しなかったか?
理由
@ 監査人の独立性の問題
監査人が株主ではなく、経営者を「クライアント」と考え始めた
A 取締役会が十分に機能していなかったこと
・高額の報酬で取締役を採用している点
・特定の取締役と関係の深いメンバーが少なからず取締役会メンバーであること
B 会計基準設定主体や市場規制主体が前述したような会計・監査上の問題に十分な対応をしていなかった点
・実務の反対による規制の緩和
・投資銀行に属するセクターアナリストの利益相反の問題
企業改革法の制定
「信用性なくして有用性なし」
我が国での改革に向けて
包括利益
期間利益に比べて情報有用性が極めて低い
資産・負債観によるバランスシート改革
会計情報の見積要素、確率論的要素はより拡大
会計情報の信頼性や契約支援機能ないし利害調整機能の低下
<参考文献>
伊藤邦雄「会計情報の利用目的と会計不信」『企業会計』Vol.55,No.1、中央経済社、2003年1月