財務業績報告をめぐる2つのアプローチ

IASBによる財務業績報告の構想の主要な特徴

@     所有者との取引以外の結果として認識されたすべての持分変動として定義される包括利益を単一の財務業績として捉えて包括利益計算書において表示すること

A     未実現損益項目が実現した場合にリサイクルを行わないこと

B     ボトムラインは特に有用な数値として捉えず、その構成要素の有用な分類を提供すること

「業績一元化・実現利益放棄アプローチ」(英国)

・「業績二元化・実現利益維持」(米国)

財務業績一元化・実現利益放棄

英国

1992年:FRS3号「財務業績の報告」、総認識利得計算書の導入

1995年:財務報告原則書

2000年:公開草案第22号「FRS3号『財務業績報告の再検討』」、財務業績の一元化と実現利益の放棄

情報セットアプローチ

業績を単一の数値に要約するのではなく、その構成要素に重点をおき、どの構成要素が重要であるかは利用者が判断すべし、とするアプローチ

単一の業績指標に対する偏重を是正するために導入

財務業績二元化・実現利益維持

FASBによる包括利益制度化の背景

未実現項目の資本直入方式に終止符

基礎概念に基づいたクリーン・サープラスの復活

米国

1980年:SFAC3号「営利企業の財務諸表の諸要素」

1984年:SFAC5号「営利企業の財務諸表における認識と測定」

包括利益計算書が提示

稼得利益という収益費用アプローチに基づいた利益概念が包括利益の構成要素として規定

1997年:SFAS130号「包括利益の報告」

純利益と包括利益の2つの指標の提示

理論的根拠

業績一元化・実現利益放棄アプローチ

財務報告の目的(G4+1意見書)

財務利用者の予測にとって有用な情報を提供すること

→財務業績報告の役割は予測価値にある

業績二元化・実現利益維持アプローチ

・投資成果を測定する事後情報としての機能を実現利益が担っていると主張する見解

投資意思決定の基礎になる企業価値を評価するために、金融資産の時価情報とは別に、事業資産によってもたらされる超過利益の割引現在価値、すなわちのれんがキャッシュ・フローとして実現していく過程を示すことの重要性

・伝統的会計が有する自己完結的機能の原点に立った見解

資産負債アプローチに基づく包括利益を計算すると同時に収益費用アプローチによる実現利益を内訳要素として算定する計算構造ではあるがゆえに、原価配分を市場から独立して行うという会計の自己完結的機能を実質的に維持しつつ、伝統的会計では開示できなかった項目の追加開示が可能

 

<参考文献>

斉野純子「財務業績報告をめぐる2つのアプローチ」『企業会計』Vol.55,No.1、中央経済社、20031