簿記学の対象
2つの複式簿記
複式簿記の本質(相対する2つの見解)
第1の見解
その本質を時宜どおり狭く捉え、複式記入による簿記、すなわち勘定形式を用いて複式記入し、その結果、貸借平均の原理が成立する記帳技術であるという形式的特徴のみに求めるもの
↓
複式簿記
営利・非営利組織を問わず適用される普遍・不易な記帳技術
第2の見解
本質を形式的特徴のみならず、財産、資本、利益といった記録・計算目的を持って体系化されたシステムとして広く捉えるもの
↓
複式簿記
一般には営利組織、すなわち企業のみに適用される簿記
一般に複式簿記
形式的特徴だけでなく、実質的な記録・計算目的を併せ持った企業の複式簿記のこと
*近年、主張されている非営利組織への複式簿記導入化
×金銭出納を対象として複式記入を行うこと
○“企業”会計方式の導入を目的
2つの簿記学
岩田巖教授
従来の簿記学
決算中心主義の簿記学
→必要性
管理中心主義の簿記学
決算中心主義の簿記学
簿記の目的、勘定理論、勘定分類、帳簿組織の設定といった諸問題について、すべて決算を窮極の目標として考える簿記学
特徴、問題点
・簿記の目的として財務諸表の作成を重視するあまり、日々の多量の取引を継続記録することが日常的な管理の機能を果しているという点を軽視していること
・勘定理論が、財務諸表をベースに複式簿記全体を統一的に説明しようとするあまり、非常に難解なものとなっており、簿記というものが企業の中でどのような意味を持っているかが明らかにされていないこと
・貸借対照表勘定と損益計算書勘定といった、期間を区切って行う計算に基づく勘定分類がなされており、簿記という連続的に行われる記帳とは立場が全く違っていること
・帳簿組織についても、決算の基礎となる元帳を中心とした分類、すなわち主要簿、これに従属するものを補助簿とする分類が行われており、会計管理の見地から必要なのは主要簿ではなく補助簿であって、主従が逆の関係になっていること
⇒簿記あるいは帳簿の持つ管理的な機能を没却してしまっている
安藤英義教授
複式簿記
資本中心主義の簿記
簿記書が単式簿記を扱わなくなった頃
簿記の資本中心主義化、会計かが始まり
今日
会計が情報提供機能のみに編重し、非簿記的な方向へ拡散
⇒簿記はその語源である「帳簿記録」を忘れ空洞化しつつある
主要簿と補助簿
主要簿
複式簿記の機構を成立させている帳簿
これを取り去ると複式簿記が成立しない帳簿
補助簿
複式簿記の機構に関係なく、必要に応じて設けられる帳簿
帳簿組織
管理の必要に応じて設けた複数の帳簿を端緒にして発展してきたもの
決算整理
・実地棚卸に代表される記録と事実の照合による修正
決算時のみに必要な処理でも、複式簿記固有の処理でもなく、単複問わず、財産の管理上、適宜、行われるべき処理
・適正な期間損益計算上、あるいは近年では資産・負債の評価上、要求される処理
定期的な財務報告において要求される数値に合わせるための修正であり、揺れ動く会計基準の支配下にある
簿記学の主たる対象
証憑と結びつき、この機能を直接担う詳細な勘定ならびに帳簿、さらに随所に検証装置を具備した帳簿組織全体で行われる記録・計算
→たとえ情報技術が発展しても、この機能を無視した会計システムはありえず、これを果した上で、財務諸表の作成にも利用されている
<参考文献>
原俊雄「簿記学の対象」『企業会計』Vol.55,No.5、中央経済社、2003年5月