企業会計と利害調整機能
情報提供機能と利害調整機能の関係
証券投資のための会計情報の提供という方向に収斂
維持すべき資本VS配当財源
維持すべき資本の範囲(最近の商法改正)
→縮小されている
減資差益(資本金減少差益)および資本準備金減少差益並びに自己株式処分益
配当可能利益とされることになった
資本取引として処理
利益剰余金に転化
→損益取引として認識
資本維持と配当財源の確保とのトレードオフ関係
配当財源の確保を重視する方向
債権の担保としては資産の実質価値が有効であるという立場
B/S上の資本の部の構成
資産の実質価値の評価に関心がおかれる
資本剰余金が配当財源とされたこと
資本剰余金と利益剰余金の区別の必要性も消滅したに等しい
債権者保護
貸し先企業の担保資産の時価評価及び将来収益力の推定
→再建の回収可能性を実質的に判定し、再建の保全を図るべきであるという方向
*不良債権の判定及び処理
収益還元価値による資産評価
⇒曖昧
繰延税金資産の評価によって証明
将来収益力の推定
不確定性あるいは不確実性がつきまとう
免罪符
市場に求められている
自己資本の実質価値
資産及び負債の認識とその評価によって決まる
債権者と株主の利害調整に関する考え方の変更が必要
名目資本維持から実質資本維持への変更
企業会計の利害調整機能
取得原価主義のもとで費用配分理論に支えられた決算の確実性が後退
予測要素の介在によって、不確定要因が含まれる中での判断が必要とされる
維持すべき資本&社会的便益
株主あるいは投資家のための会計という立場
企業は社会的便益を創造し提供する組織であるという立場
企業が維持すべき資本
→実物資本
社会的資本形成
「その他資本剰余金」概念
広範な資本剰余金の形成
ex)国庫補助金(建設助成金)、工事負担金等の受贈性剰余金
広義の資本概念を形成
戦後の経済復興のための社会資本の形成にあらゆる手段を動員する必要
国家財政からの支援及び受益者による資本提供
*資本剰余金とされている工事負担金
本来は資金受け入れ目的に該当する工事給付にかかる前受け収益であるから固定負債として処理すべき
広義の資本概念
維持すべき資本
社会的便益提供の物的実体である資本的資産
×資本取引か損益取引かという視点から資本と利益を区別すること
○資本的資産の形成のための財源が資本とされる構図
資本と利益の区別
剰余金が配当可能財源であるか否かの判別の基準として尊重
公営企業
収支相償の原則のもとで社会的便益を提供することを目的
利益剰余金は本来的にはゼロであるべき
利益剰余金が発生した場合
将来の便益提供のための再投資資金として留保する
損失が発生した場合
留保原価として繰り延べて、将来の料金原価に算入
*利益も損失も自らには帰属させない
市場対応型会計基準VS行政事業型会計基準
市場競争型企業と行政統制型企業のそれぞれの会計における関心の中心を示すもの
近年の制度設計
企業を証券投資の対象として認識
投資の価値を現在の市場環境によって評価し、配当財源を確認することを目的
期間損益計算
原価配分理論に基づいて、収益と費用を比較し、業績利益を測定する仕組み
⇒市場対応型会計基準
戦後の会計制度(3つの時代)
生産経済の長期安定成長を支援する正常損益モデル(1949〜1962年)
法務省令計算書類規則による当期処分可能利益計算モデル(1963〜1999年)
国際標準による投資情報開示モデル(2000年〜現在)
会計制度改革の変遷
グローバリズムの進展を色濃く反映
国際投資家および期間の企業評価に役立つことが至上命題
企業業績に関する判断基準
将来収益力の評価
行政事業型会計基準
安定的経営を指向
資本的資産の形成が租税と債券発行(企業債等)によって制度的に保証
→資本調達の根幹に及び地方自治体が掌握
公営企業型独立行政法人
債券発行の権限は与えられない
現在の直営型公営企業よりも後退
公営企業型独立行政法人
直営型公営企業から資産及び負債を承継
長期目標及び長期計画の決定は設置団体である地方自治体に留保
中期目標及び中期計画の決定とその履行に責任を負う
→経営に関する最高意思決定権を持たない
経営自主権を付与するが、中期計画の履行に基づく業績を評価することで、存廃を含めての意思決定を政府及び地方自治体が行なう仕組み
公営企業会計
資本会計に関して、後ろ向きの改革
長期的資本投資の自主決定権とその財源措置である企業差異の発行権限ももたないで、資本的収支に関する意思決定が限定
収益的支出
独立採算制の徹底が強く求められる
発生主義会計が全面的に適用
行政需要の放漫な拡大をけん制し、そのコストの管理を強化
市場環境に競合&会計基準の統合
世界的な潮流
私経済部門と公経済部門の会計基準の原理的統合
ex)公会計部門への発生主義会計基準の導入
組織目標
私営企業
利潤の極大化
公営企業
公益の最大化
私営企業と公営企業
資本の調達構造を異にしている
→貸借対照表資本の部については同質的には論じられない
企業会計の利害調整の眼目
社会的便益の提供主体である企業と受益者である市民が、公正な価格による安定的な需給関係に立っているか否か
株主利益VS市民利益
私営企業も公営企業も
ともに発生主義に基づく企業会計を採用
→業績評価に関しては共通の尺度を持つこと
収益及び費用の認識においては両者に違い
企業会計の役割
企業の財政状態と経営成績を明らかにすること
誰の立場に立ってであるか
私営企業の会計
株主の立場
公営企業の場合
提供者である国民ないし住民
公会計の役割
税金の徴収とその使途について勘定し報告すること
公営企業の負託する利害調整機能
事業の顛末を明らかにし、税金による負担と料金による負担の会計をあわせて開示することによって、国民ないし住民の負担が適切であるか否かの判断を可能にすること
<参考文献>
吉田寛「企業会計と利害調整機能」『企業会計』Vol.56,No.4、中央経済社、2004年4月