情報サービス産業の会計をめぐる諸問題
T 特異な会計慣行
2005年5月「情報サービスの財務・会計を巡る研究会」
情報サービス産業の会計問題について議論
背景
情報サービス産業
昔
大規模システムの提供
現在
経済・産業・日常を含むあらゆる局面をソフトウェアが支えている
例)車両1台あたりのプログラム
1979年:2000行
2001年度:200万行
2006年度:400万行
我が国の情報サービス産業
取引慣行の透明性が欠けている
会計処理が不透明
→いくつかの架空取引による粉飾決算も相次いで露呈
2005年3月 日本公認会計士協会
「情報サービス産業における監査上の諸問題について」
情報サービスに対して会計的にどう対応しなければならないか、不透明性に伴う会計不正、不明朗な会計処理に対して何らかの対応が必要といった意見
U 「無形だから不透明」という甘え
情報サービス
目に見えない無形のサービス
無形だという理由で
会計処理が不明朗・不透明になる
無形資産(インタンジブル)
のれんやブランドの会計問題など、インタンジブルに対して会計はどう対応していくべきかという問題
V 会計慣行の整備・改善
経営者自信が適正な会計処理を実践するという自覚
透明性を確保しうる会計の理論や手法を開発していく必要
経済産業省の研究会
情報サービスを提供するベンダー側
利用するユーザー側の企業責任者
会計や監査の専門家や研究者
議論の対象(会計慣行を見直そうというとき)
・ユーザー側に多くの問題があるのか
・ベンダー側にその問題があるのか
・双方に問題があるのか
会計的な面
従来の会計上の不備は会計基準そのものに問題
内部統制が不十分であるために不適正な会計が行われているのか
→見極める必要
⇒そのうえで会計基準や指針で対応する課題は何なのか
⇒内部統制を向上させることで対応しうる課題は何なのか
W 正しい原価計算のために
課題
ソフトウェアの原価の正しい把握
ソフトウェアから生ずる収益の認識基準
原価計算
どんなコストがいつ、どこで発生するのか
把握するための合理的な理論と手法が明確でなければならない
理由
ソフト開発
製造業のような業務がある
単に物質的資産としてのものを作るというだけでない
ベンダーの業務
ソフトウェアの開発という製造業的な業務
コンサルティングというサービス業的な業務
→渾然一体として提供していく
正しい原価計算の把握
製造業原価計算とコンサルティング業務の原価計算の両者を明確に区別
コスト発生の仕組みと、それを把握するための手法
X 正しい収益計上のために
複数のタイプの業務が明確に区別されないままに行われている
・商社的な取引
商社のような手数料収入のみを収益として計上すべき事業
・メーカー的な取引
自社開発の製品を製造して販売するメーカーとしての事業活動による集積を計上すべき事業
→明確に区別して、収益の計上を考えていく必要
*契約が締結される前に、大体の見込みで作業が始まってしまう場合
→本契約に至らなかった場合、そのコストをどの収益に対応させるのか
加古教授
契約締結または契約締結と同等の状態であって、かつ、受注承認があってから作業開始するという慣行を確立する必要がある
取引
インタンジブルであるだけではなく、変化するというのもソフトウェア取引の特徴
会計的には
契約締結前の準備作業、契約締結後の作業、その後の変更、最終的に完成・引渡しとなる時点
→各局面において会計的証拠としての物的証拠を確保する必要
Y 収益の実現の要件
収益実現の要件の問題
収益をいつ、どういう仕方で計上するか
原則:引渡・検収段階で計上
検収書の記載事項の明確化が必要
意図的・恣意的な検収時期の延期とか前倒しを未然に防止できる体勢が確立できる
Z 「一式幾ら」という契約は問題
1つの契約として締結されている場合
ソフトウェアの開発という局面、コンサルティングという局面、いろいろな技術の採用という局面、社内教育という局面、メンテナンスという局面
→複合的な取引要素別に収益の計上基準は当然異なるべき
⇒複数の取引要素に係る収益について、それぞれ合理的な計上基準の考え方を明確にする必要
[ 進行基準の導入問題
建設業
コンサルティング業務とハードの建設業務とが併存
進行基準
業務の進捗率に応じて収益を計上する基準
収益計上のタイミングや収益の計上金額を恣意的に操作することを回避できるという特徴
進行基準を情報サービス産業の会計に導入
請負金額をどのようにして確定するか
業種ごとに請負金額を配分しなければいけない
段階ごとに請負金額をどのように配分するか
\ 最大のユーザー:政府調達の問題点
予算都合
予算都合で一連の契約をぶつ切りする
領収書も年度内に発行すべき領収書を翌年度に発行するなど
→適正といえない取引
] 内部統制の確立が必要
業務フローのドキュメント化を推進していく
目に見えないソフトウェアの開発・形成・利用といった全プロセスをドキュメント化
取引の一つ一つを文書として残していく
物的証拠としての記録を残していく
→無形のソフトウェアサービスが視覚化していく
参考文献:加古宜士「情報サービス産業の会計をめぐる諸問題」『企業会計』Vol.58,N02、中央経済社、2006年2月