IFRS第1号「IFRSの初度適用」の解説
2003年6月19日(IASB)
国際財務報告基準(IFRS)第1号
「IFRSの初度適用(First-time Adoption of International
Financial Reporting Standards)」を公表
2001年4月にIASBが活動を開始
初めて公表した本格的な基準
IASBの前身であるIASCが公表する会計基準
IASとよばれてきたが、IASBが活動を開始した時点で、これまでのIASを含め、今後IASBが公表する会計基準は、IFRSと呼称
IASBが審議・公表するIFRSから新規に採番する
2003年12月末現在
IASC時代に設定されその後見直しが部分的に行なわれた33のIASおよびIFRS第1号の合計34から構成
IFRS
基準本体、結論の根拠および適用指針の3つから構成
それぞれ別冊として公表
→IFRSとしての強制力をもつ基準本体と強制力をもたないそれ以外の部分とを明確にする
→基準本体が大部なものでないことを強調するため
IFRS第1号の基準本体
47のパラグラフからなる基準
3つの付録および14名のボードメンバーによる承認
IFRSで定義されている用語
基準本体で初出の際にイタリックで表示
定義そのものは、付録(定義)においてその内容を示す
*これまでのIAS
基準本体のなかで定義のためのパラグラフが設けられていた
2003年6月の公表
2005年1月1日以降EUでは、域内すべての上場企業の連結財務諸表に対してIFRSが矯正適用されるため、約7000社ともいわれる企業がIFRSを円滑に適用できるようにするため
IFRS第1号の概要
すべてのIFRSに準拠した財務諸表を始めて作成する場合に適用
初めてIFRSを採用する事業年度の財務諸表をどのように作成すべきかを具体的に示している
IAS第1号(財務諸表の表示)第14項
IFRSに基づく財務諸表を作成している場合
その旨の注記
解釈指針を含むすべてのIFRSを適用していない限り、IFRSを適用していると記述してはならない
従来の解釈指針第8号(会計処理の主要な基礎としてのIASの初度適用)
→廃止
最初のIFRS財務諸表が2004年1月1日以後に開始される事業年度に係るものである場合
IFRS第1号が強制適用
(1)IFRS第1号の構成
1.目的
2.範囲
3.認識及び測定
(1)IFRS開始貸借対照表
(2)会計方針
(3)他のIFRSに対する免除規定
@企業結合
Aみなし原価としての公正価値又は再評価
B従業員給付
C累積換算差額
D複合金融商品
E子会社、関連会社及びジョイント・ベンチャーの資産及び負債
(4)他のIFRSの遡及適用に対する例外
@金融資産及び金融負債の認識の中止
Aヘッジ会計
B見積り
4.表示及び開示
(1)比較財務諸表
(2)IFRSへの移行の説明
@調整表
Aみなし原価としての公正価値の使用
B中間財務報告
5.発効日
付録
A:定義
B:企業結合
C:他のIFRSの修正
ボードメンバーによる承認
結論の根拠(別冊:基準としての強制力はない)
適用ガイダンス(別冊:基準としての強制力はない)
(2)IFRS第1号の要求の特徴(4点)
@最初のIFRS財務諸表の報告日現在では有効なIFRSをすべての期間に適用する
AIFRS第1号は、IFRSに準拠するための費用が財務諸表利用者の便益を上回りそうな特定項目について、IFRSに対する限定的な免除を認めている
BIFRS第1号は、従前のGAAPからIFRSへ移行したことがどのように企業の報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに影響を与えたかを説明する開示を要求している
C最初のIFRS財務諸表が2004年1月1日以後に開始される事業年度に係るものである場合には、企業に対してIFRS第1号が強制適用されるが、早期適用も奨励されている
IFRS第1号の適用範囲
企業が作成する最初のIFRS財務書評及び最初のIFRS財務諸表の対象となっている事業年度のIAS第34号(中間財務諸表)に基づいて作成される中間財務報告である(第2項)
認識と測定に関する原則的取扱い
(1)IFRS開始貸借対照表
最低限1年のIFRSに基づく完全な比較情報を最初のIFRS財務諸表とともに開示(第36項)
表示される比較情報のなかのもっとも早い期間の期首
IFRS開始B/Sが作成される
IFRS開始F/Sの報告日現在で有効なIFRSで認識が要求されているすべての資産及び負債を認識し、IFRSが資産または負債としての認識を許容していない項目は資産または負債として認識しない処理を行う
↓結果生じた修正
IFRS移行日現在の利益剰余金で直接認識
IFRSで認識が要求されているすべての資産及び負債を認識するという意味
→過去まで遡って適用するということ
(2)適用される会計方針
全期間を通じて、同一の会計方針を用いなければならない
IFRS第1号において経過規定が置かれている場合
IFRSを継続適用している企業を対象としたもの
→IFRSの初度適用企業がIFRSへ移行する際には適用されない(第9項)
他のIFRSに対する免除規定
IFRSをすべての取引に適用するという原則に対する例外が6項目
6項目のうちから任意の項目を選択することが認められている(第13項)
(1)企業結合
(2)みなし原価としての公正価値または再評価
(3)従業員給付
(4)累積換算差額
(5)複合金融商品
(6)子会社、関連会社及びジョイント・ベンチャーの資産及び負債
他のIFRSの遡及適用に対する例外
IFRSの遡及適用を禁止
すべて将来に向かって適用
(1)金融資産・金融負債の認識の中止
(2)ヘッジ会計
(3)見積り
IFRSへの移行の説明
(1)比較情報
少なくともIFRSに準拠した1年の完全な比較情報を表示する以前の事業年度に関して抜粋データの過去の推移表を開示する場合
→IFRSへの準拠は要求されていない
@開示された従前のGAAPに従った情報がIFRSに基づいて作成されていない旨
AIFRSに準拠したものとするための主要な調整の性質
→開示することが求められている(第37項)
(2)IFRSへの移行の説明
従前のGAAPからIFRSへの移行
報告されているB/S、P/L、C/Fにどのような影響を与えたかを説明しなければならない(第38項)
@両者の調整表(第39項〜第42項)
Aみなし原価として高正価値を用いた場合の開示(第44項)
B中間財務報告での調整表等の開示(第45項、第46項)
以下の調整表を最初のIFRS財務諸表に含めなければならない
・@IFRS移行日現在とA従前のGAAPで表示された直近の年次財務諸表の事業年度末日のA時点において、従前のGAAPのもとで報告されている資本オブからIFRSのもとで報告されている資本の部への調整表
・直近の年次財務諸表の事業年度に対して、従前のGAAPで報告された当期利益とIFRSのもとで計算される当期利益への調整表
・IFRS開始B/Sにおいて、企業が初めて減損損失を認識したかまたは戻しいれた場合には、企業がIFRS移行日に開始する事業年度でそれら減損損失または戻入れを認識した場合にIAS第36号に基づいて要求されるであろう開示
<参考文献>
山田辰巳「IFRS第1号「IFRSの初度適用」の解説」『JICPAジャーナル』No.584、2004年3月