市場原理主義と我が国制度会計

一連の商法改正

証取法に基づいた開示情報が大きく変化しつつあり、商法との調整が困難(立法技術上の問題)

基本理念とされてきた債権者保護の理念を後退

株主・投資家を中心とする情報開示に重点をおいた商法の会計規制へシフト

90年代以降の市場原理主義に基づいた経済システム改変

議員立法で短期間のうちに

政府与党の経済政策・産業政策との関連

市場原理主義(市場万能主義)の蔓延

「産業競争力戦略会議」(経済産業相の私的懇談会)(2002.5.10

マーケットメカニズムに依存した経済運営こそが、日本経済の活性化につながる道でありそのための唯一の選択

市場原理主義

社会のすべての構成員が同程度の伊丹を感じるのではなくて、社会的弱者の痛みのほうが、強者のそれを数段上回るのが問題

→「強者」の論理

「経済のファイナンシャリゼーション(金融化)」

モノをつくるに人々よりカネを作る人々を優位に置き、経済に投機的不安定性をもたらし、国民生活上の不安をもたらす方向

要因

@低い税金・小さな政府

A企業家精神の鼓舞を通じて国際競争力を強化

B政治や行政によるよりも、市場に任せたほうがより効率的で公正な資源配分ができるという信念、消費者主権

C技術の変化、グローバリゼーション

アメリカ型経済システムへの変革

シェアホルダー・キャピタリズム(株主資本主義)

企業も商品

ステイクホルダー・キャピタリズム(利害関係者資本主義)

企業は混合した性質で、商品であるとともに共同体、コミュニティーである

ネオアメリカ型資本主義

アメリカやイギリス(アングロサクソン)の資本主義

ライン型資本主義

ドイツを典型として北欧からスイスおよび日本

カジノ資本主義の現実の背後

IMFや世界銀行などの国際金融・経済機関が、市場万能主義のもとで強引に進められる規制緩和や資本主義大国の独占資本の政策調整機関としての役割を担わされている実態

商法改正―会社法大改正の基本的必要性・パラダイム

法制面

企業再編による競争力の強化を目指す動き

合併法制の合理化、株式交換・移転法制の創設、会社分割法制の創設など組織再編に関わる商法の整備が進展

会社法の大改正を早急に実現する必要

@我が国がその基本政策として推進する市場メカニズムをより重視する経済社会システムへの大胆な転換を実現するための一環としての必要性

A世界を突き動かすグローバリゼーションへの対応の必要性

B情報・通信技術を中核とする世界的な技術革新への対応の必要性

市場原理主義の下、企業に突きつけられた新たな課題

「競争」と「強調」の同居する企業提携の促進

企業合併・集中再編成を促進する法制

・合併手続の簡素合理化(97年商法改正)

・持株会社制度の解禁(97年独禁法改正)

・金融持株会社の解禁、関連二法(98年)

・金融再生法(98年秋)

・株式交換制度導入(998月商法改正)

・産業再生法(分社化手続の迅速化)(998月)

・会社分割法制(20005月商法改正)

その他

・金庫株の解禁、法定準備金の規制緩和、株式制度の規制緩和等(20016月商法改正)

・企業統治関係の商法改正(200112月)

・会社法大改正(20025月)

会社の計算規定

資産の評価規定等の具体的規定を法務省令に委任

株主・債権者の利害調整というこれまでの商法の本質に関わる問題について、大きな転換を図った

株式会社の資本制度の弾力化・規制緩和

企業経営者の業績悪化に対応して、主に大企業の延命策として政策的に行なわれたもの

会社法

伝統的には利害調整法としての機能を有する私法としてその役割

国の経済政策の一つの重要な制度的インフラとしてのその役割の変換

→利害調整法から政策法へのパラダイム変換

株式会社資本制度の弾力化と会計上の問題点

20016月の商法改正

@自己株式規制の見直し(金庫株の解禁)

A法廷準備金の減少手続の創設

B株式単位の自由化

1)額面株式の廃止

2)株式分割等各種5万円規制の廃止

3)株式合併規制の緩和

4)単位株制度の廃止

5)単元株制度の創設

6)端株制度の見直し

C公開会社の新株発行規制の見直し(期間の短縮)

1)自己株規制の緩和

原則禁止とされていた理由

会社の資本充実・維持の原則に違反し、会社の財産的基礎を危うくすることになる

株主平等の原則に違反し、会社による株価操作の恐れもある

→原則的に自由

改正の理由

@合併、会社分割等の企業組織再編に際して、会社が新株の発行に買えて保有する自己株式を移転することができ、機動的な組織再編ができること

A株式の相互持合の解消等のため、他社が保有する株式が市場に放出される時、発行会社がこれを取得することを認めることにより市場における株式の需給関係を安定させることができること

B大株主や提携先が株式を放出する時、これらの株式が敵対的買収を使用とするものに取得されるのを防止することができること

株式会社の資本制度

会社の設立および維持存続のためにあると同時に、株主有限責任性の下で会社債権者を保護するためにある

自己株式の有償取得

実質的に株主への資本の払戻であり、資本充実・維持の原則に違反することになる

改正法

自己株式の取得財源を配当可能限度額等の範囲内に限定

2)法定準備金の規制緩和

@利益準備金の積み立て限度額

資本の4分の1に達するまで

  ↓

資本準備金とあわせて、資本の4分の1に達するまで

A減資差益

資本準備金として積み立てることを必要としていた規定

 ↓

削除

B法定準備金の取り崩しの順序

削除

C法定準備金の取り崩し

資本の欠損店舗または資本組入れの場合にしか認められなかった

  ↓

株主総会の決議を持って、法定準備金の総額から資本の4分の1に相当する額を控除した額を上限

改正の理由

@

公開会社の多くで株式の時価発行がされ、発行科学の2分の1を越えない額を資本準備金とすることができるという現状があり、それに加えて利益準備金の積み立てを強制することは過剰な規制である旨の指摘がされていた

A

株主総会の決議および債権者保護手続を用件として資本減少手続の中に法定準備金の減少手続も含まれているものとみることができるため、あえて減資差益を資本準備金とする必要はない

3)株式の大きさに関する規制の廃止

@会社設立の祭の1株の発行価額は5万円を下ることができないとする規制および設立後においても額面株式の発行価額は券面額を下ることができないとの規制および額面株式の券面額に関する規制を廃止したこと

廃止の理由

会社が株式の大きさをどの程度のものとするかは、会社の資金調達の便宜、そのときの市場の状況、株主管理費用等を考慮して、会社が自由に定めることができることとすべきであり、法が一律に規制すべきものではない

A額面株式の制度の廃止

廃止の理由

公募により時価発行が一般的となっている現在では、額面株式の存在意義はほとんど喪失されていること
株式の時価が券面額を下回る場合、額面株式の発行による資金調達が困難であり、また、株式分割の結果、額面株式の券面総額が資本金の額を越える場合には額面変更の手続をとる必要があるなど、券面額の機能が会社の資金調達等の円滑な実施を妨げている問題が指摘されていて無額面株式の方が優れていると解されること

旧商法そして改正商法

資本維持。充実の原則ならびに債権者保護の理念を維持しつつ、株式会社の資本制度の存続を図っている

徹底さの程度

改正商法

資本制度の弾力化をもたらし、債権者保護の理念の後退

4)会計上の問題点

株式会社の資本制度の弾力化

↓会計処理上

資本と利益の区分の問題が改めて問題

 

会計理論

「資本」

払込資本(拠出資本)
維持されなければならない性格のもの

「利益」

留保利益(稼得資本)
処分可能な性格のもの

資本と利益の区分における問題

自己株式の取得財源として資本金や資本準備金を取り崩して当て、その自己株式が処分された時点で、処分額が利益配当の対象となる可能性が生じた点

減資差益を資本準備金としないこととし、この結果配当原資とすることも可能

利益準備金

損益取引から生じた利益の留保額

株式払込剰余金、株式交換・移転差益、分割差益、合併差益からなる資本準備金

株主が払い込んだ出資金を源泉とするもの

過剰資本の払戻のための商法改正

商法の「政策法化」を意味

「資本」と「利益」の区別

「資本の払戻」と「利益の配当」とを明確に区別することが必要

改正商法の企業会計制度への影響

会計制度の宿命

経済情勢の変化に対応すべく法律規制の改変が行われ、そのような内容の法律規制に従って会計制度の改変が行われたもの

法律規制に従属する

会計制度に関わる内容の法律改正が問題

会計理論を尊重しそれを考慮するべき

法律が国家政策を反映する役割を担わされるような場合

会計理論は完全に無視される

商法の理念

株主と債権者の利害調整目的の下で会計を規制

→直接金融を前提とした企業金融制度のもとで会計規制

計算内容の正確性

ディスクロージャー優先の下に犠牲にされている

計算構造論と呼ばれる会計理論

政策的な法律規制とそれに従属する会計規制が主体となる会計制度の下では無力

 

法律制度や会計制度

社会の経済システムを支える制度的基盤

経済的主体の支配的要請によって常に改変される運命にある上部構造

株主重視の経営、証券市場における情報開示に重点をシフト、経営者の機能が強まる

→情報操作の危険性が増す

投資家への情報開示目的を優先し、受託責任に基づく利害調整目的が後退しつつある傾向

 

 

<参考文献>

嶋和重「市場原理主義と我が国制度会計」『経営経理研究』第70号、拓殖大学経営経理研究所、20032