第2章 会計基準の国際的調和化・統合化
1.会計測定システムの類型化
(1)調和化の必要性
阻害要因としての文化の影響
発端
アメリカ企業の多国籍化(1960年代)
海外子会社の連結
異なる会計基準に基いて作成された財務所要を単純に連結してよいのか
現地証券市場の要請に従ったディスクロージャーを行う必要
→多大なコスト
比較可能性が確保されていない
*調和化=×標準化
標準化
すべての状況のもとで単一の基準ないし規制が適用されること
調和化
論理的に矛盾がない限り、すなわち互いに調和している限り、異なった基準ないし会計処理方法が使われる余地を残すもの(ミュラー)
会計実務の多様性を減じることによりその互換性を高める過程(ノウブス)
*会計基準の調和化
現在の問題
統合化
選択肢の幅を狭めて世界的に同じ会計基準が適用できるように国際的に協力して会計基準を作成するという理由
(2)類型化の試み
ハットフィールド
法律家、会計士など、会計制度発展の主導者が誰であるかを基準
ミュラー
(1)マクロ経済型:国の経済政策運営に対する役立ちの中で発展した会計(スウェーデン)、(2)ミクロ経済型:企業維持、すなわち取替原価による資本維持を課題とした会計(オランダ)、(3)企業に対するサービス提供機能の中で発展し、会計実務から導出される会計(アメリカ、イギリス)、(4)政府による企業の管理・統制の手段として発達した会計(フランス)に分類
ノウブス
経済要因に基いて会計測定実務を類型化
要因
情報利用者の性質、法律の詳細さ、税法、慎重性、歴史的原価、取替原価、連結、引当金、統一性
P39表2−1
ドイツ・日本VSアメリカ・イギリス
情報利用者の性質
アメリカ:個人投資家、イギリス:機関投資家
ドイツ・日本:銀行
引当金利用の弾力性
日本・ドイツ〜引当金を弾力的に設定
アメリカ・イギリス〜引当金の設定に操作の余地があまりない
ドイツ・日本の会計
法律準拠型
保守的経理が好まれる
(3)文化概念による類型化
文化の概念
ホーフステッド
一つの人間集団の成員を他の集団の成員から区別することができる人間心理の集合的プログラミング
より緻密な定義
・集団内部に共有されている期待
シルバーツバーク
社会生活における行為のために共有化された期待とし、集団内部で一般的に支持されている一組の期待された行為をともなう規範システム
・認知論の立場から文化を規定するもの
カーボウ
意味の相互伝達のための理解可能なコードの創造とその管理
文化概念の排除と導入
会計学〜社会科学の一分野
目的−手段の関係から分析
効率性の概念
組織構成員の均質化を図ることが重要
↓
都合の悪い概念
文化の多様性
文化の重要な局面を表す社会的価値(ホーフステッド)
(a)個人主義対集団主義
(b)権力格差の大小
(c)不確実性回避の強弱
(d)男性化対女性化
会計的価値(グレイ)
(a)専門職主義対法規制主義
(b)画一主義対柔軟主義
(c)保守主義対楽観主義
(d)秘密主義対公開主義
P43 図2−2、図2−3
2.国際会計基準の動向
(1)国際会計基準設定の経緯
IASCの目的
(1)財務諸表の作成提示にあたり準拠するべき会計基準を公共の利益のために公表し、これが世界的に承認、遵守されることの促進
(2)財務諸表の作成提示に関する規制、会計基準および手続の改善および調和に向けて広く活動すること
IASの遵守
罰則規定がない
多くの会計処理代替案を認めすぎた
→比較可能性が確保されなかった
(2)証券監督者国際機構(IOSCO)のかかわり
1974年:アメリカ州証券監督者協会として発足
目的
ラテン・アメリカ諸国の資本市場育成のため、アメリカとカナダがこれら諸国の証券監督者当局と証券取引所を指導すること
1986年:IOSCO
目標
(1)公生活効率的な市場を保持するために、国内・外レベルで市場のより実効性ある規制を確保するべく協調を図ること
(2)国内市場の発展を促進するため、各国当局の経験について情報交換を行うこと
(3)国際的な証券取引についての基準および効果的な監視を確立するために各国の努力を結集させること
(4)基準の厳格な適用および違反に対して効果的な監視を行うことにより市場への信頼を確保するための相互援助を提供すること
1987年:IASCの諮問グループに参加
比較可能性プロジェクト
趣旨
原則として一つの会計事象に一つの会計処理を割り当てること
目的
会計処理代替案の数を削減することによって財務諸表の比較可能性を高めること
1993年11月:IASC理事会の承認
残る問題
IASの企業に対する拘束力の欠如
→IOSCOがIASをコア・スタンダードとして承認で解決
(3)比較可能性プロジェクト
1989年:公開草案第32号「財務諸表の比較可能性」
1990年:趣旨書として確定
「規定または標準処理」、「認められた代替処理」、「除去された処理」に分類
会計処理の選定の理論的根拠
財務諸表の作成開示に関する枠組み(IASCフレームワーク)
FASBによる概念ステートメントと酷似
利益計算構造〜ストック・アプローチの採用
有用とする属性(SFACにはない)
「慎重性」の概念
利害調整
ノウブスによる会計測定システムの類型化
企業実務・専門職業人による規制・イギリス起源
グレイによる会計文化圏の分類
柔軟主義・専門職主義・楽観主義・公開主義
3.比較可能性プロジェクトの成果
比較可能性プロジェクトの受け入れに対してどのような要因が影響を及ぼしているか(サルター=ロバーツ)
(1)比較可能性プロジェクトの成果はIASC理事会メンバーや議長国の会計実務に反映している
(2)比較可能性プロジェクトの成果はIASCへの資金提供に貢献した国の会計実務が反映されている
(3)比較可能性プロジェクトの成果は、大規模な異本市場を持つ国と小規模な資本市場しかもたない国とでは異なる
(4)比較可能性プロジェクトの成果は、グレイによる会計文化圏の分類で専門職主義・楽観主義の数値が高く、画一主義の数値が低い国の会計実務が反映されている
会計基準の国際的統合化に対して、文化的価値がきわめて重要な意味をもつ
4.文化の影響
文化的バイアス
専門職主義・楽観主義の数値の低い国(日本・ドイツ)の会計実務
比較可能性プロジェクトでは排されている傾向
日本やドイツの基準設定者
財務会計報告の大規模な改正
国際的資金調達を行う企業だけがIASに準拠するという方策
国内市場でIASの使用を認める
会計が社会の中で有効に機能するには
法制度、基準設定、教育・研究および社会経済的・文化的環境といった会計のインフラストラクチャーと社会全体の大きな流れに会計がそったものでなければならない
<参考文献>
木下照嶽、中島照雄、柳田仁『文化会計学−国際会計の一展開−』税務経理協会、平成14年6月