序章 文化会計の策定
1.経済発展の制約要因
経済至上主義の制約要因
2つの危機
・
人口問題と環境問題
・
地球に生存する多くの個人やグループの間の関係や、世界の発展、制度、考え方に対する人類の関係
ハマーショルド財団報告書(1975年)
新しい経済発展のパラダイムとしての基本問題
(1)マクロとミクロの接合問題
ex)大都市の低所得者用の住宅供給に伴う転入者の加速的増大の問題
(2)不可視部門
インフォーマル経済(家事など)の規模、種類、領域
(3)人間的ニーズの概念
生存、保護、愛情、理解、参加、余暇、創造、自己認識、自由
(4)貧困の概念
一元的な経済概念から多様な概念化指向
(5)システムの臨海規模
効率性概念の大幅な修正、全国的発展を避けて複数の地域的発展スタイルの共存
(6)自立の目的
自己の努力、能力・資源による復興や構成、物質的ニーズの充足からの人間的ニーズの充足指向
(7)エコロジーの制約条件
生態学的な健全な発展、基礎的資源の長期的活用
(8)指標の問題
計量経済学的指標を保管する序数的指標や尺度の導入
理論設定の背後
人口の激増、資源・環境の乱用、生態条件の悪化、公共支出の累積赤字の増加、年金・保険制度の危機あるいは世代間負担問題、内外価格差問題、企業リストラ、経営のあり方、さらに政府、自治体、大学、病院、宗教法人などの非営利組織の経営問題や会計ディスクロージャー問題、銀行・証券の不正問題に対する監査制度のあり方
↑
野放しの経済発展への大きな制約
世界経済の持続的発展
(1)先進諸国家による生産と消費パターン変革(エネルギー消費の安定化と削減)
(2)国家経済の一層公正なる方針での組織化(発展途上国の債務負担の削減とAgenda 21の実施の可能とする資金提供問題
(3)環境的に健全な技術の開発と、その広範な利用問題の展開(エネルギー使用の削減、廃棄物・公害の少ない生産方法)
新しい経済発展のパラダイムの底流
文化形成要因・・・資源・環境、価値、経済主体、継承
↓
会計の発展に大きな影響
2.文化と会計との関連性
産業技術の発展、情報化社会の急速な展開、企業活動の国際化の加速度的な進展
↓
会計理論、会計学という立場
経営活動に付随する諸種の国際的差異
↑
実務以前の問題として提起
→政策、イデオロギーという視点を超えた文化的視点で論及されるべき問題
文化(ホール)
人間生活のどの側面も、文化が関係をもたず、また文化によって変化されることのないものはない。このことは、個人の自己表明、思考方法、移動の仕方、問題解決方法、都市計画の仕方とレイアウト、運輸システムと機能の構成方法、経済制度と政治制度の統合化と機能化の方法、についての特質を意味する
会計と文化の関連性(ペレラ)
@自然、貿易、投資という外部的影響
↓
A地理、経済、人口、歴史、技術、都市化という生態学的影響
↓
B個人主義、権力格差、不確実性会費、男性化という社会的価値に影響
⇒@、A、Bが法制度、政治制度、所有関係などに作用
↓
会計的価値および会計システムが形成
(1)環境問題
文化
人々が自然環境に割り当てる役割を処理する方法
2つの主要な方向
・人間の意思を使って自然をコントロールすることが可能であり、そうすべきであると信ずる立場(アメリカ)
・人間は自然の一部であり、人間はその法則、方向、力に従うべきであるとする立場(ギリシャ)
(2)新しい価値概念
社会の価値の変化の速度、企業と社会との間における会計責任契約の加速
↓会計の課題
新しく現れる社会的価値に適応する新しい評価技法の展開
新しい価値@
産業時代の用具や技術に対する限界を認識する必要性
新しい価値A
新しい価値を支援する自然資源や自然的慣習は保護の必要がある(土地組織の限界と複雑性の認識)
新しい価値B
場所、秩序、関連性の概念(土地の所有権は、排他的かつ自由な権利をもはや提供しない)
⇒別の価値に対する会計の時代
(3)人類の相互関係
(1)普遍性対特殊性
他者の行動の適正性に関する決定を取り扱う
(2)個人主義対集団主義
人間相互間の欲求のコンフリクトが問題の中心となる
(3)感情的対中立的
前者は自己の感情を率直に表明するが、後者はこれをしない
(4)特定性対拡散性
人間相互の交流のレベルを示し、その個人の特定の生活や個性に関与するか、同時に多面的な生活や個性に関係するかの程度を示す
(5)達成(業績)性対起因性
社会的地位に関するもので、@組織内での個人が達成したものからえられるか、Aあるいは年齢、性、社会的関係、教育、専門職業などからえられるかのいずれか
(4)時間経過の管理(共時性対連続性)
時間経過の管理する方法を示す文化の側面
・現在の行動
将来に関するアイディアと過去のメモリーにより形成
3つのフレームワーク(過去、現在、未来の相対的重要性)は国ごとに異なる
・連続性(時間のより抽象的、直線的考え方)
産業革命と近代化に関連
主たる属性
効率性を促進
欠陥
効率性は有効性を犠牲にして達成される
3.文化形成要因
文化を形成する要因(4つの文化形成要因)
・ 資源・環境
・ 価値
・ 経済主体
・ 継承
(1)資源・環境
文化を自然環境に対する適応の体系としてみる考え方
人間も他の動物と同様に、生存のための周囲の環境との適応関係を保つ必要があり、人間は文化を媒介としてこの適応を遂げていく
文化の中心的領域
技術、経済、生産に結びついた社会的組織の諸要素
→「文化物質主義」「文化進化主義」「文化生態学」「人類生態学」
↓
経済主体が環境・資源問題を直接測定・報告するという視点
伝統的会計システムでは対処しえないところの本質的特徴が提示
環境政策
(1)直接規制
損害の修復・抑制、適用可能性、実務的経験など
欠点:相対価格の不変性、官僚制度、恣意性
(2)インセンティブ
防止策、選択の可能性、理論的論証など
欠点:公正性の問題、経験的評価の困難性、理論的論証における実施不可能性へとシフト
資源・環境
大気、水資源、土地
→森林破壊の抑制・禁止と再生化の問題
生物、植物、動物
→動植物の保護と育成、人口の適正規模の維持
これまでの製品・商品の計画的陳腐化と使い捨て心理という立場
↓転換が必要
耐久性、工学的高品質性、デザイン性
(2)価値
経済主体の社会的業績の測定・報告という点に視点
経済主体に定性的指標の測定、開示、監査などかなり高レベルにおける企業評価制度の確立
価値の問題
資産の所有権の問題、取引の市場性、価格など
・具体的
資源・環境の維持と回復、発展に貢献する商品化・製品化、投資・開発計画やそうした活動の実践企業のモデル化、人間の尊厳、すなわち生命の維持と延長、障害者機能の回復、高齢者雇用の積極的推進など
↓
取引行為のあり方、価格設定、監査のあり方や経営者の社会的責任などの国際的基準化あるいは標準化という課題に帰着
(3)経済主体
企業、政府、自治体、大学、病院、宗教法人、個人に関する政府会計、非営利組織会計、市民生活会計
*マテシッチ
今日の会計の危機には、会計の特定の研究領域を剥奪して、それを金融に明渡す傾向と、金融領域に比較して、財務会計は自由市場にさほど貢献せず、規制機能を行使する機関に主として貢献している。過去20年間にわたって財務会計と監査は、他の領域を犠牲にして過度に強調された。
(4)継承(世代間負担)
世代会計
現行の公共政策のもとで、現在世代および将来世代が、現在から将来にかけて政府に支払うべき純納税額を直接計算するもの
*アメリカのGASBの概念ステートメント
財務報告の目的・・・世代間の負担の衡平性
当該年度の財政赤字を次世代以降に転嫁してはならない
資産・資源・環境などの価値の伝承
文化形成要因相互に影響をもつ技術、配分、伝統および生命・欲求
(1)技術
(2)配分
(3)伝統
(4)生命・欲求
4.文化会計の策定
表序−1(P14)、文化会計の構造
文化会計が形成される背景
伝統的な企業会計、私企業を補足・強化・延長する政府・非営利組織会計の意義、さらに経済活動の国際化にともなう国際会計の展開を経て、統合形態としての文化会計学が策定される
5.結論
以下の視点の導入
(1)非会計的要素(公正性、十分性の要素の強調)
営利性あるいは市場化とは矛盾
社会的アタウンタビリティを導入する本質的な要因すなわちディスクロージャー拡大の積極的要素を設定
(2)長期的視点(規模性)
環境・資源に対する公害の測定と報告という短期的かつ実効的な対症療法から、グローバルな利用、再生、調和的維持という長期的かつマクロ的な視点への転換
(3)受託責任
伝統的な私有財産制度および株主受託責任制度から、共有財産制度およびステークホルダー受託責任制度への転換
(4)ミクロ・マクロの情報の統合
企業指向から生態指向への視点の転換
(5)組織改革(経営哲学の転換)
資源・環境に対する社会目標を積極的に導入し得るような組織そのものの改革
(6)持続的発展性(成長の限界、ストックの維持と回復)
グローバルな生態の維持と発展
地球の存続という視点
(7)国際的会計基準設定への提言
経済的発展への偏った基準設定のあり方を是正し、むしろこれをグローバルに抑制するような投資計画、開発計画および地域社会貢献などの視点を包摂するものへの積極的な転換
<参考文献>
木下照嶽、中島照雄、柳田仁編著『文化会計学−国際会計の一展開―』税務経理協会、平成14年6月