動的貸借対照表論
A.年次決算の歴史的発展
T.年次決算の発生
損益勘定−Gewinn-und
Verlust-Konto(独)
費用−Unkosten(独)
損失−Verlust(独)
→費用と損失は昔から違う意味
商業旅行の短期化、連続化
⇒損益計算への興味
→どの商品に利益が多かったか、どの商品に少なかったか、損をしたかについて以前よりも余計にしたくなってきた
商品勘定、費用勘定を同時に繰り越す
↓つまり
損益勘定に属せざる項目に対してはB/Sが必ずしも作成される必要はなかった
そして貯蔵中の商品は買入価格をもって評価
グラマトイフ(Grammteus)
「手持ち商品の価格を買入価格をもって評価して貸方に加算すると、借または貸の残高は損失または利益を示すものである」
↑
長く手持していたことにより景気変動で価値が損じる時もある
↓そこで
メンヘル(Mennher)
商品→そのときの価格(時価)
土地、不動産→調達価格
↓この理論に従って
パッシェール(Passchier)
「未だ販売されていない商品に対してはそのときの価格で見積もり、貸借対照表にかかげる」
年々の損益計算の必要性
1600年頃 ステヒン(Simon Stevin)が初めて認めた
貸借対照表
損益勘定に従属して、損益勘定に持っていかれない残高を集めた貯蔵所のようなもの
B/Sは未だ解決せざる項目の表示
ド・ラ・ポルト(De La Porte)(1685年)
勘定を締めてB/Sに移すときに勘定に利益・損失があったかを吟味しなければならない
→ある勘定に利益があった際にはこれを利益に移し、損失のあった際はこれを損失に移す
↓すると
残高だけが貸借対照表勘定に来る
⇒B/Sは未解決の項目でできている
「残高管理(Resteverwaltung)」(カメラル学者曰く)
U.1673年のフランス商事法
財産目録の作成
必要性
詐欺破産者:好んで財産を隠匿したり持ち出したりする
⇒法律をもって財産目録を強要
仏商8条:2年目毎に財産目録を作成することを定めている(P5注(1))
立法者の言わんとするところ−債権者保護
V.1862年の一般ドイツ商法典
・仏商法の示す処を守った
問題点
B/Sの目的について何もいっていない
如何にしてB/Sを作成すべきかに終始している←しかも規定は不正確
具体的内容
年次決算に対して正規の簿記の原則(Die
Grundsatze ordnungsmassiger Buchfuhrung)なものが如何に決定的なものであるべきか
↑適切であるが
専門的知識が必要
正規のB/S作成の原則とはいかなるものか
時代の状況下
自分の必要にもっとも適合したB/Sを作成すればよい(=その営業年度に利益があったかどうか、またどれだけあったか、および個人の費用を補償してどれだけ残ったかを知りたかった)
W.1884年の株式法改正(株式会社はごく少数)
投機業者−相場の騰落のみに興味をもっていた
1873年−会社創立詐欺、恐慌
↓
立法者が干渉せねばならなくなった
@ 設立を認可申請の義務から開放、標準規定を公布→大きな影響がなかった
A 債権者は新しい放資口を求めた(戦争で儲かった)
・実質資本の配分となるような配当の禁止
→「架空財産の禁止」
根本原則
この法律において総ての積極財は最高調達価格をもって評価すべく、市価を有する財にあたっては、市価が調達価格より下落した場合は、評価に際しては市価をとるべき
・未だ実現していない利益を表してはいけない
*年次B/Sと社内B/Sは区別されている
X.ミッケルの税制改正
所得の申告制の導入
↓
B/Sの作成が必要
↑
30年前に商法に規定
→罰則を伴わない
⇒必要とした時だけB/Sを作成
評価の問題
総ての財産〜調達価格
@この見解は若干曖昧なB/S作成の秩序性についての考え方と一致した点があること
A1884年の株式改正法はこの見解を確認したこと
Bこの解釈は税金申告者にとってももっとも有利であった
Y.見解に関する論争
法律家が取り扱った
フィスチング(Fuisting)、ストルツ(Strutz)
商法典の意味における価値
B/S価値として評価されるべき一般価値(×調達価格)
↑
誤った考え
一般価値(税法学者のいわんとする)
販売価値←全く誤り
一般価値(プロシヤ国法における)
各人に対して有するところの使用価値、調達するための価格
なぜ誤った解釈を?
手持商品−販売価格で評価
⇒実現しない利益をB/Sにも損益計算にもあらわしてはいけないことに反する
シェフラ(Shcheffler)『国民経済、政策及文化史』(1897年)
販売価値による評価に反対
経営自身の使用に供される財→調達価格
販売されることに定められた財→販売価格
ヘルマン・ヴァイト・ジモン(Hermann
Veit Simon)
『株式会社の貸借対照表(Die
Bilanzen der Akeiengesellschaften)』(1886年)
調達価格での評価←株式改正法が規定
→これらは満足な結果には至り得なかった
B/Sが財産の評価に役立つという考え
年次決算〜財産を確定するもの
「財産の状態(Die Lage des
Vermogens)」
×絶対価値
○相対的価値
論争の欠陥
B/Sに対して正規の簿記の原則が適用されることを見逃した
如何にしてこの原則ができたかを確かめることを考えなかった
B/S−損益計算目的
フォン・ウォルモウスキ(von
Wilmowsky)−最初の動的論者
資本勘定−財産を示すものではない
→単に投下せる価値に流出しなかった利益に加え、これから損失と資本の払い戻しを引き去ったもの
B/S−財産の概観を表すものではない
→獲得せる利益の決定、使用価値(適用×)
原価をもって評価
→評価理論はこれ以上に発展しなかった
フィッシャー(Fischer)
『貸借対照表、それはいかなるものであるか、それはいかなるものではないか』(1905−1908年)
『商法による簿記及貸借対照表』(1913年)
B/S−損益計算に役立つ(主)、財産状態を示すべきもの(従)
・
ジモン、商法の所見に反対
・
全複式簿記を損益計算
費用概念(実現学説)
B/S−その作成時になお商品や設備に含まれている費用にして損益計算の尺度に従って期間的に配分すべきものを収容したもの
価値変動−顧慮することさえされない
↓
減価償却の意義−将来の損失の予想
[.高課税の影響の下における成果貸借対照表
高い課税→経営の計算制度を不秩序にした
年次決算の重要性に関しての経営者に意識を鈍らせてきた
税金節約のために私的費用の費用化
装飾の結果−年次決算の固有の使命である識分を果たせなくなる
<参考文献>
エ・シュマーレンバッハ 訳:土岐政蔵『十二版・動的貸借対照表論』森山書店、1959年