グローバル経済と日本型会計
金融イノベーション
グローバル経済の成立が前提
制度
その土壌と不可分の関係にある
「トライアングル体制」と呼ばれた日本の会計制度の特徴
証券取引法会計が企業会計原則を通じての「実験機能」を果たして後、その成果が、商法会計と税法会計に浸透して、均衡状態に達していたことを意味する
日本の経理近代化の出発点
1930年:商工省「標準貸借対照表」
「財務諸表の検証」(1929年:米)が大きな影響
日本の企業会計の近代化
会計先進国の近代化の潮流に即して進められてきた
「製造企業―株式会社会計」としての近代会計の成立
近代会計
製造企業の利益計算
「株式会社会計」
近代の会計規制の歴史
投資家が被った損害の再発防止の歴史
個々の会計規定
過去野不正防止の蓄積物
アメリカにおける貸借対照表から損益計算書への重点移行
「内部的(経営管理的)移行」
銀行家、投資銀行家、保険外車である金融資本家は、アメリカの株式会社革命を先導したけれども、金融資本家は多くの様々な産業に関心を広げていったから、企業の日々の営業活動には関心がなかった。そこで管理者が、この機能を引き受けるために任命されたのである。
専門的管理者は、意思決定するにあたって、会計、統計、経済的データを頼りにする専門家であった。彼は自らの業績に責任を持たされ、競争が過激であったから、営業活動の収益性を将来の活動の指針としてテストする必要があり、原価・収益データを使ってそれを行なったのである。
「外部的移行」
純粋な金融業者にとって興味のある唯一の数値がこの抽象的な数値なのである。と言うのは、彼は企業をただの収益の源泉と考えているからである。彼がより大きな影響力をもつようになればなるほど、企業については、利益だけが考慮されるようになるのである。貸借対照表を貸借対照表作成日における企業財産の瞬間図像とみた、いわゆる「静的」貸借対照表観が、貸借対照表の目的を利益算定とみる、いわゆる「動的」観によって交替されたのである。
アメリカの経済
「競争的経営者資本主義」
市場シェアをめぐって職能および戦略の両面において競争しつづけた
ドイツの経済
「協調的経営者資本主義」
市場シェアを維持するためにお互いに協定を結ぶことを好んだ
→大陸法とアングロ・サクソン法との間の根本的な法制度的な差異
「英米モデル」と「大陸モデル」
会計の類型
「英米モデル」
「大陸モデル」
「南米モデル」
「混合経済モデル」
「国際基準モデル」
「共産主義国における会計」
英米モデル
イギリス、アメリカ、およびオランダはこのクラスターの中で主導的役割を果たしている。これらの国の会計は投資者および債権者の意思決定ニーズを指向している。そして国内には、企業が巨額の資金を調達できる大規模でかつ発達した証券市場がある。
大陸モデル
このクラスターに含まれる国は、ヨーロッパ大陸のほとんどの国と日本である。個々では企業が大変密接に銀行と結びついており、銀行がほとんどの資金需要を満たしている。財務会計はその性質が法律施行的であり、実務は極めて保守的傾向にある。会計の主要目的は資金提供者の意思決定ニーズには向けられていない。
アングロサクソンの経済
歴史的にも「市場中心型」
市場による競争を解して、結果的に全体の効率性ないし繁栄がもたらされるという思想
ドイツ経済
国民経済全体の効率性ないし繁栄のための調整を市場を介することなく、より直接的に規制等に織り込んでいこうとする思想
企業会計の「英米モデル」と「大陸モデル」の差異
経済およびその基礎にある思想の相違に起因
「アングロサクソン型資本主義」
アメリカ経済
短期収益、株主、個人の成功が優先
「株主が所有し、自由に処理する単なる商品」
「利益を得る」というはっきり特定された機能
「市場中心経済」
「ライン型資本主義」
ドイツのほか、ライン川流域の諸国および日本
長期的な配慮と、資本と労働を結びつける社会共同体としての企業の優先
株主の利益だけでなく、国民経済発展のための用具として位置付けられる
株主の権力と経営者の権力とのバランスが取れ、その経営者を銀行と従業員とが選考するという、複雑な一種の共同体
「共同体中心経済」
実態維持計算
企業家自身のため、他方では国民経済における需要充足のために要請されるもの
企業ととりまく利害関係者の企業会計への関心は等閑視されている
市場指向型会計と会社規制型会計
ドイツ
会社規制を軸とした商法が中心
会計基準調和化あるいは情報提供機能拡大
商法の枠内で、年度決算書の体系に附属説明書を加える
アメリカ
証券市場規制のための会計(全米共通の規制)
会社規制型会計としての会社法会計(州ごとの規制)
ドイツ・アメリカ
会社規制型会計と市場指向型会計のいずれか一方の会計にウエイト
両者を別個の体系として有する「贅沢な」国は存在しない
日本
会社規制型会計と市場指向型会計の両方を、それぞれ商法会計と証券取引法会計として確立している
多国籍企業
本拠地国外での市場指向型会計による情報開示を積極的に受け入れ始めれば、当然、本拠地国の情報開示との差異があからさまとなり、いずれの情報が「正しい」のかという問題を喚起
ドイツの商法会計
会社規制型会計
経済的パフォーマンス表示よりも配当可能利益の算定を優先
情報提供機能の観点
アメリカ基準によるほうが、ドイツ基準によるよりも当機能がうまく達成されうるという評価
アメリカ型会計
客観化原則(信頼性)が抑制され、経済的考察法(目的適合性)をより協調したもの
ドイツ型会計
客観化原則(信頼性)が経済的考察法(目的適合性)よりも重視されるシステム
日本
利益の処分も計算確定権も株主総会にある
アメリカ
計算確定権も利益処分権も取締役会(株主にない)
決算書の株主への提出・送付についてさえ規定していなかった
アングロサクソン型
株主が所有し、自由に処理する、単なる商品
日本・ドイツ型
株主の権力と経営者の権力とのバランスがとれ、その経営者を銀行と従業員とが選考するという、複雑な一種の共同体
アメリカ企業
資本市場による直接金融中心に資金を調達
ドイツ企業
銀行を介した間接金融中心に資金を調達
市場中心思想
市場による競争によって結果的に全体の効率性および繁栄がもたらされるという思想の有無
グローバル化した金融・資本市場を利用する企業(グローバルプレイヤー)
国際的資本市場での評価、特に最も発達したアメリカの市場での評価は、企業としてのある種の世界標準での評価を意味する
日本における会社規制型会計と市場指向型会計
会社規制型会計
商法会計
市場指向型会計
証券取引法会計
→両者の調整は重要な課題であった
証券取引法会計のフィールド
連結財務諸表や中間財務諸表の導入、あるいは有価証券の時価情報の開示といった実験を行なうことができた
両体系間の相互作用と棲み分け
日本の企業会計の近代化に対して重要な役割を果たしてきた
確定決算主義
商法会計と税務計算とがリンク
開示制度としての証券取引法会計および商法会計の「足枷」
アメリカで両者が別個の体系
市場指向型会計が、直接的利害と結びつきかつ公平を旨とする税務計算とは異質の会計
税務申告に関する企業会計と税務会計との関係
(1)課税所得が、確定決算主義に基づき、商法を介して「公正なる会計慣行」に連携するという規定体系(独)
ドイツ法における基準性の原則
(2)課税所得が、直接「公正なる会計慣行」を基礎として成り立つとする規定体系(米)
我が国税制度
「混合文化型」
税法がその固有の目的を持って強制的に商法を通じて企業会計に影響を及ぼしている
現在進行中の証券取引法会計の大改革
アメリカ型会計に近似させるための改革
そもそもアメリカ型会計制度として確立されたのが、証券取引法会計
→再びアメリカ型に近似させるとはどういうこと?
商法会計
ドイツの商法会計と比較すると柔構造のもの
証券取引法会計も商法会計も
そのルーツとなった国の制度とは異質のもの
グローバリゼーションのなか
日本型制度としてのアイデンティティの認識が強く要求されている
日本の必然から生まれた日本型会計制度の分析の出発点
<参考文献>
久保田秀樹『日本型会計成立史』税務経理協会、2001年11月、P2〜19