4章 ASBの『財務報告基準書』

1.財務諸表の目的

ASBの『財務報告基準書』

財務諸表の目的

広範な利用者が経営者の受託責任を評価し、かつ、経済的意思決定を行うに際して、事業体の財務業績および財政状態に関する有用な情報を提供すること

広範な利用者のための「意思決定有用性アプローチ」を採用

受託責任・会計責任に重点

財務報告書に潜在的利害・関心を有する利用者

a)現在の投資者および潜在的投資者

b)貸付者

c)取引相手・債権者

d)従業員

e)顧客

f)政府とその機関

g)一般大衆

→『コーポレート・レポート』と類似

経済的意思決定の内容の相違によって必要とする財務情報も同一ではない

異なる意思決定には異なる情報が要求

→必要とする情報に共通性が存在

すべての情報利用者が関心のあること

事業体の財務業績と財政状態

投資者が主要な情報利用者として位置付けられている

投資者

中・長期にわたる現金創出能力と財務適応性
  ↓焦点を当てて
財務業績・財政状態を観察

投資者の関心に焦点を合わせた財務諸表

他の利用者の関心にも合致

投資者が必要とする情報

事業体の財務業績、財政状態、現金創出能力および財務適応性

「財務業績」

当該事業体が支配する経済的資源からか得する投資収益、その収益の構成要素からなる

要求する理由

a)財務業績に関する情報は、経営者の受託責任遂行を提示し、過去・将来の財務業績を評価するのに有用である

b)当該情報は、既存の経済的資源からの現金創出能力を評価し、既存資源採用と追加的資源採用の効率性を判断する際に有用である

c)当該情報は、財務業績の過去評価に関するフィードバックを提供し、したがって、将来期間に対する評価を修正したり、将来予測を展開するのに役立つ

「財政状態」

事業体が支配する経済的資源、財務構造、流動性・支払能力、リスク管理アプローチ、企業環境変更への適応能力を含む

どのように現金を創出・利用するかに関する情報

財務業績にかかる追加的予測を提供

「現金の創出・利用」に関する情報

(イ)流動性・支払能力

(ロ)利益とキャッシュ・フローの関連

(ハ)現在の財務業績の将来キャッシュ・フローへの影響

(二)財務適応性について過去の評価を再評価・再検討する際に有用

→有用

・営業活動に伴うリスクを軽減することに役立つ

・事業体が予測しなかった投資後期を生かすことも可能

財務適応性を備える資産

流動性が高い

→流動性が低い資産よりも収益性が低くなってしまう

財務諸表の固有の限界

→克服のため

財務諸表以外に付随情報を提供することが必要

2.報告事業体

財務諸表作成の正当性

財務諸表が提示する情報に対して、政党の要求が存在するか

・提示される情報は有用か

・提供のコストよりも便益の方が大きいか

報告事業体の範囲の画定

アカウンタビリティ

事業体の資産に対する支配

直接支配

資産から生ずる将来の経済的便益を排他的に獲得する権利を有すること

間接支配

ある事業体を支配することにより、当該事業体が直接支配する資産を支配すること

→親会社は子会社の活動・資源を間接支配する

直接支配および間接支配を基準

→支配事業体・被支配事業体およびそれらのすべての活動・資源からなる報告事業体(企業集団)

支配

株式所有や議決権等(法的根拠)

+支配の行使・事実

→判断

・保有する個々の権利、便益のインフロー・アウトフロー、リスクに対する開示が手助け

・他の事業体の営業方針・財務方針を予め決定して、その事業体から便益を得るとともにリスクに対する開示を受ければ→支配は存在

経営を区別する必要

支配

支配事業体自身のために行うもの

経営

相手先被支配事業体のために行うもの

3.財務諸表の質的特徴

SP草案2

有用性に必要不可欠な基本特徴

・目的適合性

・信頼性

補完する副次的特徴

・比較可能性

・理解可能性

+α 識閾特性としての「重要性」

財務情報が目的適合的かつ信頼できるものであるものであれば、それは比較可能性を向上させ、合理的に勤勉な利用者には理解可能

SPFR

有用性を構成する質的特徴

目的適合性・信頼性・比較可能性・理解可能性

→同等に配列

目的適合性の構成要件

側面の選択性→削除

信頼性の構成要素

実質優先主義・適正な記述測定

→表現の忠実性・重大な誤謬の排除

比較可能性の構成要素

会計基準準拠性→廃棄

理解可能性の構成要素

表示

→集約と分類

(1)目的適合性

情報利用者の経済的意思決定を左右し得る可能性のこと

目的適合的な情報

予測価値

ある情報が利用者にとって過去、現在および将来の事象を評価・査定するのに役立つ

確認価値

利用者にとって過去の評価・査定を確認・修正するのに役立つ

財務諸表における情報を利用する能力

→情報が表示される方法により高められる

(2)信頼性

信頼性の付与

a)情報内容が忠実に表示されている場合

b)情報に意図的変更・構造的変更がない場合

c)情報に重大な誤謬がない場合

d)情報が重要性の範囲内で完全である場合

e)不確実な状況下で財務諸表を作成するにあたって、必要な判断を行使し、必要な見積りを行うのに相当な注意を払われる場合

a)表現の中立性(b)中立性(c)完全性および重大な誤謬の排除(d)慎重性

(3)比較可能性

当該事業体の財務業績・財政状態の傾向を識別するために異なる会計期間またはある時点間における類似の情報を比較し得ること、および当該事業体と他の事業体の財務業績・財政状態を相対評価するために他の事業体に関する類似の情報と比較し得ること

「継続性」と「会計方針の開示」の組み合わせを通じて達成

(4)理解可能性

利用者が財務諸表による情報の意味内容を読み取ることが出来ること

理解可能であるか否か

a)取引の他の事象の結果が項目化され、集約され、分類される方法

b)情報の表示方法

c)利用者の能力

利用者固有の特性と情報固有の特性との連結環

(5)重要性

結果として出された情報の内容が財務諸表に盛り込まれるだけの意味があるか否かを問う最終テスト

財務諸表に計上されるすべての情報に要求される識閾特性

4.財務諸表の構成要素

貸借対照表・・・資産・負債・所有主持分

損益計算書および他の財務業績計算書・・・利得・損失・所有主からの拠出・所有主への分配

SPFR

資産負債アプローチを採用

資産の本質

将来の経済的便益

負債

経済的便益の引渡義務

所有主持分

資産と負債の差額

利得・損失

所有主持分の増加・減少

資産

SFAC6

過去の取引または事象の結果として、ある特定の事業体が取得または支配している将来の経済的便益

IASCフレームワーク

過去の事象の結果として特定の事業体が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該事業体に流入すると期待される資源

SPFR

過去の取引または事象の結果として、ある事業体が支配している将来の経済的便益に対する権利またはその他の手段

それ自体が財産項目ではなく

当該財産項目から派生した将来の経済的便益に対する権利またはその他の手段

将来の経済的便益

最終的には、当該事業体に正味キャッシュ・インフロー

項目

a)現金

b)債権、投資およびこれらに類似する資産

c)将来の用益のための外部への支払

d)将来の経済的便益に対する手段を提供するその他の資産

資産性の要件

・特定の事業体の支配

・過去の取引・事象の結果

負債

SFAC6

過去の取引または事象の結果として、ある事業体が将来において他の事業体に対して資産を引き渡す、あるいは用益を提供する現在の義務から生じる、発声の可能性の高い将来の経済的便益の犠牲

IASCフレームワーク

過去の事象から発生した特定事業体の現在の義務であり、これを履行するためには経済的便益を有する資源が当該事業体から流入すると予想されるもの

SPFR

過去の取引または事象の結果として、当該事業体が経済的便益を引き渡すべき義務

負債の要件

過去の取引・事象の結果

所有主持分

当該事業体のすべての資産からすべての負債を控除した残余金額

利得と損失

利得

所有主からの拠出以外の所有主持分の増加

損失

所有主への分配以外の所有主持分の減少

所有主からの拠出および所有主への分配

所有主からの拠出

所有主としての資格により結果として所有主から引き渡された所有主持分の増加

所有主への分配

所有主としての資格により結果として所有主へ引き渡された所有主持分の減少

ex)配当の支払、資本の払戻

7.財務諸表における認識

認識

経済的事象のうちどれを会計的に測定の対象とするかを識別するプロセス

認識規準(SPER

資産・負債が生じたという十分な証拠と測定の信頼性

認識過程の段階

     当初認識

     その後の再測定

     認識の中止

(1)認識過程

事象

・「取引」

一般的な原因

・取引以外の事象

発見・成熟・採掘・イノベーションによる新資産の創造、時効などの義務の執行による負債の消滅など

「取引」または「取引以外の事象」によって報告事業体の資産・負債に与える影響

→認識過程における出発点

他の構成要素における永久的な変動の影響

→資産・負債

不確実性の存在

認識が遅れることがある

企業環境

不確実性の連続

→認識は許容可能である不確実性の範囲で行われることが必要

(2)当初認識

二つの不確実性

・構成要素の不確実性

・測定の不確実性

構成要素の不確実性

a)潜在的な資産・負債が生じる事象により提供される証拠

b)類似項目の過去の経験

c)潜在的な資産・負債に直接関連する現在の情報

d)類似資産・負債における他の事業体による取引から提供される証拠

測定の不確実性

(1)ある項目に適用される測定基準を適切に選択

(2)当該貨幣額を十分な信頼性を持って測定

慎重性の要求

資産・利得

a)存在に関するより確証的な証拠
b)測定のより高い信頼性

(3)認識の中止

資産

費消・引渡し・処分・期限の到来など

負債

決済・消滅・引渡し・期限の到来など

不確実性があるとき

十分な証拠が存在するまで認識の中止は行わない

・資産

存在に関するより確定的な証拠
測定のより高い信頼性

(4)収益の認識

対応(二つの形態)

a)時の経過に伴い認識するもの

b)利得の認識期間において関連支出を損失として認識するもの

6.財務諸表における測定

測定

会計的に認識された経済的取引・事象に金額を割り当てるプロセス

測定の過程(SPFR

「当初認識における測定」

「その後の再測定」

(1)測定基礎の選択

資産・負債

異なる貨幣属性

資産〜取得原価、再調達原価、正味実現可能価額

負債〜取得原価、最も経済的な手段により解除できる原価または類似の負債証券の発行により調達できる金額

貨幣的属性を区別する特徴

時価or取得原価

「単一測定基準」

取得原価または時価が単一的に適用

「混合測定システム」

該当する資産・負債の性質に応じて「取得原価と時価の混合」による測定が容認

SPFR〜混合測定システムを採用

(2)時価の選択

資産の時価

受入価値、払出価値、利用価値

→時価の選択が重要

時価の選択

時価基準の目的適合性を最大とするもの

  ↓

事業体がある資産を喪失した時に被るであろう損失を反映する時価

→「喪失価値」(「企業にとっての価値」)

「企業にとっての価値」の基本ルール

再調達原価と回収可能価額のうち、いずれか低い金額

負債の評価

「解除価値」

事業体が負債を破棄できる最低の金額、すなわち負債が決済される最も低い金額

(3)測定プロセス

@当初認識における測定

公正価値

取得時における資産または負債の時価と等しいから

Aその後の再測定

純粋な取得原価主義

→再測定の段階はない

時価主義

a)当該資産・負債の金額が変動した十分な証拠があり
b)十分な信頼性をもって測定
→最新の時価により再測定

特定のカテゴリーの資産・負債について測定基準を選択

a)財務諸表の目的と財務情報の質的特徴、とりわけ目的適合性と信頼性
b)関連する資産・負債の本質
c)関与している特定の状況に注意を払って
→最も適切な基準を選択

時価に基く測定値

取得原価による測定値よりも信頼性が乏しい
見積りの要素がほとんどない

(4)資本維持修正と価格変動

事業体の資本

所有主持分の貨幣金額として定義

名目金額により測定

個別価格変動

→報告利益と財政状態に重要な影響を及ぼす

ASB

購買力資本維持概念、実体資本維持概念の必要性

7.財務情報の表示

(1)財務諸表における情報の表示

情報の表示の目的

明瞭かつ効果的に、「目的適合性」あるいは「信頼性」を喪失せず、財務諸表の長さを不必要に増やすことなしにできるだけ簡潔・直接的な方法で伝達すること

情報の表示

高度な説明性・簡潔性・抽象化・集約化が含まれている

多量の詳細な情報

→メッセージを不明瞭にする

高度に構築・集約されたプロセスが整然と遂行される場合

a)そうでなければ不明瞭となったであろう情報を伝達
b)一般に最も重要な項目および当該項目環の関連を強調
c)異なる報告事業体の財務諸表環の比較可能性を容易にする
d)情報利用者にとってより理解可能
→結果として情報に精通できる

類似性あるいは関連性を強調する方法で財務諸表の中で表示される

財務諸表の焦点

事業体の「現金創出能力」、「財務適応性」

・財務業績

損益計算書、総認識利得損失計算書

・財政状態

貸借対照表

・キャッシュインフロー・キャッシュアウトフロー

キャッシュフロー計算書

・一連の補足開示情報

注記

(イ)主要財務諸表で認識される項目に関するより詳細な情報
(ロ)主要財務諸表で認識される項目に対する状況あるいは別の観点の情報
(ハ)例えば不確実性のために本体に組み込むことが出来ない情報を提供することによって、全体として統合されている

注記による情報の開示

認識の代用ではない

虚偽表示を訂正するものではない

脱漏を正当化するものではない

財務情報の内容

P105 図44

米国のSFAC5号の模倣

(2)優良表示

優良表示

財務諸表の主要なメッセージが明瞭・効果的に、かつ、可能な限り簡潔・直接的な方法で伝達することを保証する

→損益計算書、総認識利得損失計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書、注記が必要

@財務業績計算書

報告事業体の財務業績の構成要素

性質、原因、機能、相対的な連続性あるいは反復性、安定性、リスク、予測可能性、信頼性
  ↑
財務業績へ評価に対して目的適合性を有し、財務業績計算書において報告される

財務業績情報の優良表示

a)財務業績計算書において利得・損失のみを認識すること
b)製造、販売・一般管理のような機能および人件費・支払利息のような項目の性質の組み合わせにより構成要素を分類すること
c)経済状況あるいは経営活動の変化によって異なった方法で影響を受ける金額を区分すること
d)(@)過年度の経験あるいは将来の予測により判断される金額または発生が異常である項目、(A)財務費用や税金のような特殊な項目、(B)研究開発費のように主として当期よりも将来の会計期間の利益に関する項目

利得・損失

相殺されない
*(a)、(b
→相殺される

SP草案6

総認識利得損失計算書の作成
損益計算書に開示されない株主に帰属する剰余金の変動である資産再評益、外貨換算調整の変動額などが計上

FRS3

総認識利得計算書
 
従来の単一業績指標
  ↓移行
業績の重要な構成要素を強調する多元的な情報セット・アプローチ

A貸借対照表

貸借対照表

a)資産、負債および余裕主持分のみを認識・計上
b)事業体の資源構成および財務構成を描写
c)資産を機能別に区分

資産・負債

相殺してはならない

Bキャッシュ・フロー計算書

主要な源泉別に分類されたキャッシュ・インフローと主要なしと別に分類されたキャッシュ・アウトフローを表示し、営業活動・投資活動・財務活動に関する有用な情報を提供する計算書

(3)補足情報

補足情報

財務諸表と同様の目的

異なる種類の情報

a)事業体の活動を記述・解説する叙述的ディスクロージャー
b)過年度実績の要約および数年間の傾向の情報
c)非会計情報・非財務情報
d)財務諸表本体への計上には適当であるとみなされない革新的あるいは試験的ディスクロージャー

財務諸表における情報と首尾一貫しない補足情報はない

ex

5年間の傾向についての情報、営業・財務概況、取締役報告書および会長陳述書

(4)概況および要約指標

有意義な分析または慎重な意思決定のための基礎を提供できない

概況および要約指標

a)売上高や配当金の額のような非常に基本的な情報のみしか必要としない利用者

b)財務情報のすべてについて詳細な評価を推し進める利用者

→有用

8.他の事業体における持分に対する会計処理

財務諸表

他の事業体における報告事業体の持分の財務業績・財政状態に関する影響を反映する必要

支配

(1)経済資源を配備する能力

(2)配備された資源から便益を得る

被投資者に対する「影響力の度合い」の分類

a)支配

b)結合支配

c)重要な影響

d)重要でない影響、無影響

 

<参考文献>

菊谷正人『国際的会計概念フレームワークの構築』同文館、20024