第1章 ASSCの『コーポレート・レポート』
会社報告書の目的と情報利用者
ASSCが目標とする会社報告書
経済組織体の経済活動が最も完全に描写されるすべての種類の情報を包含する報告書
英国における会社報告書
焦点
株主と債権者の利用のための測定と情報
現状
(a)公表財務諸表
取締役報告書、貸借対照表、損益計算書、注記から構成
(b)インフレーションの影響
公表財務諸表は取得原価数値
(c)財務的に数量化できる項目および事象のみ
(d)分配可能利益を強調
(e)株主および債権者の財務上の請求権に関心
↓
欠陥
(a)短期利益の極大化
(b)多くの不確実性を条件としている
→確定的な利益として示されている
(c)情報利用者が企業の業績を短期利益に基いて評価
→経営者も長期的よりも短期的な業績を重視
(d)所有主以外のその他の利用者グループに対する責任を隠蔽している
↓
検討
(1)財務情報を公表すべき経済組織体の種類
(2)財務情報の主要な利用者およびそのニーズ
(3)利用者のニーズに対処できる報告書の様式
つまり
→利用者のニーズを識別し、会社報告書の基本目的を達成するためには、誰が、なぜ、どの利用者に対して開は報告書を公表すべきであるかを決定する必要がある
↓
意思決定有用性アプローチの採用
報告責任を負う経済的事業体(『コーポレート・レポート』)
中央政府、地方自治体、組合、非法人企業、有限責任会社、非営利企業
企業←経済的重要性は恣意的→判断基準
(1)上場会社
(2)連結ベースで下記のいずれかを満たす
・平均500名以上の従業員がいる
・平均して投下資本が200万ポンドを超える
・総売上あるいは収益が500万ポンドを越える
説明・報告責任の対象範囲
社会一般にまで拡張した「公共的アカウンタビリティ」という概念を導入
「アカウンタビリティ概念の空間的拡充」
企業が社会的存在となった段階における企業の社会的責任
公共的アカウンタビリティの履行
会社報告書
可能な限り情報利用者のそれぞれの情報ニーズに対処できるように作成されるべきであり、一般目的報告書によってすべての利用者のすべての情報ニーズを満たすことは実践不可能
問題
利用者グループの利害が衝突した場合のグループの優先順位
会社報告書における質的特徴
会社報告書の基本目的
合理的な権利を有する利用者に対して、報告事業体の資源と業績に関する経済的な測定値および情報を伝達すること
特徴
(a)目的適合性
(b)理解可能性
(c)信頼性
(d)完全性
(e)客観性
(f)適時性
(g)比較可能性
会計情報の有用性(AAA):『基礎的会計理論』(ASOBAT)
4つの基本的基準
目的適合性、検証可能性、普遍性、量的表現可能性
5つの会計情報伝達の指針
予期された利用に対する適合性、重要な関係の開示、環境的情報の付記、事業体内部・相互間の実務の統一性、会計実務の期間的継続性
カースバーグ=ホウプ=スケィペンズの会計規準のランキング(1974)
(1)理解可能性
(2)目的適合性
(3)公正性
(4)測定の統一
(5)客観性
(6)保守主義あるいは慎重性
SFAC2号『会計情報の質的特徴』(1980.5)
「理解可能性」、「有用性」、「目的適合性」、「信頼性」、「適時性」、「検証可能性」、「公正性」、「比較可能性」、「開示の経済性」、「中立性」、「重要性」
会計情報の質的特徴を階層化
会計報告書の種類(『コーポレート・レポート』)
損益計算書
業績の測定、資本維持と利益分配可能性の測定
貸借対照表
使用資本の金額・源泉およびその処分の分析
資金計算書
資金の源泉と運用を示すこと
+α 下記の情報、計算書の提供を勧告
(a)付加価値計算書
企業努力による利益を従業員、資本提供者、国家および再投資にいかに割り当てたかを示す計算書
(b)雇用報告書
生計を企業に依存する労働力の規模と構成、従業員の労働貢献度および稼得利益を示す報告書
(c)政府との貨幣取引明細書
企業と国家との間の財務的関係を示す明細書
(d)外貨建取引明細書
(e)将来予測説明書
将来の利益、雇用および投資水準等を示す説明書
(f)会社目的説明書
経営方針、中期経営戦略を示す説明書
・
公害対策費用等の社会費用を内部費用化する社会責任会計
・
地域別・業種別セグメント情報
→SSAP25号『セグメント別報告』(1990.6)
・
会長報告書、代表取締役による説明書の作成
→会社法により義務づけられた
・
環境報告書
→一部自主的に作成・公表
認識および測定の概念フレームワーク
利益算定
「発生主義」と「慎重性」:相反する概念
SSAP25号:慎重性概念を優先
コーポレート・レポート:↑に批判的
慎重性の概念
・事業体の経済的安定性・脆弱性の評価に関心がある債権者にとっては有用
・業績の測定に興味がある投資者にはあまり有用ではない
発生概念
収益・費用の対応関係
→密接に係る測定基準
取得原価主義(価格変動時)
・
同一価格水準での費用・収益対応計算は不可能
・
貸借対照表上の会計数値の同質性が阻害
測定基準についての検討
(1)取得原価主義
@取得原価法
長所:実務上の適用が容易、客観性
短所:インフレ状況下では、情報利用者のニーズを満たさない
A現在購買力基準
現在購買力基準
取得原価を一般物価指数によって修正
長所:事業体に投資された購買力の維持を可能
短所:当該価格が現在購買力とは著しく乖離している特定財貨を取り扱っている事業体にとっては、ほとんど目的適合性がない
(2)時価主義
@再調達原価法
利益
実現収益と費用財の現在原価の差額として測定
長所:物的資産あるいは営業能力の維持を達成できるので、外部利用者・内部管理者にとって企業維持に関する有用な測定値を提示することができる
短所:十分に開発された会計と経営所の資源が要求される
A正味実現可能価額法
利益
純資産の変動額に等しい
長所:資源を将来において再配分する報告事業体の能力を評価するという利用者ニーズに有用
短所:適正な市場を前提、在庫水準を増減させることによって評価を操作する余地
B正味現在価値基準
長所:報告される価値と富の経済的定義を調和させる魅力を有している
短所:将来キャッシュ・フローの額・タイミング、割引要素の決定等に実務的困難性が伴う
C企業にとっての価値基準
多様な時価システムの最良の特徴を利用する利点
『コーポレート・レポート』
企業にとっての価値基準に好意的
多欄式表示の利用
利益・業績および財政状態に対する一つ以上の数値を付与することが提唱
ASOBATが提案した多欄式報告書
表1−1 P32
短期的
取得原価とインフレ修正原価を核とする多欄式報告書
基本的・長期的
時価情報も含む多欄式報告書を提唱
<参考文献>
菊谷正人『国際的会計概念フレームワークの構築』同文館、2002年4月