第2章 ICASの『マクモニーズ・レポート』
情報利用者と情報ニーズ
『マクモニーズ・レポート』
会社報告書の外部利用者
投資者、資金貸付者、従業員、取引業者の4グループに限定
アナリスト、アドバイザー、政府、一般大衆を除外
外部利用者グループの基本的情報ニーズ
(a)会社目的を知り、その目的に対する業績を評価すること
(b)前期と比較できるような現在の富の合計およびその変動額の理由を知ること
(c)将来における事業展開およびそのために必要な財務的資源・その他の資源を判断すること
(d)過去・現在・将来の経済的環境に関する適切な情報を持つこと
(e)所有関係と支配および取締役・役員の経験・経歴を知ること
+α
(@)直近の会計期間の実際の業績、および事前に公表された当該期間の計画との比較
(A)実際の業績および計画の重要な相違に関する経営者の説明
(B)現在及び将来の会計期間に対する経営者の財務計画、およびそれを作成する際に用いた主要な前提の説明
受託責任に係る投資者の利害を満足
(a)・(B)・(c)および(@)・(A)
投資者の将来の利害を充足
(c)・(d)および(B)
会社報告書は将来の業績に関して予測できるように十分な量的・質的情報を提示しなければならない
将来に関する予測の付与
→正確性を犠牲
→有用性を増加
より広範な情報の外部開示の効益
@ 利用できる情報が多ければ多いほど、流付される情報が多方面であれば多方面であるほど、インサイダーが自らの利益のために情報を利用する傾向は少なくなる
A 市場に利用可能な情報の量と質を高めることにより、市場の効率性に役立ち、当該事業体の評価を改善できる
B 投資者による経営者の統制および彼らの意思決定が改善される
C 投資者は事業体の過去・現在・将来に関する判断を行うが、それらの判断の基礎となる強固な基盤が提供される
D 将来指向的なスタンスを取る事業体の評判が高められる
経営者の情報ニーズ(内部情報利用者としての経営者)
事業体の目的を効率的に達成できる現在・将来の情報を必要
→外部利用者の基本的情報ニーズと基本的に同じ
財務諸表の問題点
貸借対照表・・・原価、再評価額および修正数値の寄せ集め
損益計算書・・・財務的富の変動を省略
→実現的な損益を提供していない
双方に役立つ基本的会計報告書
資産負債計算書
操業計算書
財務的富変動計算書
利益処分計算書
+α
会社目的説明書
3年間の財務計画、将来キャッシュ・フロー予測の開示
会社報告書の種類
(1)基本的計算書
@資産負債計算書(表2−1)
資産負債計算書
貸借対照表日における資産と負債を正味実現可能価額で評価した計算書
目的
正味実現可能資産の合計を示すとともに市場資本価額をも追加表示し、当該差額を明確にすること
市場資本価額
外部的に検証可能な将来キャッシュ・フロー予測値
利点
市場価値に基いているので、企業合併等の際に、現行の貸借対照表よりは利益操作の余地が少ない
資産の混成的性質
→定期的な再評価
価値基礎
単一的に正味実現可能価額
A操業計算書(表2−2)
操業計算書
売買および操業によって増加した財務的富を計算する報告書
損益計算書との相違点
(a)減価償却費がない
(b)棚卸資産が正味実現可能価額で計上される
(c)固定資産の例外的または異常な利得・損失
B財務的富変動計算書(表2−3)
財務的富変動計算書
当該期間における企業価値の変動を示す計算書
インフレ時
期首の純資産額に小売物価指数を適用
C利益処分計算書
利益処分計算書
配当に関する状況を示す計算書
測定基礎
正味実現可能価額
インフレ時
期首の株主拠出資本価値に小売物価指数を適用したインフレ修正
『マクモニーズ・レポート』
「意思決定有用性アプローチ」を採用
単一の測定基礎として正味実現可能価額に基く4種類の基本計算書の作成
(2)追加的計算書・情報
キャッシュ・フロー計算書、セグメント別計算書
(a)関連当事者に関する情報
(b)不確実性を免れない会計領域に関する情報
(c)適切なイノベーションに関する報告書
(d)研究・開発の有効性・先行時間に関する情報
(e)経済的環境に関する情報
(f)比較操業統計値
(g)人的資源に関する情報
(h)所有関係、経営者および彼等の責任に関する情報
測定の概念フレームワーク
測定基礎
単一的に正味実現可能価額
→『コーポレート・レポート』の「企業にとっての価値」は拒否
測定基礎の採用判定基準
「加法性」、「現実性」
→正味実現可能価額
「加法性」
計算書の数値が加算される場合、その数値のすべてが、それ自体に付与される数値のそれぞれと同じ意味を持つ合計額であるということ
「現実性」
計算書の数値が理性のある熟練した人々の間で広範に異なるのではなく、熟練を要する意見の範囲に収束される事実に類似している
検討
取得原価
異なる日の貨幣→加法性×
過去の金額は現在の経済的事実を示さない→現実性×
⇒不適当
再調達原価
加法性○
現実性○
問題
技術変化がある場合、再調達が予定されていない場合
⇒△
現在価値
加法性○
計算上の不確実性・主観性→×
⇒×
正味実現可能価額
加法性○
現実性○
問題
処分の困難な特殊な設備・機材
⇒△
⇒加法性、現実性を満たすのは
再調達原価、正味実現可能価額
再調達原価 ×
理由
(a)資産は取り替えられるという仮定
(b)技術改善がある場合、再調達原価の評価に重大な実践上の問題
(c)恣意的な減価償却費計算という原価配分が、直要求されている
(d)再調達原価は、原価に基く測度であり、価値を表現していない
(e)再調達原価は、経営者が行う資産取替決定や価格設定といった特殊なケースのみに有用
正味実現可能価額 ○
メリット
(a)正味実現可能価額は、市場で容易に観察でき、客観的である
(b)正味実現可能科学は、投資者・その他の利用者にとって容易に理解可能な価値である
(c)正味実現可能価額を用いれば、減価償却のような恣意的な意思決定が回避される
(d)正味実現可能価額による会計数値は、事業体の全体価値の指標であり、前述したように、市場資本価額を同時に開示すれば、企業評価にとって有効である
(e)正味実現可能価額による情報は、流動性の評価や事業体の潜在的対応能力の測度にとって目的適合的
(f)正味実現可能価額を採用すれば、異なる事業体の財務諸表の比較可能性がより一層高まる
(g)正味実現可能価額を利用すれば、資産購入時点の相違による財政状態の歪曲が回避され、個別事業体の期間比較可能性がより一層高まる
『マクモニーズ・レポート』
理論的な測定基礎→徹頭徹尾、正味実現可能価額を提唱
考慮すべき点
(a)強制売却を強いられている環境でない限り、評価は通常の処分に基くべきである
(b)正味実現可能価額の利用は、資産および負債に等しく適用される
(c)処分費用に対して引当が行われるべき
(d)実現可能な限り、資産グループよりは個々の資産・負債ごとに評価されるべき
(e)正味実現可能価額の利用に懐疑的である場合には、鑑定人、建築家、競売人、損害査定人等のような専門的評価人が会計人に代わって適切に評価する
<参考文献>
菊谷正人『国際的会計概念フレームワークの構築』同文館、2002年4月