IASB「業績報告プロジェクト」の概要
業績報告プロジェクト(ASBとの共同プロジェクト)
企業の財務業績を投資家等に示す財務諸表に関するプロジェクト
*財務業績
主に損益計算書で表示される、いわゆる経営成績に近い概念
財務業績の表示方法について検討するプロジェクト
すべての認識された収益・費用を報告する計算書である単一の包括利益計算書を開発するプロジェクト
単一の包括利益計算書の表示様式
認識された費用と収益をどのような順序で分類し、表示するかについて検討
*認識と測定に関する事項は範囲外
影響を受ける可能性
損益計算書、株主持分の変動計算書、キャッシュ・フロー計算書
プロジェクトの背景
1.純利益と包括利益との乖離が拡大したこと
2.業績報告に関するさまざまな見方が顕在化してきたこと
包括利益
貸借対照表で示される純利益の期首と期末の差額
株主に対する利益処分である配当や、増資等のいわゆる資本取引を除いた、ある会計期間における純資産の差額
包括利益に含まれる項目
通常の純利益に加えて、その他有価証券の時価評価差額など、米国会計基準において「その他の包括利益」とされている項目
@包括利益には含まれるが純利益には含まれないような項目が増加
↓その結果
損益計算書と貸借対照表との間でクリーン・サープラス関係が崩れ、財務諸表がわかりにくくなってきた
A業績報告に関するさまざまな見方が顕在化
プロフォーマ利益
EBITDA
税引き後の純利益から、現金支出を伴わない減価償却費、アモチゼーション費用や、さらに法人税、金融費用を控除する前の利益
→減価償却方法等の際の影響を受けず、かつ、いわゆるキャッシュ・フローをベースとした視点から、企業の営業活動に基づく収益力をみようとしたもの
サステイナブル・インカム
純利益から一時的な損益を除いた利益
→企業が一時的に計上した損失、利益を除き、継続的に維持できる利益をもって企業の業績としてみようとする見方
包括利益の構成要素
最終行の利益の重要性は特に有用な情報ではないとの認識
各損益項目はそれぞれ利用者への情報を有しているにもかかわらず、これを一まとめにしてしまうこと
営業利益の定義の曖昧さ
各企業が一時的な損益を除いた独自の利益を定義して使用することが増加
→基準に基づいておらず規制もされていず、危惧の念を引き起こしている
包括利益計算書の様式の目的と作業原則
包括利益計算書の様式の目的
包括利益計算書の様式の目的は、包括利益とその構成項目の予想に関する予測価値を最大にするように、情報を分類、順序付け、表示することである
原則1
包括利益計算書は、用いられている総資本に対するリターンと資本に対するリターンとを区別可能とするものでなければならない
原則2
利得と損失の各項目は、将来の利益に監視ほとんど情報を提供しない場合を除き、総額で報告されねばならない
原則3
資産と負債の再測定から生じる収益と費用は、区別して表示されなければならない
原則4
包括利益計算書は、報告する期間に生じたものではない経済価値の変動による収益と費用を識別しなければならない
原則5
規定された様式に従い、禁止されたサブトータルを使用しないかぎり、包括利益計算書は次の様式に従って報告することができる
a.機能または性質により分析された企業全体に関する情報
b.事業セグメントに分けられた活動
c.経営者の決定に基づく追加的な区分
IASBの業績プロジェクトの主な特徴
(1)包括利益を最終の利益とする
包括利益計算書
従来の純利益を表示することは想定されていない
(2)表示プロジェクト
目的
包括利益を最終利益として表示する報告書において、投資家に対し、将来の企業の業績予測に役立つ指標をいかに表示するか
検討対象
×業績とは何か、いかに認識・測定されるべきか
○現行の国際会計基準で認識・測定された収益、費用等をいかに表示するか
(3)実現概念との関連
実現概念に左右されない
現行の国際会計基準により認識された損益は、実現、未実現のいかんに関わらず、損益として包括利益計算書に計上される
(4)区分表示原則
IASBの業績報告書
二つの原則により大きく区分表示されている
・営業活動と財務活動の区分
営業活動
営業活動に係るもの
*株式投資による配当収入や債権投資による利息収入などの資金運用活動が含まれる
財務活動
借入金等の資金調達活動に係る金利費用など(限定された内容)
・インカムフローズとバリュエーション・アジャストメントの区分
インカムフローズ
当期の経済活動から生じる損益
バリュエーション・アジャストメント
資産・負債の帳簿価額で表された価値の再評価から生じる損益
↓
一時的な性質を有する損益
投資家が将来の利益を予測するにあたっては、その情報価値が低い
→区分する
IASBの包括利益計算書のイメージ
P31図参照
<参考文献>
木村享司「IASB「業績報告プロジェクト」の概要」『JICPAジャーナル』No.571,FEB、2003年2月