貨幣、法律、言語
人間社会における最も基本的な基礎要因
貨幣(株式)
経済生活における生存手段
法律(コモンロー)
自己防衛力と他者への強制力
言語(英語)
知による自己の存在主張、論理の思考回路
アングロサクソンに持つイメージ
@英語による言語表現技術を巧みに操る
A株式と言う擬似貨幣を錬金術的に創造
B強者の論理に物を言わせてデファクトスタンダードという名の慣習法を乱発
ビルディング・ブロック
1.「株式市場を通じて機能するはず」のコーポレート・ガバナンス
2.「第三者であるはず」の社外取締役による業務監査制度
3.「透明性を重視するはず」の情報開示や会計制度
4.「社債のリスクを事前に探知するはず」の格付け制度
5.「客観的であるはず」のアナリストによる会社価値評価
6.「株主と役職員の利害を一致させるはず」のストックオプション制度
7.「社員の年金を有利に運用するはず」の401kプラン
株主資本主義のコーポレート・ガバナンス
@受託責任の考え方を会社法に持ち込む
A会社とは何かを問う議論を盛んに行なう
B株式市場における会社価値の評価方法を確立する
↓英米の場合
自由・平等などの自然権、民主主義、法の支配と言った根本原理に常に立ち返って議論される
日欧型資本主義
コーポラティズム(国家統制的強調主義)の色彩
アングロサクソン
狭義
英国に渡ったゲルマン民族の一派
広義
英米人全般
コーポレート・ガバナンスを形作る法律観
コモンロー
不文法体系が法の根幹
株式会社
@会社法に基づいて設立された法人企業
A出資者から独立した存在として独自の権利・義務関係を持つことが可能
B譲渡可能で有限責任の株式を出資者に対して発行する
営利追求を目的とした人人的集合体
現代の株式会社
@会社法に準拠して設立された法人企業
A譲渡可能な有価証券(株式)を発行
B株主責任は有限
C所有と経営(支配)が分離
D会社事業経営に関する経営者の裁量の範囲が大きい
E倒産しない限り永遠に存在することが仮定されている
アングロサクソン・モデル
法人擬制説の法人観がなじむ
会社は株主と一体であって、別個の法人格は便宜的な虚構として存在
契約論者(contractarian)
大陸欧州諸国
法人実在説の法人観が支配的
会社は単なる虚構ではなく実体として存在する
法人擬制説の法人観
→個人主義の考え方
法人実在説の法人観
→共同体主義の考え方
会社の法的関係(ニ側面)
@オープンな市場における第三者との取引に関わる法的関係
契約の概念
A会社と其の利害関係者との信頼に関わる法的関係
受託責任や公平性(エクイティ)の考え方
株式価値重視といったアングロサクソンの会社制度
受託者責任、エクイティの考え方、信頼と契約
→アングロサクソン固有のコモンロー体系の存在
→欧州法文化の流れ
→コモンローとシビルローとの分岐
大陸法
権威の序列
神→国王→立法権→裁判権
法
国王の意思、統治の道具
法治主義
国家権力が法を使って国を治める
英米法(法の支配)
権威の序列
神→法→国王→裁判権→立法権
大陸法
法は立法者によって制定され、裁判官がその法を適用する
英米法
裁判官が古来から存在した法を再発見し、それを判例として宣言
欧州法文化の流れ
欧州
文化的現象
ゲルマン文化とギリシャ・ローマの古典文化、さらにキリスト教思想が加わって形成された
比較法文化の観点
ゲルマン法、ローマ法、カノン法(教会裁判所の法)
大陸法体系
ローマ法、カノン法の影響が圧倒的に強い
コモンロー体系
原始ゲルマン法の影響が強い
@ローマ法を基礎とし、そこに教会裁判所法を加味した大陸法体系
A原始ゲルマン法を基礎として、そこに英国欧裁判所の判例が積みあがったコモンロー体系
大陸法
思想体系を基礎とした論理的整合性
事実関係はしばしば簡略化され、それに代わって法論理が重視され、演繹法的な問題解決
英米法
良心や社会常識と実利的な判断
具体的事実と先例に照らして帰納法的に問題解決
成文法主義
法典が法源の基礎
不文法主義
慣習や判例が法源の基礎
エクイティ(衡平法)の発生
株主資本主義
対峙:銀行資本主義、産業資本主義、国家資本主義
単に市場を通じた民間部門の資源配分や需給調節だけではなく、老後の年金問題や公害の排出問題など、従来公共部門が扱ってきた経済問題の解決を、資本市場の規律と決定に任せようという考え方
エクイティ
委託者(受益者)の権利を公平性の観点から保護するために生まれたもの
出現
社会の発展によって生じた新しい問題(不在地主の権利問題など)に対して、コモンローの厳格な訴訟方式が対応できなくなったため
*信託(trust)
土地私用における信任関係のなかで生まれたもの
エクイティの概念
有限責任という考え方も込められている
受託者責任と信任義務
アングロサクソン・モデルにおける株主資本主義
経営者資本主義に対するいわばアンチテーゼとして発展してきた
経営者資本主義
経営者専制主義ないしは企業帝国主義とみなされる企業統治形態
最近までの日本の資本主義
絶対的権力をもった独裁的経営者が、過剰なファイナンスと過大な投資によって株主資本利益(ROE)を低下させ、株主に不利益を被らせた
米国の会社法と証券関係諸法
根幹に受託者責任の考え方が貫徹
受託者が委託者の利益を重視し、委託された権限を新潮に行使するというのが原則
受託者責任
受託者は委託者の信任を受けており、委託者の最大の利益のために行動する責任を負っている
委託者に対する忠実義務、善意の管理者の注意義務
説明責任
受託者が委託者のために行動していることを申し開きする義務
プリンシパル・エージェント問題
株主と経営者の間の委託・受託関係における利益相反をめぐる問題
株主と経営者の間に情報の非対称性が存在するため、経営者が受託責任を無視して行動するといった問題
経営者に利益相反行為や怠業を起こさせる誘因
情報の非対称性と株主の集団行動の困難性
株主と経営者に関係(米会社法)
経営者の受託責任を明記するだけで詳細な規定は示さず、経営者の忠実さや善意の経営管理能力に期待
受託者責任
証券業のバックボーン
受託者責任ないし信任義務
元来信頼や信用を重視する考え方から生まれた概念
信頼(trust)
「信頼された者の善意」を前提とする行為
経済社会における信頼の利点
不確実性や煩雑さの軽減効果
株主と会社との間の関係
個別特定的ではなく包括的
株主以外の利害関係者は、自分たちの権利を守るために事前に会社との間で個別契約を締結し、それが厳格に履行されるように常に注意を払う必要があるから
プリンシパル・エージェント問題
株主と経営者との間の力関係をいかに調和させるかという問題
株主と会社の間
明確な契約関係があって然るべき?
プロの経営者の手腕に任せるべき?
シカゴ学派の「契約の束」説
会社
インプットの提供者とアウトプットの購入者との間で取り交わされる、無数の相対契約の束
会社といった特別の実体が存在するわけではなく、単に市場における契約の一形態が会社(契約の束)であるにすぎない
↓
株主
会社の所有者というよりも、単なる資本の提供者
他の利害関係者と同列
会社を設立する理由
会社形態にして市場取引を内部化したほうが、取引費用が安いため
取引費用の軽減以外には本質的な理由が存在しない
会社は誰のものか
・会社は株主の私的な所有物?→株主資本主義(英米)
・会社は社会全体の利益に貢献する公器?→利害関係者資本主義(大陸欧州)
株主の権利(シカゴ学派の考え方)
他の会社関係者への支払をすべて済ませた後の、残余価値請求権
企業会計とディスクロージャー
1973年
国際会計基準委員会(IASC)がロンドンに設立
@株主重視の姿勢
Aフロー情報よりもストック情報を重視する姿勢
B法律的な形式よりも経済的な実態を重視するという姿勢
背景
企業活動の国際化に伴う利害関係者のボーダレス化
*米国特有の契約法理の考え方
英米
税務会計と企業会計は独立に存在
米国の会社法(州法)や税法(連邦内国歳入法)
細部にわたる会計基準を定めていない
会計記録や財務諸表を含む株主向け通知書の保管と閲覧に応じる義務を定めるだけ
GAAP
「財務諸表作成において、その時点の経済社会で受け入れられる財務会計の慣行・基準・規則」を集合的に指している
経済社会の変化に応じて時々刻々変化(流動的性格)
→アングロサクソン・モデルにおけるコモンローの伝統を継承したもの
日本に押し寄せた会計ビックバン
時価評価を含めて会社価値を評価し判断する
投資の世界の問題
商法決算
会社財産の充実を目的
毎期毎期の経営成績を表示する企業会計原則とは、趣旨が大分異なる
税効果会計
企業会計と財務会計との際を項目別に認識し、企業会計に基づく財務諸表において、実際の納税額を前払い金(繰延税金資産)または未払い金(繰延税金負債)として処理すること
当期の損金として税法上認めてもらえない費用項目が存在するために、いわば一時的に余計に支払う羽目になった法人税を、企業会計上損益計算書ではなく繰延税金資産として貸借対照表に資産計上することを認める制度
インベスター・リレーションズ(IR)
IR
戦略的経営の責任であって、ファイナンス、コミュニケーション、マーケティングの原理を用いて、会社財務に関わる関係者に対する情報の流れとその内容を管理し、それによって会社価値の最大化をはかる行為
株主が本当に知りたい
利益成長力やリスクとの関連で見た株価の現在の位置
→位置判断を容易にする活動がIR
アングロサクソン・モデルでIRが発達した理由
企業が資金調達の多くを株式や社債などの直接金融手段に頼っているから
米国企業がSECに提出する開示情報
・年次報告書(様式10k)
・四半期報告書(様式10Q)
・臨時報告書(様式8k)
<参考文献>
渡部亮『アングロサクソン・モデルの本質』ダイヤモンド社、2003年2月