制度の意義
行為と制度
制度
単なる組織的構造物ではない
所与の社会において、何が、行為ないし社会関係の、適切で正当な様式、あるいは期待されている様式であると感じられるかを規定する規範的なパターン(パーソンズ)
制度的パターンの必要条件
社会成員の道徳感情による支えがあることに依存
道徳感情
幼児期に植え付けられて、パーソナリティの構造の中に深く根付いている
意識的な決定や制御の枠を越えるもの
経済活動が制度的枠組の中で具体的な姿をとるという事実
気付かれない動機がそれらの活動の成りゆきの決定に際して何らかの役割を果すこと
利己的な行動(社会的・制度的側面)
直接的に交渉を持つ他の人々の好意的な態度を享受することに依存
*最も重要な点
利己心の内容ないし目的がそれ自体社会的に形成されること
利己心の内容
大部分、明らかに社会制度をめぐって組み立てられている
制度の最も重要な機能の一つ
人間行為の広範な可能性を一つのまとまったシステムへ組織すること
「主観的な」合理性(熟慮された意思決定の水準)
制度と社会的文化の存在が、単に制約としてだけでなく、選好の形成を促し、選択のための知識の獲得を可能にするものとして感知されている
習慣
あらゆる局面の行動を完全な合理的熟慮をもっておこなうこと
関連する情報の量と計算能力の制約のために不可能
→特定の進行中の諸行為を連続的な合理的評価から切り離すためのメカニズム
⇒習慣
制度
大多数の人間に共通する確立された思考習慣
習慣が「合理的」行為とみなされる理由付け(新古典派経済学)
それを変更する「費用」が大きすぎるため
以前の何らかの合理的選択が繰り返されている
ダーウィン的な「自然淘汰」過程の成果
→日常一般の理解と矛盾
習慣の機能
日々の生活の複雑さを処理すること
習慣
大量の複雑な情報を含む全般的な合理的計算をすることなくある行為類型を維持する手段を提供
習慣の特性
完全には意識的・合理的選択と一致しない
制度とルーティン
習慣
全体としての経済の中で極めて多くのルーティン化された行動と関連している
習慣の研究が経済学にとって重要
一国民の産業上の技能
永い間に獲得され、雇用労働力を通して拡散して損実践の中に深く根付いている関連した一組の習慣からなる
労働力と事業共同体の競合する習慣と期待に基礎をおく経済進化の理論
習慣とルーティン化
知識と技能の貯蔵所の役割
ルーティン化
企業の「組織的な記憶」
ルーティン、制度及び情報
習慣とルーティン化(機能的意義)
日々の行動の複雑さに対して払う熟慮の量を削減する
制度化されたルーティンの持つ重要な機能
他の行為主体へ提供する情報に関連
ルーティンとなった行動
「習慣、協約、暗黙にあるいは合法的に支持された社会的需要ないし一致によって固定化された」一組のルールと規範を制定し再生産する
ルーティンと公式的制度
人間行為に多かれ少なかれ固定した型、あるいは境界、あるいは規制、あるいは制約を課すかたちで、事実として他の行為主体に情報を供給している
制度ないしルーティン
単純に制約ないし硬直性として作用するだけでなく、他人のありうべき行為に関して多少とも信頼できる情報を提供
→有益な役割
他人の意識的意思決定を可能にする
制度と制約の機能的役割
買い手と売り手を調整するために厳格なルールや市場の開閉に関する時間の取り決め
交差点での運転者の行為を調整するために交通信号や道路規則
ルールと制度が現存
行動のある種の性向を強化することが可能
ルーティン化された行動
人間の選好と行為に対する影響において中立的ではない
社会制度によって創り出され、広められる情報
社会的な性格をもっており、純粋に主観的なものではない
情報
ルーティン化された諸個人の集団行動によって樹立
そのような行動が広く広まり、安定的となり、定まった評価を得る
→より重要な意味をもつものとなる
制度の情報的機能を認めるため
純粋な主観主義的観点から脱却しなければならない
正統派と制度
行為が自由
習慣とルーティンに支配されており、その体制の文化や構造がしみ込んでいる
制度
社会生活の単なる境界であるよりはむしろ本質
ゲーム理論と制度
新しい動向
特殊なゲーム理論の手法を用いて制度と規範の機能を吟味する合理的選択の観念
ゲーム理論の利用
戦略を練るにあたって、様々な場合に生まれる利得が事前に知られ得ることを想定
→現実には利得は知ることができない
*事実として、「戦略的」可能性は非常に幅広く、すべての戦略を検討することや収支の分析的な比較計算は実行不可能
ゲーム理論
現実の世界における複雑さや無知の程度を考慮していない
個人やその目的と利害を外生的ないし所与と考えている
個人の目標や到達点の決定に影響を与える要因は、考慮されていない
女性
環境自体によって形作られた行為者
自主的秩序
「自主的秩序」の概念
規範および慣行はいわば自然に、諸個人の相互作用を通じて発生することがある
秩序
人々が社会生活には一定のパターンないし規則性があるがゆえに「正しい期待を形成する」ことが可能なような事態である
行動の適応
情報ないし近くの変化から生来する
個人の選考や気質の変化から生まれるのではない
人間的主体も社会制度もともに
「繰り返しおこなわれる実践のうちにまたそれを通して成立」する
何らかの秩序が、成立し、時間を通じて事故を再生産するという事実
秩序が個人の目的の反映でありとともにまたそれが個人の目標や意図を形成していることを指し示している
累積的不安定性のポテンシャル
前提
絶えず計算をし限界的な調整をおこなう主体は拒否
惰性や習慣の意義を強調
制度や習慣が進化してゆく過程
今日の状況は、選択的、強制的過程を通して、習慣的なものの見方に働きかけることによって、過去から引き継がれた見方や精神的態度を変更したり、強化したりして、明日の制度を形成する
個人の行動
集団内の仲間たちに対する慣行的関係によって拘束され、指導されるばかりでなく、この関係は制度的正確を有しているために、制度的な舞台が変わるに応じて変化する
個人行動の欲求や願望、目標や目的、方法と手段、振幅や拡散
極めて複雑で全体として不安定な正確の制度的変数の関数
過去の経済思想の偉大な異端者たち
均衡論的な理論家の強迫観念から経済学の視野を拡大することを企てている
制度的経済学の進化論的性格
消費者、企業あるいは国民経済が直面する環境
価格変動、株式市場のブームと暴落、政権交代、戦争の勃発さらには自然災害のように、急激に、時には突然に変動する
→最適で最も合理的な消費者と、最も効率的な企業や国民経済の、スムーズで漸進的なダーウィン的「自然淘汰」過程は不可能
自然的世界で遺伝子が果すのと同様の進化的役割を果すメカニズム
組織的構造、習慣およびルーティン
順応性があり、類比的に生物学の場合と同じようには突然変異をしない一方で、構造とルーティンは安定的で緩慢な性質をもち、時間をかけて重要な特徴を「伝達する」
習慣とルーティン
生き残りを可能にするだけでなく、行動パターンをひとつの制度から他の制度へ伝達することを可能にする
ジャン・バプティスト・ラマルク
変異が生じるのは、生物は新たに獲得した適応行動を遺伝によって子孫に継承させるから
社会的世界において獲得された特性は遺伝可能
ラマルク理論
社会的・経済的進化に適用できる
急激な「変異」がありうる
正統的ダーウィン生物学と違って、経済的進化はいつも漸進的であるのではない
ex)社会的・技術的文化の急速な転換が新技術やルーティンの急速な獲得を導く
人間行為の一つの特徴
目的をもった行為によって意図された帰結が達成されること
ルーティンという伝達手法を通して、また本質的に不確実な世界における他人との相互作用を通じて、全く意図されなかった結果が生じること
<参考文献>
八木紀一郎、橋本昭一、家本博一、中矢俊博『現代制度派経済学宣言』名古屋大学出版会、1997年7月
P130〜152