契約理論的企業観と代替的会計観
会計と組織の経済理論
組織(Barnard,1938, Cyert and March,1963 ,
Simon,1946,1952)
個々の経済的エージェント間の契約集合(a
set of contract)や同盟(alliance)として位置付けた
↓前提
会計とはそれらを機能させるための運営メカニズム
たいていの会計概念や会計実践は企業の契約モデルに集約されうる
ex)企業
・資本を提供する者(株主、社債権者、銀行)→配当、利息
・労働力を提供する者(従業員)→賃金
・経営手腕を提供する者(経営者)→報酬
・現金を提供する者(顧客)→役得、製品
・設備や備品を提供する者(納入業者)→現金
・公的サーヴィスを提供する者(政府)→税金
経済的エージェント
選好と行動の一致という単純な条件に従う人間あるいは組織のこと
*社会科学のモデル化
最小限度の行動の一貫性を想定しなければ困難
契約
2つ以上の経済的エージェントが互いの行動に対しなす相互の認識
会計の諸機能
会計
契約集合あるいは組織を組み立て、実行し、修正し、維持するために必要なもの
エージェントが資源の提供を義務づけられ、また、資源を受け取る権利をもつような契約
すべての資源についてインフローおよびアウトフローを測定し、記録するシステムが必要
契約
貢献を測定するメカニズムなくしては機能しえない
会計の機能(2)
会計システムが組織からの資源のアウトフローを測定し、記録し、管理する点
会計システム
流入する資源と流出する資源の因果関係を明らかにする
→全体のシステムは組織内の様々な事象の原因と結果を解き明かしている
会計の機能(3)
会計システムが資源のインフローとアウトフローに関するデータを比較して、誰が、どの程度まで契約を履行したのかを決定する点
会計の機能(4)
契約集合の組み立てないしその意地を補助すること
会計の機能(5)
少なくとも最小限度の共通認識をエージェントたちに与えること
大規模な組織においてディスクロージャーとして知られるようになったものの第1の目的
統合の試み
異なる会計観
会計の異なる側面を強調している
その仮定の特殊性とそれらが捉えようとしている現象の範囲との間でトレードオフを行っている
(1)古典的観点
(2)受託責任上の観点
(3)市場アプローチからの観点
会計
組織を運営するうえで生じる現実的な問題への解答
生産要素市場の発展
実質上は近代的な商業的ないし工業的文明の成立を意味する
特定の要素市場の発展程度
空間と時間に大いに依存する
会計システムの種類
その組織が機能する市場の程度に左右される
3つの考え方
市場発展の3つの近接したレヴェルに結び付けられる
組織の環境、規模、形態
時と空間により様々に異なっている
会計上の観点
存在しうるすべての組織形態の部分集合をその分析対象として用いている
3つの考え方の境界線
第1の境界線
所有と経営の分離
第2の境界線
所有の極めて多数のものへの分散化と個々の持分の小規模化
(1)古典的観点
3つの基本機能(計算、記録、伝達)に頼る会計観
商人
相手の大半は顧客、納入業者および少数の従業員
配慮すべき株主や監査人、あるいは経営階層を持たない
小規模で単純な組織
簿記〜契約の実行に必要な会計のすべて
(2)受託責任的観点
所有と経営の分離とともに発展
2当事者の利害についての関心が付け加えられた
組織が発展し多元的な経営層を有するようになる
→会計はその説明をする側(accountee)と説明を受ける側(accountor)の者を含むことになる
会計の受託責任的な観点の本質
会計が解決すべき問題を組織の問題としてみる点
古典的観点との相違
会計を組織問題の解決として強調する点
組織を運営する上での根本的な問題
組織の誰一人として網羅的情報のすべてを所有していないということ
エージェンシー理論
情報の非対称性と私的利益の追求が結合した差異の、その帰結を取り扱う
管理会計
受託責任問題を取り扱うために開発された会計上の工夫
簿記と管理会計
各会計モデルが支援する契約集合を実行させるのに必要なメカニズム
専門的経営者の組織に対する資源貢献は直接観察することは困難であるため
予算
組織内の各マネージャーに対する契約
大規模な組織の運営
受託責任会計という管理技術の開発なくして不可能
(3)資本市場的観点
企業持分の細分化
→パートナーシップから多数株主所有による株式会社への移行
↑
会計の他の段階への主要な出発点
多数の小規模株主からの資本調達
会計が発揮しなければならない機能を大幅に拡大させる(現代的な財務報告モデル)
会計の財務報告モデルと簿記あるいは管理会計モデルとの相違
資本市場の存在あるいは要求に対して払わなければならない追加的な注意を有する点
公開会社
会計システムに対して新たな要求
→企業経営から隔絶された投資者が会計システムに自らの利益保護を求め、契約を迫ったこと
株主
すでに自分たちの資本を会社に提供
企業内の他のエージェントによる契約不履行によって特に損害を受けやすい立場
財務報告モデル
互いを知らないもの同志の間の契約を実行させるもの
*簿記モデル、管理会計モデル
互いに直接関わりを持つ者の間の契約実効を意図
財務報告における規制や基準
会計の中心にある判断という行為に制限を設ける
会計に対して厳密さを与える
→資本市場への情報提供量を減らさざるを得なくなる
→多くの個人株主に活発に企業の業績に関する情報(財務以外の)を求めさせる
財務報告モデルの帰結
ストック変数(貸借対照表)重視からフロー変数(損益計算書、資金計算書)重視への移行
国際的には、株式の市場での取引は活発とはいえない
NY、東京、ロンドンの証券取引所で取引されている大企業に関する発見は、一概には単に普遍化できない
資産負債の市場価格による評価(時価会計)
特に価格が大幅に変動する時代に主張するものが多い
時価を用いる2つの障害
・すべての市場は程度の差はあれ不完全
時価による測定の誤差
時価の代わりに歴史的原価を用いる場合の誤差と比較考量されなければならない
・証券の評価と投資決定のためにより厳密な経済的価値を提供することから得られるベネフィット
→財務報告システムの有効性を減少させる
財務報告
会計の最も発展した、最も包括的な形態
5つの会計の機能をすべて包含
・資源のインフロー、アウトフローの測定
・契約履行に関する報告
・組織の様々な契約上の地位にかかわる費用便益情報の要素市場への提供
・情報公開による契約再交渉の対立
・情報公開による謬着状態の回避
まとめ
組織
そこへの参加を通じて利益を期待する多くの人々の間の契約集合あるいは同盟
会計
契約にかかるこうしたシステムを定義し、実行し、修正し、維持するメカニズム
組織
参加者の目標や保有している資源、およびそれらの機能する環境によってその形態が異なる
ex)企業
1.所有者あるいはパートナーシップにより経営される小規模企業
→古典的な複式簿記モデル
2.少数の所有者の下で専門的経営者により経営される非公開企業
→受託責任会計モデル
3.分散化された所有者の下で専門的経営者により経営される公開企業
→財務報告モデル
3つの会計モデルは互いに他を排除しない
受託責任モデルは簿記モデルを包含する
財務報告モデルは受託責任モデルを包含する
<参考文献>
山地秀俊、シャム・サンダー『企業会計の経済学的役割』1996年5月、中央経済社、P13〜33