戦後のアメリカ会計原則の変容
1937〜1966年の間
・職業会計士の組織化
・会計原則の確立
・会計の学問的な研究成果の発表
・会計教育の発展
・会計思想の転換
1930年代
会計原則運動(GAAPを設定するため)
→現在にいたるまでGAAPの検討が一貫して続けられている
「アメリカ会計学」の大きな特徴
会計原則の研究
アメリカ会計原則の発展
AICPA
会計実務家を通して会計実践
AAA
会計教育者を通して会計理論に影響
1936〜1964年(AAA)
4つの完結した報告書、13の補足的報告書
1936年6月
株式会社報告書に関する会計原則試案
1938年
SHM会計原則
1940年
会社会計基準序説
1941年
株式会社財務諸表の基礎をなす会計原則
1948年 ↓改訂
株式会社財務諸表の基礎をなす会計諸概念および会計処基準
1957年 ↓改訂、補充
4つの完結した報告書
AICPA
1918年
貸借対照表作成に関する標準手続
1934年
株式会社会計の監査
1936年
財務諸表の検査の改訂
1966年「基礎的会計理論」(ASOBSAT)
AAAによって「新しい会計理論」の形成を求めての試みとして公表
ディスクロージャーの観点から情報化のための会計を取り上げた
1960年代の背景
アメリカの1960年代
「ケネディ・ジョンソン政権」
ベトナム戦争の時期
アメリカ経済
1957〜1958年の不況
1960年代前半にかけて停滞
国際競争力の低下
国際収支の赤字増大傾向
↓
海外市場でのアメリカの絶対的な優位性が崩れる
→ドル防衛策の必要性
↑背景
1960年代
アメリカを中心とする国際会計基準の「統一化」の動き
不況による過剰資本
資本輸出による巨大産業の海外進出
アメリカ証券市場への流入による株式の集中化
→企業の合併運動が活発化
企業合併運動
企業倒産や粉飾・不正支出の問題が多く発生
→会計責任問題、会計基準設定機関の中立性ないし独立性
→アメリカ公表会計の制度が問題
国防費の増大
財政の悪化
物価上昇
1960年代のアメリカ経済の停滞、混迷
企業合併による複合化、多国籍化をめぐって「新しい」会計理論の形勢が求められた
↓要請を満たす試みの一つ
会計領域の拡大化
企業内容開示制度の基本目的がコンピュータの著しい発達に伴い「投資者保護機能から情報提供機能への移行」
AAA
ASOBATの公表
↓契機
1970年代後半頃
投資者保護の利害調整機能よりも情報提供機能への重点移行
→アメリカの企業内容開示制度の全面的な再検討
「ASOBAT」の内容
AAA
「株式会社報告書に関する会計原則試案(1936)」以来
投資者保護のための会計処理・報告の原則の確立に努めてきた
↓次第に
財務諸表の基礎をなす「諸概念および書基準」の策定に傾斜
↓
理論形成を整え、情報提供への根拠を支えるもの
⇒ASOBATを公表
ASOBATの主旨
(1)会計領域の拡大
(2)判断することのできる基準の確立
(3)実行可能な改善策
(4)フレームワークを提示すること
個々の実務を判断することのできる概念の基礎を確立すること
ASOBATの構成
5つの章と付録A・Bとからなる100ページの報告書
第1章「序説」
本報告書の性格・会計目的・会計領域・会計方法などの総括的な基礎
第2章「会計基準」
会計情報一般に関する統一的基礎となる諸基準および指針の提示
第3章「外部利用者のための会計情報」
会計諸基準の外部報告会計情報への適用を中心とする諸問題
第4章「内部利用者のための会計情報」
会計諸基準の内部報告情報への適用を中心とする諸問題
第5章「会計理論の拡張」
本報告書における基本的立場に立つ会計理論と会計実践の発展方向および問題点
付録A・B
時価資料入手の方法
財務諸表の例示
第1章「序説」
研究対象
外部利用者に対する経済的情報の伝達のほかに、内部経営者に対する経済的情報の伝達の問題にも言及している
利益を目的とする企業のみならず、広く個人、受託者、行政団体、慈善事業その他これに類似する経済単位の活動にも適用することを考えている
基本的な考え方
会計は「情報利用者が事情に精通して判断や意思決定を識別し、測定し、伝達するプロセス」と会計情報システムの会計として規定
会計の目的
(1)限りある資源を利用することについて意思決定を行うこと
(2)組織内にある人的資源および物的資源を効率的に指揮、統制すること
(3)資源を保全し、その管理について報告すること
(4)社会的な機能および統制を容易にすること
かかる会計理論を作る目的
会計士のとる会計方法が適切なものとして認め得るか否かを判断する基準を決めることにある
第2章「会計基準」
潜在的な会計情報を評価するにあたって使用すべき基準
(1)目的適合性
(2)検証可能性
(3)不偏性
(4)量的表現可能性
会計情報の伝達の「指針」
(1)予期された利用に対する適合性
(2)重要な関係の明示
(3)環境的情報の付記
(4)会計単位内部および相互間の実務の統一性
(5)会計実務の期間的継続性の五つの指針
第3章「外部利用者のための会計情報」
外部利用者
現在及び将来の投資者、債権者、従業員、株式取引所、政府機関、取引先その他
会計情報
財産管理について報告するための重要な手段であると同時に、外部利用者が行動する場合の不確実性を軽減するための主要な手段でもある
外部利用者のための会計情報として予測をなす適切な測定方法と定式化を報告する必要性を指摘
意思決定のための有用性からのアプローチ
計量可能な情報の提案
多元的な評価と時価との複合的な会計情報の提供
歴史的原価と時価との複合的な会計情報の提供
大きな特徴
会計領域を従来の財務会計と管理会計として区分するのではなく、両者を統合する会計情報システムの会計として考える点
第4章「内部経営管理者のための会計情報」
AAAの管理会計委員会が行った管理会計の定義を基礎(1958)
管理会計
経済主体の実際の経済資料と計画上の経済資料を処理するにあたって、合理的な経済目標を計画し、この目標を達成しようとして合目的的な意思決定を行うにあたって経営管理者を助けるために、利用目的に適合した技術および概念を適用することである
経営管理者の主要な職能
計画および統制の2つ
経営管理者の会計情報に対する要求
(1)伝統的な会計組織による方式によって提供される情報
(2)従来の方式とは別に提供される情報
第5章「会計理論の拡張」
技術の変化と人間の行動に関する知識の進歩のために、会計の範囲と方法は現に変化しつつあり、将来も変化し続けるであろう事が予想される
将来の会計に影響を及ぼす変化の生じている主要な分野
(1)意思決定プロセスに関する知識
(2)人間の行動に関する知識
(3)電子計算機の利用技術と組織設計
(4)測定技術と情報理論
最も大きな影響を与えるのは情報理論
→会計を職業として独立して仕事をするものが将来は情報諸利の専門家となるという言い方
会計専門化が現在の相対的地位を維持するため
(1)個人および組織体の要求する情報
(2)測定値が人間の行為に及ぼす影響
(3)測定技術と伝達技術の改善
の分野について研究する必要性がある
付録A「時価資料入手の方法」、付録B「財務諸表の例示」
時価資料を併記した財務諸表を示し、財務諸表の多目的の要請に対して多くの脚注を記載した財務諸表が例示
「ASOBAT」の新しい試み
(1)情報理論からのアプローチにより、有用性の概念を強調したこと
(2)将来の会計、あるべき会計の姿、むしろ会計の動向を示したこと
(3)財務会計と管理会計との統合を試み、会計情報システムの会計として認識していること
(4)物量会計をも含む多元的情報の提唱をしていること
(5)時価評価による財務諸表の提唱、すなわち、併記的、多目的な複合報告書を提唱したこと
「ASOBAT」をめぐっての評価
(1)新しい会計理論とする評価
(2)支配的な会計思想の総合とする評価
(3)財務会計情報の拡大とする評価
(4)会計方法論とする評価
(1)新しい会計理論とする評価
将来あるべき会計であると評価し、「経済社会の高度の発展段階に照応すべき会計情報の具備要件に触れ、あるいは将来会計の研究分野と会計理論の範囲を展望するなど」して、「新しい」会計理論の確立について検討
批判(ヒックス)
新報告書は会計原則を表明したものではなく、また、会計諸原則の基礎をなす構造を表明したものでない
会計実務の問題
実行するにあたっては、深刻な困難が容易に予見されうる
ASOBAT
演繹的なアプローチでの会計理論の構築
従来の機能的アプローチからの転換
(2)支配的な会計思想の総合とする評価
『会計理論および理論承認』(AAA)
10年前の支配的な思想の総合がASOBATのような文章になった
→当時の支配的な会計思想を総合した成果として評価
批判
当時のアメリカの経済的・社会的背景の中で生み出されたもの
(3)財務会計情報の拡大とする評価
財務会計情報の特質を説明しているAPB意見書第4号「企業財務諸表の基礎をなす基礎諸概念および会計原則」との比較において
(4)会計方法論とする評価
会計理論の代表的なアプローチ(『会計理論および理論承認』(AAA))
(@)古典的モデル
(A)意思決定有用性
(B)情報経済学
ASOBATが(A)に貢献
問題点と展開
「ASOBAT」
・会計のあるべき将来の姿を示す
・一つの会計理論の動向を示唆する「新しい」報告書
批判(モリソン)
3つの問題点
(@)時価による評価が健全で、しかも実行可能にすること
(A)内部経営者のための会計情報について有益な議論であることが、ここに展開されるべきではないこと
(B)将来における会計を会計情報という考え方から述べているが、この報告書とは何ら関係がなく適当でないこと
荒川邦寿教授
この“報告書”が単に企業会計の狭い枠に捕われず、“会計理論の構造改革”をはかり、会計主体の“中立化”によって無色の“情報提供機能”のみをクローズ・アップすることによって、その時価思潮の“行詰り”を打開しようとするアメリカ会計学会の“新しい傾向”の、いわば“一つの到達点”であったことを示すもの
「ASOBAT」の諸問題
(1)会計情報の開示は、会計機能の一部にすぎず、会計領域の拡大に応じて有用な情報を提供するとしているが、その奥に横たわる会計測定面への検討を試みることが必要ではないであろうか
(2)情報は「ASOBAT」のなかで述べられているように「当事者の双方によって利用されるにもかかわらず、そのうちのどちらか一方のものによってか、あるいはまたどちらか一方の利害のために作成されやすい」という情報の限界を知ること。これとの関連で、1970年代以降に展開されるアメリカの企業内容開示の三領域の「開示」の限界と問題点を配慮していくことが大切である
(3)本報告書の特徴的な会計情報システムの会計として、有用な会計情報は、時価と原価とを併記した多目的の複合報告書の提唱をしているが、時価評価への意味付け、算定方法と表示方法への難点をいかにしていくか
(4)「ASOBAT」が、1960年代当時のアメリカの経済的・社会的な背景のもとで、歴史的な意義と役割を果たした報告書である。そして、その影響力はFASB諸概念第2号「会計情報の量的特質」の「目的適合性」として継承されていること
(5)私企業と公企業を研究対象企業としているが、改めて、利益算定としての会計の本質的な意義を問うべきではないだろうか
<参考文献>
山本繁『会計基準発達史』森山書店、1990年7月